第39話 告白。美佑、健太郎と数人の交差する想い
後夜祭が終わって、健太郎と約束した場所へ向かう。
先に健太郎が来ていて、待っていてくれた。
「ごめん、遅くなって。で話って?」
と私から切り出した。
すぐに返事はなく、近くの林を吹き抜けてきた秋風をその身に受けながら、健太郎の言葉を待つ。
健太郎は、真っ直ぐ私の目を見て、
「あのさ、美佑。高校を卒業したら僕と付き合ってくれないかな」
健太郎から告白された。
でも、私は彼の気持ちにこたえられない。うつむいてしまった顔を上げる事が出来ないまま、
「ごめん、健太郎。私は……」
「……数人の事が好き?」
「―――なんでわかったの?」
うつむいた顔を上げ、健太郎に聞く。目に溢れた涙が、一筋頬に流れた。
「なんで、って。好きな人が誰を見ているのかなんてすぐわかるよ。それだけ、美佑を見つめていたんだ」と、苦しそうな顔で、告げてくれた。
私は、胸が張り裂け、悲鳴の様に健太郎に謝罪の言葉を言う。
「ごめん、健太郎。本当にごめん。女の子はみんな健太郎が好きだと答えると思うし、普通に考えたら健太郎を選ぶと思う。
でも、私は自分がなぜ数人を好きなのかわからないの」
そんな、私の話に耳を傾けてくれ、
「恋、ってそんなものなのかもしれないね。僕もなぜ美佑なのかわからないんだから」
続けて、
「でも、振ったことは気にしないで。
僕の恋は叶わなかったけど、それ以上に仲間であることが嬉しかったんだ。
これからも、仲間でい続けてくれる?」
痛々しそうな笑みでお願いされる。
「もちろん!もちろんだよ……」
私は泣きじゃくってしまった。
本当は泣きたいのは健太郎の方だと分かっていても、涙が止まらない。
健太郎は、そんな私のそばについていてくれて、こんな提案をした。
「美佑、数人に告白してみない?」と。
感情が色々な方向に流れる。戸惑いながらも、健太郎の提案を受け入れる私がいた。
「ありがとう、健太郎。私に勇気をくれて。いつも健太郎は私の事良くしてくれるね」
「あたりまえだよ。好きなんだから」
先ほどとは違い、スッキリした顔の健太郎だった。
私は決心した内容を健太郎に話す。
「明日、数人に告白してみる」
「わかった。結果を教えて。もし振られたら、数人の事をぶん殴るよ」
「あはは、ありがとう。本当にありがとう、健太郎」
お互い、かすかではあるが、笑顔で別れた。
一睡も出来なかった。
健太郎の思い、自分の決心、数人に私の事、迷惑、って言われたらどうしよう、とか。
今考えてもどうしようもない事が、ぐるぐる頭の中を行き来する。気づいたら夜が明けていた。
朝、学校に着いたら、数人のクラスに向かう。
数人を捕まえて、
「今日のお昼休み、自転車置き場に来てくれないかな」
ダメだ。数人の顔を見る事が出来ない。
二人の間に沈黙が訪れ、クラスのざわめきが遠くなる。
返事を待つ間の時間が永遠と感じていたら、数人が、
「わかった。でも、美佑、顔色悪いぞ。具合が悪いなら保健室に行った方がいいんじゃないのか?」
数人が了承と、気を遣ってくれる。けれど私は、
「大丈夫だよ。昼休みお願いね」
いう事だけ言って、クラスに戻ってしまった。
この日のお弁当の味は全く分からないまま食べ終わり、裕子に断りを入れて、自転車置き場に向かう。
木漏れ日の中、数人が待っていた。
数人に、
「ごめん、遅くなって。来てくれてありがとう」
と声をかけた。すると数人が、
「で、何の話だ?わざわざ呼び出して」
決心が揺らぎ、またも言葉を詰まらせる。
でも、健太郎にもらった勇気を捨てる訳にはいかない。
風が吹き抜けた。
私は、くらくらするような緊張を払いのけ、彼の顔を見つめる。
「あのね、数人。ずっと好きだったの。高校卒業したら付き合ってくれないかな?」
とうとう、告白する事が出来た。
でも、どうしても数人の顔が見る事ができない。
どんな表情をしているのか、確認するのが怖かった。
沈黙を打ち破るように、
数人は、私の事を抱きしめた。
数人は苦しそうに、言葉を紡ぐ。
「ごめん、美佑」
彼の言葉に、腕の中の私は、びくっと体が固まった。
「ああ、そうじゃなくて、俺の方から言うべきだった。
―――好きだ。美佑。高校卒業したら付き合おう」
「ありがとう。私の気持ちに応えてくれて。本当に嬉しい」
数人は、私の言葉に対し、熱い言葉をかけてくれる。
「俺の方こそありがとう。ずっと好きだった。
でも、美佑は健太郎が好きだと思っていたから、自分の気持ちは伝えないでいようと思っていたんだ」
お互い、速い鼓動をしっかり感じながらも、どちらかと言うともなしに、離れた。
嬉しい気持ちと、現実感のなさに足元がふわふわする。
両想いだった、という事が、段々現実だという事を実感し、お互い、涼しい風の中にも関わらず、顔から耳まで真っ赤になって見つめあっていた。
数人がいつもの涼しい顔に戻しつつも、口火を切る。
「一緒の大学に行こう。どこの大学にするかは、おいおい決めるにしても」
具体的な言葉が出てくる事に、数人らしさを感じながら、
「そうだね。一緒の大学に行けるように、受験勉強に集中するよ」
と笑顔がこぼれる。
両想いになれたことを、健太郎に話さなくてはならない。
それを数人に伝えると、
「俺から話すからいいよ」と。
数人がそう言うのと同時に、昼休みの終わりを告げる予鈴がなった。
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