第33話 やり切った最後の定期演奏会
梅雨入りが宣言され、定期演奏会に向けた練習も大詰めを迎えている。
去年は、梅雨を鬱々と感じていたが、今年は、定期演奏会の練習を100%の気持ちで励んでいたので、うっとおしさを感じる余裕もなかった。ただ、湿気で膨らむ髪を、毎日苦戦しながらまとめてはいるが。
定期演奏会の当日を迎える。
梅雨の晴れ間となり、私たちの日頃の練習を、空模様も認めてくれたように思えた。
とうとう幕が上がる。
ライトの下だから暑いのだろうか。それとも自身が発する熱のせいか。
練習した結果を出し切り、高揚感は最高潮を迎えた。
今年の九十九高校定期演奏会は、誰かの憧れのステージとなったのだろうか。
昔の自分の様に。
少しでもそのような人がいれば、嬉しいな、と思い、演奏会は終わった。
「演奏、楽しめた?演奏会っていいものだよね」
健太郎が、1年生の時の様に声をかけてくれる。
私は、高揚感や達成感、そして最後だったという寂寥感が混ざり、
「演奏を楽しむことができたよ。やっぱり演奏会はいいものだね。
これで最後の定期演奏会になるのは、寂しいけれどね」
1年生の時とは違った感想を伝えた。
「そうだね。最後の定期演奏会だもんね」
健太郎も達成感とさみしさと、混ざった顔で答えてくれた。
今年も、打ち上げはセミナーハウスでカレーを食べる。
部長兼パートリーダーの数人が、なぜか率先して席をとり、みなを呼び寄せた。
座ると、数人の手には、マーブルチョコとタバスコがあった。
これをどうするかは明白である。
それを見た私は、
「裏切者!数人はこんな事する人じゃないと信じていたよ」
と、激しく抗議し、健太郎も、
「人ってわからないものだね。にしても、酷くない?」と同様に抗議した。
抗議をされた数人は、いつもの涼しい顔で、
「佐久先輩が独断でやった訳ではなくて、九十九東中トランペットパートの伝統なんだよ」
と言い訳じみたことをいう。それを受けた美南は、
「確かにそうですけど、黒木先輩が受け継ぐとは思いませんでした」
と、失望した眼差しを数人に向けている。
数人はそんなみなの様子には目もくれず、
「残すなよ」
と、佐久先輩と同じセリフを言う。
みな、なんとか完食して、その後の花火とともに、打ち上げは無事終わった。
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