第35話 健太郎と数人の謀略。またもや潰しあう

合奏の厳しさは日を追うごとに更に、厳しくなっている。

そして、曲を仕上げるために、今年も合宿を行う。

 音楽室は、みなの熱い気持ちを吸収しているのか、より熱気を放っており、汗で体が溶けてしまいそうだ。

でも気力を振り絞って、合奏に臨んでいる。

 


合宿1日目の貴重な休み時間に、健太郎と数人に呼び止められ、

「今日は、僕たちがいいというまで、起きていて」と頼まれた。

例のあれか、と思いつつも、2人に約束した。

睡眠時間が削られるのが嫌だ、と、今年も言う事が出来なかった。


練習が終わり、言葉通りに、食堂で例の行事が始まるのを待っている。

一人で待っているのが嫌だったので、百合にお願いして、3年女子を巻き添えにした。



男子部屋からガヤガヤした声が聞こえてきたが、誰が巻かれているのか、食堂からではわからない。


部屋から男子が出てきて、巻かれているのは田中君だった。


「数人!おまえ俺をだましたな!なにが、健太郎を巻こうだ。明日のトランペットパートの練習は覚悟しておけよ」と叫びながらプールサイドに運ばれていった。

私は、巻き込まれたことにげんなりしていたが、戻ってきた健太郎と数人は『してやった』感を混ぜた笑顔で帰ってきた。

私以外は、数人の笑顔は初めて見るのだろう。

他の女子は、『待っていてよかった』とちょっと本来の目的とは違った感想を言っていた。


私は今年もあきれながら、

「どうして田中君を巻くことに成功したの?」と一応、健太郎に聞いてみる。

健太郎は胸を張り、

 「僕と数人だとお互いを潰しあう事になるだろうから、早々にお互い協力する約束を交わしたんだよ。誰を巻くかは2人で決めて、僕は男子に根回しする役、数人は、『健太郎を巻くから』といううその依頼を田中にする役目にしたんだ。数人は、表情を変えないから、田中をだますには適任だったよ」

 そういいながら、2人は足取りも軽く、田中君を救出しに行った。

 「寝よっか」

 雅美に声をかける。

 「そうね……」と疲れ切った私たちは、なんとか女子部屋にたどり着き、眠りについた。


 合宿2日目。

田中君は、トランペットパートの練習を厳しくしたいのが見え見えだったが、私情を挟むことはなく、全員に対していつも通り厳しく接した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る