第47話 追憶4~最後まで一緒のステージ

一通りのイベントをクリアすると、完全オフの2月がやってくる。


美佑と俺は、大学から吹奏楽部に斡旋される『入試の監督官』というバイトを行った。

写真と受験生を照合して回るのも仕事の一部だが、身代わり受験を発見することはなかった。

美佑はそれらしい人を見つけたというけど、勇気がなくて告発できなかったそうだ。バイト失格だろう、と心のなかで突っ込みを入れた。


2・3年も同様に過ぎていった。強いてあげるとすると、

2年の時は4年生指揮者が病んでしまい、学校にすら来なくなったため、指揮者が繰り上げとなった。

俺は、指揮者になる事が決まっていたため、2年で副指揮者になってしまった。


3年の時は、一つ上の先輩方の運営が破綻していたため、音楽監修の先生から、代替わりをしろ、と告げられ、指揮者である俺もその話に巻き込まれそうになった。

どうやら、俺の一つ上の学年はダメらしい。

高校時代を思い出し、虚しいため息をついた。



美佑は、着実に実力がついてきた。トランペットから転向したのもあるのだろうか、華やかな音色だ。

トランペットより、ホルンが合っていたのだろう。

練習は嘘をつかない、と美佑を見てしみじみ思った。



4年の時は、ま、色々とあったな。神様は忙しい。

最後のサマーコンサートでソロを吹き、感無量となったり、

コンクールはやはりだめだったり。


11月の定期演奏会は、俺がこの部活で指揮をふる最後の演奏会だ。

曲は俺の好み全開で決めさせてもらったが、なんと美佑のソロが決まった。


美佑のソロは、最初どうなる事かと焦ったが、指揮者として美佑にレッスンしたら、一回でなんとかなった。

練習を重ねていくうちに手ごたえを感じ、本番では先生方を唸らせる程、上手にソロを吹ききった。

高校時代、美佑はソロを吹く事はなかった。必ず断っていたからだ。

俺は自分の事の様に嬉しかった。



こんな感じで、部活での日々は終わった。




部活は引退したが、俺と美佑は大学選抜の合同演奏会の出場が決まっていた。


俺は、指揮者として演奏会に出場する。吹奏楽が盛んな大学でも、有名な先生に指揮者指導を受けているところは少なく、他の学生指揮者とは実力が違うからだ。


本当は、クラシック音楽を演奏する3部で、と打診があったが、俺はひねくれているのか、どうしても3部が好きになれなかった。

なので、断ろうと思っていたのだが、運営に携わる俺の仲間から『1部のポップスステージで指揮をしてくれないか』と頼まれ、引き受ける事にした。

ここ数年1部のステージはお遊びみたいになっていて、嫌な感じしかしなかったが、『立て直すので協力してほしい』といわれてしまっては断れるわけがなかった。


それに、曲は選ばせてくれると言ったので、俺は最後の演奏会まで美佑と同じステージに立てる様に一計を練った。


それは、美佑が『一度は吹いてみたい』と何度も言っていた、映画音楽『ロビンフッド』の吹奏楽アレンジを選び、美佑が出場したくなるようにしたのだ。


美佑は、4年間で東京都所属の吹奏楽部の中で抜きんでるほどの実力をつけた。

指揮者推薦枠に入れて、参加できるようにしたが、美佑はあまり乗り気ではなかった。

お父さんの容態が悪かったからだ。

なので、引退したら家にいると決めていたらしい。


それでも、とお願いしたら、やっとのことで参加する事を決めてくれた。


他にも色々と増強をはかった1部のポップスステージは例年と比べ物にならないほどの出来となり、観客や運営、関係者の先生まで大絶賛だった。

美佑からは、『最後まで一緒のステージで演奏出来て嬉しかった。ありがとう』

とお礼をいわれ、色々考えた結果が報われたなと、胸が熱くなる。

後で聞いた話だが、翌年は1部参加希望者が多く、選考が大変だったらしい。


最後にいい影響を及ぼすことができて、やり切った感の中で俺の吹奏楽人生は終わった。

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