第48話 大学時代のみんなとの思い出

って、俺と美佑の思い出ってこんなものなのか?というか、共通の話題がないと、我に返ってしまう。

付き合っているが、部活の中では距離を置いていたので、あまり共通の思い出がないのだ。

一緒の飲み会とかは頻繁にあったのだが、なるべく離れて座るようにしていて、よっぽど打ち解けた仲間と飲みに行くときに近くに座るくらい。

あとは、俺がいない美佑の飲み会はかなり不安になったりしたが、これは共通の思い出とは言えないだろう。


『やりがいはあったし、楽しかったけど、もう一回大学時代をやりたいよね。今度は数人と一緒に緩いサークルに入って、一緒に緩い練習したり、一緒にバイトしたり、もっと一緒にいられるような』と、美佑が苦笑いしながらこんな事を言うくらいだ。

俺も同意見で、やはり、美佑も俺との共通の思い出は少ないんだろうな、と思ったものだ。


健太郎が一緒だったら、また違ったんだろう、と、取り留めない考えに耽る。


ま、思い出せないものは仕方がない。明日は、他のみんなに頑張ってもらおうと、開き直ることにした。



翌日、大学の仲間がやってきた。卒業後、地方に住むことになったメンバーが多く、調整がなかなかつかず最後になったらしい。

中にはブラック企業に勤めたために精神を病み、何年も引きこもっていた奴もいた。美佑は逆に心配していたが。

あと、どうしても連絡がつかない奴が一人いた。あいつは、多分美佑が好きだったのに。

あいつとは同じトランペットを吹いていたことも要因かもしれないが、不思議と嫉妬する事はなく、大切な仲間の一人として接していた。

でも来れなくて正解だったかもしれない。今の美佑は見たくなかっただろうから――


みなの話は多岐にわたった。よく覚えているものだと感心する。


まずは俺。

パレード初体験の時に履いていた靴に、値札が付いたままだったり、

有名なクラシック音楽のフィナーレ部分が、有名ネコ型ロボットのアニメの主題歌の一部にしか聞こえないと、みなに話してひんしゅくを買っていたり、

ある特定のお菓子が好きで、そればっかり食べていたり(これは今でも好きだが)、

『ちょうちょ』という、誕生日の人をちょうちょの歌を歌いながら胴上げし、噴水に落とすというイベントがあるのだが、俺が必死に逃げていたとか、俺がやらかした話が続く。


みなで大笑いをすると、今度は美佑の番だ。

カラーガードで旗を投げる技があるのだが、いつも顔の上に落として痛そうだったり、合宿所のお風呂で派手に滑ったり、バスタオルを忘れて入ってしまい、速く上がった仲間に取りに行ってもらったり、いつも合宿の荷物が多いとみな無言で思っていたが、ある子がジャージを壊滅的に汚してしまい、美佑が貸すことになって、ジャージを2組持っていたせいであると認識したり、挙句のはてには、美佑がど田舎に住んでいて、象を飼っていると言われてみたり、と、話題は尽きない。

ただ、象の話は、新入生に向け部員紹介の冊子を作るのだが、その中に美佑と一緒に象と乗ることが出来る、とかかれ、新入生ではなく、美佑の事を気に入っていた先輩方が、その権利を10万円で買うというところまで広がっていた。

これは、俺は生暖かい目で見ていたな、と思い出す。


そして、最後には、俺を指揮者としてみな尊敬していた、という事と、

やはり、美佑が最後に吹いたソロが素晴らしくて忘れられない、という話で終わり、帰る事となった。

俺は、他の見舞客と同じように、玄関まで見送くる。

あれだけ大笑いしたのに、みなの目には悲しみの涙が浮かんでいた。

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