第49話 愛する人への最期のお願い

俺が病室に戻ると、美佑は疲れた顔をしていたが、

「やっぱりみんなと会うと大学時代に戻ったように感じるね」と楽しそうだった。

俺はそんな美佑に同意しながらも、休むように促す。

いつもはすぐ痛み止めの点滴をうけ眠ってしまうのだが、今は軽く興奮状態であるらしく、痛みがないようだ。

話ができるうちに話をしたいと思い、美佑の手を握りながら、ある思いを口にする。



「なぁ、美佑。俺の名前を呼んでくれよ」



美佑はちょっと驚いた様で、

「どうして?」と聞き返してきた。

それはそうだろう。

しどろもどろになりつつも理由を話す。

「だって高校時代と2人でいるときは、『すうと』とか『あなた』だろ。大学時代はみなに合わせて『黒木君』。息子の前では『お父さん』、親族といるときは『かずひとさん』だったから、美佑に『かずひと』と本名呼び捨てにされたことがなかったな、って思ってさ」


静謐な時間が流れ、美佑が口を開いた。


「かずひと、愛してる。今までありがとう」


俺は美佑の前では泣かないと決めていた。

しかし、美佑の手をしっかりと握った俺の手の上に、大粒の涙が落ちる。


「美佑、ありがとう。俺も愛してる。だから、今まで、なんて言うなよ」

美佑は、もうこの世にいない様な、儚く美しい、泣き顔で、

「そうだね。ごめん。置いて行って」

俺はとうとう美佑を泣かせてしまった。

謝りながら、美佑の頬に口づけし、涙を拭った。


これが、美佑との最後の会話になった。

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