第32話 大好きな先輩達
卒業式となり、演奏が無事終わる。
音楽室に集まると、須藤先輩に花束を渡した。受け取った先輩は、
「みんな、素敵な音楽で私たちを送り出してくれてありがとう」
と、語りかけてくれる。
1年生も含めた5人は、須藤先輩の花が咲くような笑顔につられながらも、
「先輩に『素敵』って言っていただいて、私たちも嬉しいです」
私が代表になる形で、先輩にお礼を言った。多分、顔が嬉しさで赤くなっている事だろう。
そして、健太郎が、まぶしい笑顔で、
「須藤先輩は、これから一人暮らしになるんですよね。体調に気を付けて、新しい生活を楽しんでください」と、生徒会長らしい言葉をかけた。
須藤先輩は、東京の名門大学に合格していた。
定期演奏会を最後に引退した先輩は軒並み浪人生になっているのにも関わらずに。
私は、以前岩沢先輩が言っていた事を思い出していた。
『部活を最後まで続けた人の方が、案外受験でいい結果を出せるものだよ』と。
そんな思いに浸りながらも、胸にこみ上げるものを感じながら、
「尊敬している先輩と、一緒に楽器を吹いたのは、大切な思い出です。これからも、先輩に教えてもらったことを忘れずに練習に励みます。本当にありがとうございました」
と、自分の大切な気持ちを伝える。
須藤先輩は、私の言葉で、涙目になりつつも、
「私もいい後輩達に恵まれて嬉しかった。本当にありがとう。これから行事が続くけど、みんななら素敵な音楽を奏でる事ができると思うわ。
頑張って。今度みんなの演奏を聴きに来るからね」
とても、私たちの心を満たす言葉で返してくれる。
最後に、須藤先輩は5人みなと握手をして、クラスのお別れ会に向かった。
入学式の演奏も無事終わり、チョコキャラメルパンも味わった。
新入生の一連の行事も片付いたと思うと、すぐゴールデンウイークだ。
もちろん、私たちにとっては『ゴールデンウイーク』ではないのだが。
毎年ゴールデンウイークには先輩方が様子を見に来てくれる。
去年、ほとんど先輩方は来なかったが、今年は、佐久先輩や岩沢先輩、須藤先輩と、会いたい先輩方が勢ぞろいした。
特に岩沢先輩は、卒業から初めて顔を出してくれた。
去年来なかったのは、やはり去年の3年生のモチベーションを保つのに苦労したからだろうと、後輩を持った今の私にはわかる様な気がする。
私たちは後輩に恵まれていている、と改めて実感した。
練習が終わると、1年生に先輩方を紹介しながら、話を弾ませる時間だ。
岩沢先輩が私に、
「めげずに頑張ったんだな。おととしの卒業式が最後に聞いた演奏なんだけど、格段によくなっている、と思ったよ」と、嬉しい言葉をかけてくれる。
昨年はめげる事が多かった。なので、岩沢先輩に、胸の内を語る。
「先輩との約束を守ることが出来て安心しました。正直辛い思いをしましたが、乗り越えた姿を見せられて嬉しいです」
佐久先輩、須藤先輩も同様に声をかけてくれ、先輩方みな、定期演奏会を聴きに来ると言ってくれた。
定期演奏会で、悔いのない演奏をするためにも、練習に励まなければ、と、決意を新たにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます