目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい/リュート


 グラッカン帝国には国民の祝日とされている日がいくつかある。最も有名なものが始祖帝の生誕日でそれと匹敵するのが今上帝陛下の生誕日。歴代の皇帝陛下の生誕日をいちいち休日にしているとそのうち毎日が休日になってしまうので、帝室関係の休日はその二つだけにするよう十数代目の皇帝陛下がそう定めたそうだ。実に聡明だなと思う。

 その他、月に一度――帝国暦は地球で用いられる太陽暦に酷似した一月三十日、一年十二ヶ月――祝日が設けられている。つまり、グラッカン帝国臣民の祝日は基本的に月に一度の『月祝い』と始祖帝の生誕日と今上帝陛下の生誕日、合わせて十四日ということになる。


「結構多いよな、祝日」

「宇宙を飛び回ってる私達にはあんま関係ないけどねぇ」

「でも、今日みたいにのんびりできる時もありますから」


 今日は帝国暦で言うところの九月の祝日。何か由来があるのかと調べてみようとしたのだが、九月第四週の週末に制定されている臣民の祝日であるということしかわからなかった。もっと深く調べれば何かわかったのかもしれないが、そこまでして調べようとは思えなかった。

 まぁ、それは良い。今重要なのは、今日がその祝日であるという事実である。今日は珍しく交易コロニーに寄港していたので、傭兵稼業もお休み。今日一日はだらだら過ごすとキャプテン権限で決定したのだ。

 それでこうしてブラックロータスの休憩スペースでだらりとしているわけだな。エルマなんてもう缶ビールを開けているからな。この呑兵衛エルフめ。


「兄さんとこは忙しい時とのんびりできる時で落差が激しいんよなぁ」

「ねー。その分手取りはとんでもないけど」

「お賃金、溜まってしまっているのですが……」


 ティーナとウィスカに挟まれて尻尾をモフられているクギが困ったような表情を浮かべている。その困った表情はモフられているからなのか、それとも給料が溜まっているからなのか……ティーナ達はともかく、クギはあまり買い物とかしないみたいだからなぁ。服とかもいつも巫女服だし。同じのを何着か持っていて、洗濯しながら着回しているらしい。ただ、あの巫女服。ヴェルザルス神聖帝国驚異のテクノロジーなのか、まったくよれたりほつれたりする気配がないんだが。


「いやー、研究員してた頃よりも遥かに給料は多いんだけど、自費で研究資材を揃えようとすると全然足りないんだよねぇ。クギくん、私に投資しないかい?」

「クルー同士の金のやり取りは基本禁止だからな。どうしても必要な場合は俺に言うように」


 もっとも、投資となるとメイの厳しい審査があるのでショーコ先生の怪しい投資はほぼ間違いなく審査を通らないと思うが。ショーコ先生もそれがわかっているのか、笑いながら肩を竦めている。


「それで、本当に今日一日ダラダラして過ごすわけ? たまの完全休養なんだからどっか連れてきなさいよー」

「せやせや、ここは兄さんの甲斐性の見せ所やでー」

「お前ら絶対タダ酒呑みたいだけじゃん……んー、まぁ別に良いけども。でも、どうせなら俺も楽しめるところに……ふむ。よし、良いだろう。メイ」

「はい、ご主人様」


 俺達の座るソファのすぐ後ろに控えていたメイに予めテキストを打ち込んだ小型情報端末の画面を見せる。


「こういう感じの条件で店を探して手配してくれ」

「承知致しました、ご主人様。この私に全てお任せ下さい」


 そう言ってメイが虚空に視線を彷徨わせ始める。メイのことだからそう時間をかけずに俺の希望に沿った手配をしてくれることだろう。


「ヒロ様……お店探し、メイさんに任せたんですか?」


 ミミが見捨てられた子犬のような視線を向けてくる。いつもはこういう店の下調べや手配はミミに任せているからな。


「完全休養なんだからたまにはミミにも楽をしてもらわないとな。それに、ミミに任せたらミミへのサプライズにならないだろ?」

「メイくんは良いのかい?」

「今回のコンセプトだとどっちにしろメイはあんまり関係ないからなぁ……でも、働いて貰った分は後で別途労わせてもらおう」

「はい、ご主人様。楽しみにさせていただきます」


 メイのその言葉と共に、俺の小型情報端末がピロン、と音を立てた。どうやらもう手配したらしい。それじゃあ動くとしようか。


 ☆★☆


「あんたねぇ……」

「ブラボー、実に良い。素晴らしい。その姿が見たかった」


 パチパチと俺が拍手する先には瀟洒なドレスに身を包んだエルマが居た。ここは俺達が滞在していた交易コロニーにある高級ホテルのレストラン。そこに男一人、女性六人、メイドロイド一人という形で席を確保し、ドレスコードがあるからと女性陣を付属の貸衣装店に放り込んだというわけだ。約束通り飯を食いに行くぞと皆を連れ出し、高級ホテルのレストランだぞーと皆を期待させ、ここドレスコードあるからと貸衣装店に放り込んだ時の皆の表情は最高だったな。

 ミミとクギ、それにウィスカは単純に嬉しそうだったが、エルマとティーナ、それにショーコ先生の三人は「騙された!」という顔をしていた。

 俺? 俺も着替えることになったけど、皆の反応を見れたから大満足だよ。これからエルマと同じように着飾った皆の姿を見られるわけだしな。衣装の窮屈さを差し引いても十分お釣りが来るね。


「あの、どうでしょう? 似合ってますか?」

「帝国風の衣装は着慣れません……」


 ミミとクギもドレス姿で現れた。ミミは胸元をしっかり隠しつつもボリュームを強調するようなデザインで、クギはスラリとした手足が大胆に露出したエルフの民族衣装風――つまりチャイナドレスっぽい衣装だ。とても素晴らしい。俺は無言でサムズアップをしてから何度も頷く。


「こういうのはうちには似合わんのにー」

「お姉ちゃんが私に似合うって言ったのと同じデザインの色違いなんだから、お姉ちゃんにも似合ってるよ」

「ウィーには似合うてもうちには似合わんのー」


 双子の妹に手を引かれながらその姉が往生際悪くぶーたれている。二人とも可愛らしいデザインのドレスだが、ウィスカの言うようにティーナにもばっちり似合っている。ティーナは可愛い系とか綺麗系のファッションにアレルギーがあるからなぁ。似合うのに。


「私みたいなのがこんな格好しても似合わないと思うんだけどねぇ……」

「そのようなことはございません。ちゃんと背筋を伸ばして、姿勢を良くすれば立派な貴婦人です」


 ティーナ以上にこういったひらひらした衣装というか、お洒落着にアレルギー体質なしょぼしょぼ顔のショーコ先生がいつも通り完全無欠な無表情のメイに背中を押されてレストランに入場してくる。うん、素晴らしい。ミミと同等レベルの胸部装甲にスラリと伸びた手足を持つショーコ先生はモデルも裸足で逃げ出すような完璧なプロポーションだと思うんだが、何故彼女はあんなに自己評価が低いのだろうか? 全く以て不思議でならないんだが、とりあえず俺がすべきことは拍手である。全員が俺の目論見通り完全におめかししてくれた。感無量だ。


「あんたも大概もの好きというか、傾いているというか……私達にこんな格好をさせるためだけにいくら使ったのよ」

「知らんな。だが皆の着飾った姿を見られて俺は大満足だ。さぁさぁお嬢様方、どうぞお席へ」

「はーい。たまにはこういうのも素敵ですね!」

「そうだろうそうだろう。たまにはパーッとやらないとな。今度から月イチの祝日はこういう感じにするか」

「あの、我が君。あまり浪費をするのは……」

「まぁまぁまぁまぁ……」


 俺を諌めようとするクギの背を押し、用意されているテーブルへとご案内する。いつもは船に引きこもりがちだし、たまにはこういう贅沢も良いだろう。何せ今日は祝日なのだから。

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