番外編4 一生の親友~岩沢先輩と広末先輩

「なぁ、達也。僕、好きな人ができたんだよ。1年の石原美佑って子なんだけどさ。話を聞いてくれないか」


 僕、岩沢純也が電話をしているのは、高校の部活の親友、広末達也だ。


僕は九十九高校吹奏楽部に所属している。

今日も、練習が始まる前の音楽室の片隅で1人、哲学の本を読んでいた。

僕は理数科だけれども、文学を読むのも好きだ。

家では理数系の勉強、放課後は部活にと忙しいが、この、読書をする、という時間は、僕にとって、かけがえのないものだった。


そうすると、同学年・打楽器担当の広末君が、

「何の本を読んでいるの?」

と、声をかけてきた。

僕は隅に配置される、打楽器の邪魔になったかと思い、

「ごめん、邪魔だった?」

と、謝る。

すると、

「邪魔じゃないよ。僕も読書が好きなんだ。良ければ話を聞かせて」

と、嬉しいことを言ってくれた。

「今日は哲学の本だよ」

と答えると、広末君は目を丸くして、

「哲学なんて流石だね」

そう僕は、進学校の九十九高校の中でも、学年1位をキープしていて、『天才』などと呼ばれてる。

なので、哲学というお堅い本を読んでいるんだろうと、広末君は思ったのだろう。

「今日は、たまたま哲学の本だけど、洋書とかも読むよ」

と、答えた。その洋書は勉強がてら英語で読んでいる、とは言わなかったけれど。

広末君と僕は文学が好きで、色々と読んだ本の感想を言い合ったり、自分が良かったと思う本を教えたりする仲となった。

名前の呼び方も、『岩沢』『達也』となっていった。僕は名前で呼ばれると照れてしまうので、苗字読みにしてもらった。

 でも、理数科にいる僕が文学なんてイメージが崩れてしまう。

 なので、達也に

 「悪いんだけど、文学の話は他の人に話さないでほしいんだ」とお願いした。

 達也は、クスクス笑い、

 「気にする事じゃないと思うけど、わかった。約束するよ」と、言ってくれた。


 3年生になった僕は部長になる。

 相変わらず読書をしているが、新入生の中にかわいい子を発見した。

 名前と出身中学はどこだろうと思い、部長の出欠確認に時に名前をインプットしようと試みる。

『石原』

『はい』

僕が見つけたかわいい子は石原だった。

僕は仮入部届に書いてある、出身中学を確認して、山野中学だという情報を得た。

そうすると、帰る方面は僕と一緒だ。

 仮入部期間は、新入生が先に帰るので一緒に帰れないが、本入部したら一緒に帰ろうと、部活の楽しみが一つ増えた。


本入部となり、駅から先に帰る石原に声をかけてみる。

「おーい」彼女は僕の方に振り向いた。

「石原は、駅の先に帰るのか?僕もその方面だから一緒に帰ろう。なかなか一緒の方面にむかう仲間がいなかったからな」

と、声をかける

「私でよければ、ご一緒させてください」

一緒に帰る事になった。


僕と石原は、自転車通学で、駅から先は縦列で走らないといけない。

でも、この先に自動販売機が置かれている場所があり、そこで立ち止まって話をしようと、試みる。

試みは成功して、これから一緒に帰る約束をした。


彼女の中学は、吹奏楽部が弱く、強豪校の九十九高校で練習をするのは辛いのではないかと心配していた。

僕も弱小中学出身で、未だについていくのに苦労しているからだ。

しかし彼女は、実力をつけるため、必死に練習を重ねている。

まだまだ下手くそだが、今後上手になる姿を見れるだろう。


それから、自動販売機の前で、石原と話をして帰る、という日々を送っている。

いじめられている話を聞いたときは、僕を頼ってほしかった。

佐久が、石原の努力を評価して、定期演奏会に1曲だけだけど演奏させると聞いたときは、嬉しかったり。

僕は1年生の時に、ステージに立てなかったから、余計だ。

数学が苦手だと聞いて、教えてあげると約束したり。

ま、これは石原が異常なまでに数学ができないので、ちょっと後悔した。


こんな毎日が続いていたが、話をしていると、かわいいのに芯がしっかりしているというか、強がりというか、別の一面も見る事ができた。

と同時に、ひたむきに練習に励めるのは、この性格があっての事なんだと思い、そんな石原に『好き』という感情が芽生えてきた。


そうなると、誰かに相談したくなる。もちろん相談相手は達也だ。

達也に電話し、石原が好きな事を話すと、達也は、

「そうだと思っていたよ。だって帰り道、『ルンルン』という感じ全開だもの」

達也には見抜かれていた様だ。

彼は、勘が鋭い。誰と誰が付き合うかも、といったら100%付き合う。

「達也だって、須田の事が好きじゃん。須田もお前の事好きだもんな。追いかけてきたのが丸見えだ」

「そうなんだよね。で、岩沢。恋なんかしている余裕あるのか?東大目指しているんだろう?」

「両立する。というか、して見せる。達也だって、大学行くんだろ?須田の事きちんとしておいた方がいいと思うけど」と言うと、達也は悲痛な声で、

「僕は大学に行けないんだ」と、ポツリと言った。

「なんで?達也成績いいし、いけるんじゃないのか?家庭の事情とかか?親に負担をかけたくないなら、奨学金制度を使うのも一つの手だよ」

僕は、事業で失敗した両親に負担をかけないよう、高校から奨学金制度を使っている。

達也は、

「そうじゃなくてね。病気で、これから病状が悪化していくから、動けなくなっていくんだって。だからさ」

僕は、頭に水をかけられたように感じた。まったく気が付かなかったからだ。

「それ、電話で話すようなことじゃないだろ。明日、帰り道で話を聞かせてくれ。絶対だからな」

「わかった」

電話は終わった。


帰り道、達也とは駅まで一緒の帰り道だ。昨日の電話で約束したことを聞く。

達也は、

「この間、2~3日休んだだろ?体調がおかしくて病院に行ったんだけど、大学病院に紹介状を書くと言われて、大学病院で精密検査を受けたんだ。

 そしたら難病だったのが判明した。

 今は動けるけど、段々動けなくなるから、定期演奏会を最後に引退しようと思っている」

「なんでそんな事、早く言ってくれなかったんだよ。僕はそんなに頼りないか?」

「ごめん。そうじゃなくて、僕自身の心の整理がつかなかったんだよ」

「そうだよな。僕も達也の立場だったらそうしたかもしれない」

達也の本当の気持ちは理解できる訳はないが、思ったことを口にした。

続けて、達也に質問した。

「須田の事はどうするんだ?教えてないんだろ」

「そうなんだけど、今度、定期演奏会の後に、1日休みの日があるだろ?須田を誘って、遊びに行って告白しようと思っている。

 将来のない男に告白されても困ってしまうと思うが、告白しないで後悔したくない」

「わかった。少しでも良い結果になるように祈っているよ。結果を教えてくれると嬉しいな」

「岩沢には知ってもらいたいから、結果を報告するよ」

会話を進めていたら、駅までついた。

達也と別れると、石原と帰る。

僕は彼女に今の気持ちを気付かれないようにするので精一杯だった。


定期演奏会に向けての厳しい練習が続く。今日は達也がドラムを叩く曲の練習日だ。

いつ聞いても惚れ惚れしてしまう。いつもは物静かな感じなのに、楽器を叩かせたら人が変わる。

でも、もう聞くことが出来なくなる。達也から音楽を奪う神様を憎んだ。

そして、どうしても達也にお願いしたいことが出来た。それは、

『何とかコンクールまで部活を続けてくれないか』だ。

達也は相当渋ったが、僕の粘り勝ちで、『医者と相談してなんとか続けられるようにするよ』と言ってくれた。

僕は、

「これで関東大会に進めるな」

と、言ったけど、達也は、

「え?全国じゃなくて」

と茶化してきた。そう、全国大会出場は九十九高校吹奏楽部の悲願だった。

「そうだね。部長の僕がそんな事言ってちゃだめだね」

2人でクスクス笑った。


1日休みの日がやってきた。

彼女も、休みの日に遊びに行く友達もいない僕は、1日休みの日は勉強漬けだ。

僕は、どうしても努力している姿を誰にも知られたくない。石原には教えたが、口止めした。でも、僕自身は天才でもなんでもなく、努力家なだけなんだけど。

達也、上手くいっているといいな。今日の分のノルマを達成した僕は、空を見上げて、そうつぶやいた。


休暇が終わり、達也と駅まで一緒に帰る。

達也は僕が聞く前に、

「先に須田に好きって言われちゃったよ」

と、耳をほんのり赤くしながら、報告してくれた。

続けて、

「病気で付き合う事はできない、と告げたんだけど、須田は『それでも構わない。両思いなのが分かって嬉しかった』と言ってくれたんだ。僕はますます須田の事が好きになったよ」と、惚気られてしまった。

僕は、

「良かったな。動けなくなったら、電話とかして付き合えばいいじゃないか」

達也は僕の言葉にびっくりしたようで、

「そういう手もあったね。須田と相談しよう」

と、ちょっと照れながらも、ニコニコしていた。


部活は相変わらず、今度はコンクールに向けて、厳しい練習の日々を送っている。


しばらくすると、石原は駅まで一人で帰る様になった。僕も同じだ。

石原が、須田に、『広末先輩と一緒に帰ったら?』と提案したそうだ。

僕も賛成して一人で帰っている。ま、駅から先は石原と帰る日々なのは変わらないけど。



僕の最後の定期演奏会もコンクールも終わった。

コンクールの結果はやはり関東大会止まりで、悲願は達成できなかった。

引退を前に、僕は達也にお礼を言った。無理させて悪かったとも。

そうすると達也は、

「岩沢。相談したいことがあるんだけど」と言ってきた。

「なに?僕が出来る事は何でもするよ」

「ありがとう。これからの僕は無茶をした反動で、歩けなくなる。だから、車いすの生活になるんだけど、校舎は対応してないだろ?だから、サポートしてほしいんだ。退学も考えたんだけど、どうしても高校は卒業したいと思っている」

僕は、無理をしてくれた達也に恩義を感じている。だから、

「僕はクラスが違うから力になれないけど、達也のクラスに、僕の中学時代の友達がいるから、そいつにお願いしておくよ」とできる事を伝えた。

達也は、

「ありがとう。僕もクラスの友達に頼んでみるよ。これで高校を卒業できそうだ」

「そうだな。一緒に卒業しよう」

2人で握手をした。達也の手に力が弱い事に、言いようのない悲しみを覚えたけれども。


部活の引退の日となった。

僕は、この日に向けて決意していた。

石原に告白すると。


「達也、聞いてくれよ。石原に振られちゃったよ。尊敬しているけど付き合えないって。悲しくてたまらない。楽しみにしていた大学生活が台無しだよ。増田と黒木と仲がいいから、どちらかが好きとかあるのかなぁ」

僕は速攻達也に電話した。

達也はため息をついて、

「ごめん。そうなるかとは思ってた。でも、彼女は誰かが好き、という訳ではなく、部活についていくのに必死で、恋愛どころじゃないんじゃないかな?」と言った。

「達也の勘は本当に当たるんだな。でもこれだけは当たってほしくなかったよ」

「僕も友人の恋を応援したかったんだけどね。ごめん」

「なんで達也が謝るんだよ。愚痴っているのは僕なのに」

「いや、なんとなく」

「達也、僕の愚痴を聞いてくれてありがとう。体力使わせてしまうからこれで切るね」

「そうしてくれるとありがたい。須田と電話するからな」

「それ、失恋した相手に言う言葉か?ま、いいけど。無理するなよ」

「あぁ」


僕は情けないことに、受験勉強に励みながらも、事あるごとに、愚痴った。

最後にはとうとう、

「頼むから、新しい恋をしてくれ」と言われてしまったけど。

 

 石原が3年生になり、僕と達也は、定期演奏会を聴きに行った。

 去年は行かなかった。

 1つ下の後輩は、ほんの数人を除いては、部長の僕が嫌になるほどやる気がなく、会いたくもなかったからな。

 本当は、前年度部長が舞台挨拶をしなくてはならないのだが、断固拒否して、プログラムを変えてもらった。

 でも、今年は違う。

 達也から、須田経由で聞いたところ、石原たちは、先輩を無視して、自分たちだけで腕が落ちないように、厳しい練習を積んでいたと言う。

 その成果を、十分に発揮した、素晴らしい演奏会だった。


コンクールの結果は、関東大会出場まで、取り戻した。去年は予選落ちだったからな。全国大会に進めなかったのは悔しいだろうが、僕は、部活に活気が戻っているのが嬉しかった。


文化祭のちょっと後、珍しく達也から連絡があった。苦笑いで、

「雅美から聞いたんだけど、石原は黒木と付き合う事になったって。増田と石原の1年後輩で、石原が大好きだった後輩とで、黒木をぶん殴ったらしい。ま、トランペットの3人組は自分の恋と言う感情に気付いたら、こうなるだろうなとは思っていたんだけどね」

僕は、なんとも言えない感じになってしまい、

「もう石原の事はあきらめているんだから、面白いからって掘り返さないでくれ。あと『雅美』ってなに?いつからそんな呼び方しているのか?何気にずるくないか?」

「いいじゃないか。僕はずっと雅美って呼びたかったんだよ。後は雅美に、僕の事を達也って呼んでほしかったんだ」

「もう勝手にしてくれ」


僕は大学生活が忙しくなり、自分から達也に電話する事は少なくなった。

反対に、達也からは電話をもらう事が多くなった。

「岩沢。雅美は僕とできるだけ一緒に居たいって、近くの国立大に志望校を変えたんだよ。そしたら、浪人になっちゃって、会えなくなったんだよ。悲しくて仕方ないよ」

と、頻繁に言ってくる。

僕は、須田が早く合格してくれないかな、と心の中で、ため息をついた。

大学生活がもう少し楽だったら、須田に勉強を教える事も出来たんだろうけど、ちょっと無理だった。

翌年、無事須田は、国立大に受かった。

僕は、心の底から喜んだ。


須田は、大学生活の合間は、ほとんど達也の家に行っていたらしい。

達也は、『石原から雅美を奪っちゃうようで悪いんだけどね』と相変わらずだ。


その後も、色々と電話がかかってくる。

例えば、

「ね、岩沢。雅美、お茶点てられるんだよ。今日ごちそうになっちゃった」とか、

「お花を習っているんだよ。部屋に活けてもらっているんだ」

とか、惚気まくりだ。


でも、少しずつ声に力が入らなくなっている。達也が少しでも長生きできるようにと、切に願う日々だった。


今日も達也から電話がかかってきた。

「なに、今日も須田の話しか?」

「雅美の事とも言えるけど、僕たち結婚することになったんだ」

僕は、驚きを隠せなかった。この状態で2人ともよく決心したな、と。

僕が驚いているのを察したのだろう。

「僕も、そんな事考えられなかった。でも、雅美が石原から言われたらしい。

『籍を入れて奥さんになっていないと、広末先輩のいざと言うときに連絡も来なければ、駆けつける事も出来ないよ』と。

確かに石原の言う通りだと思って、思い切って結婚に踏み切ったんだよ」

悲しい理由だ。でもめでたい事には変わらない。

僕は、

「達也、おめでとう。須田喜んだだろ」

「そうなんだ。結婚が決まったら、お袋が、ささやかだけど、お式をしようという話になって。

雅美は僕のためにウエディングドレスを着てくれる事になったんだ。

岩沢も誘いたいんだけど、会場が僕の部屋で、大人数入れないんだ。写真送るから見てくれよ」

 達也は、そろろろ限界なのだろう。息が切れている。

「写真楽しみにしてるからな」


写真が送られてきた、すぐ後の事だ。

達也のお母さんから電話をもらった。

「岩沢君ね。初めまして。達也の母です。達也は多分言わないと思ったので、連絡させてもらいました。達也の入院が決まりました。関西の方に就職したと聞いているのですが、なんとか達也のお見舞いにきてもらえないでしょうか」

「わかりました。都合はつけます」

僕は迷うことなく、達也のお母さんに約束した。


病室にいる達也は、起き上がることも出来なくなっていた。

なんでもっと早く会いに行かなかったのだろう。後悔で胸が締め付けられる。

達也のお母さんから連絡をもらわなかったら、僕は生きている達也に会えなかった。

僕が来ると連絡をしてくれていたのだろう。達也は、

「わざわざ来てくれて悪いな。でも、おかげで、話ができる。岩沢、僕の親友でいてくれてありがとう。岩沢とは色々話をしたよな。いい思い出だよ」

「僕の方こそありがとう。色々愚痴ったりして悪かったな。でも、達也の惚気話もさんざん聞いたから、おあいこだよな」

「そうだね」

お互い、この会話が最後だと分かってる。

達也が、

「そろそろ、ごめん。会いに来てくれて嬉しかったよ。じゃあな」

「そっか。僕も会いに来れて良かった。じゃあな」

僕は、涙を必死に堪え、背中越しに手を振って、親友に別れを告げた。


達也がとうとう旅立つ日がやってくる。

僕は、また休みを取って、見届けに来た。

心の中で、達也に声をかける。

『あの世でも幸せにな』と。

周りを見ると、須田が石原に支えられながら、必死に達也を見送っていた。

その姿を見て、本当に須田は達也の事が好きだったのだな、と切なさが心を縛ったが、須田の左手の薬指に指輪がはめられている事に気付く。

もう、これは、須田は一生誰とも結婚しないな、と、そう確信した。


大阪に帰り、仕事に戻ると、女性の先輩から声をかけられる。

「お友達をきちんと見送る事はできた?」

気を遣わせていた様だ。

「先輩が仕事を引き受けてくださったおかげです。ありがとうございました」

先輩は、

「気にしないで。お互い様よ」

と、ぎこちない笑みを返してくれた。


僕は、東大大学院をでて、関西の研究所に就職が決まった。僕がずっと受け取っていた奨学金は、先生になったりとか、僕の様に、一定の条件を満たした研究員になれば、返還を免除される。なので、僕は、研究に精をだす毎日を送っている。

僕の10歳年上の女性の先輩は、研究成果がなかなか出せずにいた。僕の書いた論文がアメリカの専門誌に掲載されたことが評価され、先輩の研究の合同研究者となった。

先輩の研究は、とても難しく、時間がかかるものだった。

未だに成果は出せていないが、実直に続けていこうと思っている。


そんな僕は、研究にひたむきな先輩を好きになっていた。

好きになったら年齢差なんて気にならない事に気付く。


僕は、思い切って先輩に告白した。

先輩は、

「10歳も年上だけどいいの?」と、聞いてきた。

僕は、

「そんな事気にしていません。先輩の研究へのひたむきさが好きになりました」

と、答えた。

先輩は、

「ありがとう。こんな私でも好きになってくれてありがとう。お付き合いしましょう、と言っても、研究でずっと一緒だものね」

と、耳まで真っ赤にして、ちょっと茶化しながらも、僕の告白を受け入れてくれた。


研究に明け暮れる毎日だが、達也の命日には、必ずお墓参りをしている。

今年も、お花と、達也が好きだったお菓子を持って、お墓に訪れた。

すると、お墓には、すでに花束が置かれていた。

その可憐な花束は多分、須田が置いていったものだろう。

僕のは隅っこの方において、達也に語り掛ける。

『達也。向こうでは楽しく過ごしているか?僕はやっと石原を卒業できたよ。本当なら電話して、ずっと惚気話をしたかったんだけどな』

『惚気話を聞かなくて済んで、ホッとするよ』

と、茶化す達也の顔が目に浮かぶ。


僕が親友とよべるのは、達也だけだった。

親友と色々な話をした日々を忘れる事はないだろう。

こんなに大切な親友がいた僕は、幸せ者だった。

そして、これからは伴侶を得て、幸せな男になる。

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