第34話 やっと叶った野球応援と百合への感謝

雲はなりを潜めて、どこまでも青い空が、熱い空気とともに、夏が来た事を告げている。


夏休み前には、野球部地区予選の応援が始まった。

今まで応援らしきものが全くできなかったので、今年こそは、と思っていたが、願いは通じ、3回戦まで進んだ。

野球部にとっては悔しい結果だろうが、私たちトランペットパートの3年・3人組は、やっと応援ができたのが嬉しかった。


「応援出来てよかったよね。思いは通じた、と思うよ」

と、健太郎がいつもの眩しい笑顔でこう言った。晴れ晴れとしている。

「そうだな。今までは辛かった」

と、数人が続く。

いつもの涼しい顔だが、喜んでいるのが健太郎と私にはわかる。

「本当に。一緒に応援できて嬉しかった」

私も続く。きっと顔は晴れ晴れとしているだろう。

3人で足取りも軽く、練習に向かった。

田中君も嬉しそうに指揮をしている。みな思うところは一緒だった様だ。


ただ、応援に熱が入りすぎた。

3人とも唇が疲労困憊して、合奏で『音が汚い』と田中君に注意されてしまったのはちょっと苦い記憶となってしまった。



高校最後の夏休みが始まる。


去年までは、クラスのみなは、開放的なざわめきで夏休みの予定を話していたが、今年は受験に向けて、予備校に通う人、通わない人、教室の中はピリピリしたムードで夏休みが始まる様だ。


この異様な雰囲気の中、裕子が声をかけてきた。

「美佑は、部活続けるって言ってたね。流石に受験ヤバくない?」

私は、

「確かに怖いよ。

でも、高校時代の夏休みは、人生で2度はないから、やりたいことを我慢してまで受験にかけたくないというか。まぁ、浪人は許してもらえないけど」

と、3年生になってからずっと胸にしまっておいた気持ちを話す。

「美佑がそれでいいなら、部活応援するよ。

コンクール、悔いのない結果になるように祈っているからね」

と、優しい顔で、裕子は私を激励してくれた。

「予備校、頑張ってね。力がつく様に祈っているよ」と私なりに激励した。



2人で握手した後、それぞれの夏休みが始まる。



定期演奏会が終わって、すぐ、コンクールに向けた練習が始まっていた。

3年生のコンクールメンバーは、百合を除いて全員だ。

百合は今年も降り板組のフォローに徹する。

引退とともにメンバーが入れ替わってしまうので、私たちにとって、言い方は悪いが、今年の降り板の実力は関係ない。

それでも、百合は、今後の九十九サウンドが劣化しないように、力を注ぐ事を決めていた。

並行して、コンクールメンバ―のメンタル面も気にかけて、フォローする。

みなは、そんな百合に対して、尊敬の念を抱いていた。


でも、百合だって、この部活に入った以上、演奏はしたいはずだと思い、やはり数人が一計を練った。

『コンクールを控えているが、最後の慰問演奏をして、百合にソロを吹いてもらう』と言うものだった。この提案に反対するものはおらず、百合は次期指揮者の指導のもと、練習を始める。



慰問演奏会では、百合は危なげながらも、ソロを吹き切った。演奏が終わった後、百合は、

「私にソロの機会を与えてくれてありがとう」と、涙腺を崩壊させていた。

私たちは、百合がどんな気持ちで、部員に接していてくれたのか、と胸が熱くなり、少しでも恩返しができたことを喜んだ。



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