第31話 2人からの大切な贈り物

雅美は、広末先輩のお家に伺ったんだよね。どうだった?」

休みの次の日に、聞いてみる。

付き合う事は断念しているが、できる範囲でお互いの気持ちを高めあっていると、雅美から聞いている。そんな雅美に、今回のお家デートは私が提案した。

「達也さんは、起き上がることはできなかったけど、私の話に耳を傾けてくれたの。辛そうになったら、休んでもらって、その間は本を読んで過ごしたわ。かけがえのない時間をもらえて嬉しかったの」

瞳を僅かにキラキラとさせ、私に話をしてくれる。

「よかったね。雅美。2人が仲良くしている話を聞くと、私も素敵な気持ちをもらっているよ」

「まあ、素敵な気持ちだなんて」

雅美は、いつもの穏やかな笑顔に赤みを添えて、嬉しそうにしていた。


部活も年納をし、元旦は、健太郎と数人と雅美と裕子で初詣だ。

私は、去年着物を着る事が出来なかったが、今年は雅美の両親が車で送迎してくれる事になり、振袖を着て参戦した。私の着物姿をみた数人は、

「馬子にも衣裳って、こういう事を言うんだな」と、

健太郎は、

「美佑って、案外着物が似合うね」

と、誉め言葉ではない言葉で、感想を言ってきた。

2人に反撃しようと構えたところに、裕子が、

「本当に3人仲がいいのね」とお腹を抱えて大爆笑だ。

裕子の裏切りに対し、

「そんなに笑っていると、着物、着崩れるよ」と報復する。

一連の会話を聞いた雅美が、

「みんな似合っている、ってことでいいんじゃないかしら」

と、その場を鎮めた。

そして5人は落ち着いた心持ちで参拝し、解散となる。

願いは、みなコンクールとか受験に関する事なのだろうな、と、現実から少し離れて、思いにふけった。


とうとうバレンタインデーがやってきた。

健太郎と数人は、昨年同様、沢山のチョコをもらっている。。

すぐに練習は始まり、相変わらずバレンタインの余韻も残さない厳しさだった。

居残り練も終わる頃に、健太郎と数人を呼び止める。

「これ、クリスマスに約束したもの。受け取ってくれる?」

と、ラッピングをしたマフラーを2人に渡した。

お揃いに見えないように、健太郎は明るめの紺色、数人には黒を選んでいる。

こんなもので、いいのだろうか。

多分、不安が顔に出ていたのだろう。

2人は受け取ると、熱を帯びた瞳で、

「「ありがとう」」と私の瞳を見つめた。

2人の眼差しに吸い込まれ、心臓がどきん、と跳ねる。

「巻いてみていい?」

健太郎は袋から取り出しながら、確認してきた。

「もちろん。数人も巻いてみてくれると嬉しい」

2人がそれぞれマフラーを巻いている姿を見て、約束を守るべく必死に編んだかいがあったな、という安堵と、喜んでもらえた事に対して、飛び上がりたくなるような嬉しさが私を満たす。

「暖かいね。大切にするよ」と健太郎が。

「こんなにいい物をもらったんだ。大切にする」と数人が。

2人は、他の女子には決して見せないであろう、はにかんだ笑顔を見せてくれ、私はその笑顔を独占した。


そうこうしているうちに、ホワイトデーもやってきた。

昨年は、ある意味実用的で嬉しい飴をもらったが、今年はどうなんだろうと、漠然と思った。

ホワイトデーなんてお構いなしに、厳しい練習が始まった。

そして、居残り練も終わると、健太郎と数人に声をかけられた。

「美佑、僕たちからバレンタインのお返し」

といい、私にプレゼントを手渡す。

ふわふわとした感触がある袋だ。

「開けてみていい?」

「もちろん」

2人に促され、私は袋を開けてみた。

そこには、私の趣味を的確に把握している手袋が入っている。細かい網目模様が編みこまれている、ちょっと大人びていて、私が探し求めているものだった。

健太郎が不安そうに、

「どう?気に入ってくれた?」

私は感激のあまり、言葉を発していないことに気付く。

「嬉しさで固まってた。私の好みに合った素敵な手袋をありがとう。大切にするね」

と、健太郎と数人のちょっと不安そうだった顔を笑顔にすべく、素直な気持ちを言葉にした。

数人がちょっとそっぽを向いて、

「ま、これで、朝練の時に真っ赤になっている手を見る事はなくなるな」と言い、

「確かに、冷たそうだったもんね」

と健太郎も、ちょっと赤くなりながら、私に語りかける。

「確かに手が冷たくて辛かったけど、好みに合うものが見つからなくて、我慢してたの。本当に素敵」

手袋をはめて、はしゃいでいる私を、2人は目を細め、口の端を丸くしながら見つめていた。

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