第30話 大好きな2人とのときめくお出かけ
期末試験も終わり、休みの日を迎える。
3人で、他愛のない話をしながら、まずは楽器屋さんに向かった。
「ありがとう、2人とも。マウスピース(楽器に刺して使う)選んでくれて」
私は、嬉しさで目が輝いているだろう笑顔で、心からのお礼を言う。
「こちらこそありがとう。3人で来たかいがあったね」
健太郎が優しい顔で、言葉を紡ぐ
数人も、
「だな。俺は先生や先輩に選んだものを使っていたから、仲間で選ぶというのも新鮮でよかった。ありがとう」
と、涼しげな顔にちょっと照れ臭さを混ぜて、健太郎に続いた。
マウスピースを買うと、デパートのレストランに向かう。昼食も兼ね、クリスマスケーキを食べに行くという予定を実行に移すべく、歩き出した。
新宿は、クリスマスが近いせいもあるのだろうか、酷い混雑だ。人の多さに酔いそうになりながらも、ぶつからないように歩く。2人は男の子なので、速足だ。時々健太郎が歩みを合わせてくれるが、ついていくのに必死だった。
デパートに着くと、入るレストランに悩みながらも、洋食のお店に入る。
注文が決まると、健太郎が数人に、いまさらながらも、
「甘いもの食べるんだ」驚いたような顔で話を振った。
数人は、意外な事を聞かれたという風に、
「甘いものは好きだぞ」と。
食べるだけではなく、好きという発言に、健太郎と私は目を丸くし、数人の意外な一面を知ったことで、口元がほころぶ。
食事が運ばれてくるまでの間、私は数人に入部してからずっと聞きたかった事があったので良い機会だと思い、話しかけた。
「数人は、佐久先輩に誘われて入ったけれど、本当は違う部活に入りたかったという事はなかった?無理やりじゃなかったのかずっと気になっていたんだよ」
私の問いを受け、数人は、
「実を言うと、テニス部に入ろうかと思っていた。でも毎年インターハイに出ているという事で、練習が厳しそうだったから、諦めて帰宅部にしようと思っていたところに、佐久先輩から勧誘された。最初は正直乗り気じゃなかったが、今は入って良かったと思っている」
と、はにかんだ笑顔で答えてくれた。私は、はじめは無理やりだったが、今は良いと言ってくれた事に喜びを隠せなかった。
ケーキも食べ、お腹が満足したら、後は遊び倒す。都庁の展望ではしゃぎ、ゲーセンではクレーンゲームで2人に色々ぬいぐるみを取ってもらった。当時プリクラがなかったのが残念だ。
「私ばかりはしゃいでいるけど、2人は楽しんでる?」
健太郎と数人は、お互い顔をあわせると、
「楽しんでるよ」
「楽しんでるぞ」
と幸せだと言わんばかりの笑みを見せてくれた。そんな2人の様子をみて、自分も幸せだという笑みで返す。
3人で、東京を満喫し、帰路に着こうとしたとき、
「ところで、美佑。そのマフラーどこで買ったの?すごくおしゃれだからさ」
と健太郎が聞いてきた。確かに健太郎はマフラーをしていない。
私はちょっとびっくりしたが、
「これは、私が編んだんだよ。なかなかいいのが見つからなかったから、自分で編めばいいじゃん、と思って」と返す。
私の返答に、健太郎と数人は口を開けて固まり、
「美佑って、そんなことができるんだね」
と、固まりを解いて、健太郎がそんなことを言ってきた。
「失礼な。私をなんだと思っているのよ……」軽く抗議をする。
確かに私は手芸が好きだ。このマフラーは真っ白で、一見飾り気はないが、縄目模様とか複雑な模様編みに仕上げた。もうちょっと抗議しようと考えていると、
「ねぇ、美佑。僕にもそのマフラーを編んでくれない?いいのが見つからなくて、仕方なくマフラーをしていないんだよ」
健太郎が、私をびっくりさせる発言をした。
間髪入れずに、数人も
「俺にも、頼む」
と言いだしてきた。
私としては、編むのは構わないし、なんなら嬉しくもあるのだが、
「女の子から、手編みの物をもらうなんて、ちょっと重くない?」
付き合ってもいないのに、尚更だ。
健太郎はいつものまぶしい笑顔で、
「他の女の子ならともかく、いつも一緒にいる美佑からもらえるのに重いとは感じないよ」と、
数人も、いつものクールな顔ながらも、
「俺もぜんぜん構わない」と2人に言い切られてしまった。
それならば、
「確かに、この毛糸は暖かいから、同じ毛糸の色違いにするよ。模様は私と一緒の模様で構わない?」と提案し、2人は同意してくれた。
健太郎が、
「毛糸代は出すからね」と言ったが、私はしばらく考えて、
「バレンタインのプレゼントにしていいかな?私は編むのは早い方だけど、部活やりながら2人分はちょっと時間がかかりそうだから」と返した。
健太郎と数人は頷きながら、
「去年のバレンタインよりは、感謝の気持ちを感じられるな」と、皮肉った。どうやら、去年の事はかなり根に持たれているらしい。
「じゃ、楽しみにしていてね」
私はそう答えると、いつ毛糸を買いに行こうか、と次の休みの予定を立てた。
電車に乗ると、急に眠気が襲ってくる。
「健太郎、数人。今日はとても楽しかった。ありがとう」
とやっとのことで言うと、眠りに落ちていく。2人の声が、遠くに聞こえる。
「美佑の眠たがりは、今日もぶれないね」
「確かに。疲れたんだろう」
「ところで、美佑が寄りかかっている席を僕に譲ってくれない?」
当時、田舎の電車はボックス席だった。
「行きに、美佑の席の隣を譲ってやっただろう」
「クッ。そこまでは読めなかった」
電車が駅に着くと、2人が私を起こしてくれたので、改めてお礼を言い、解散となった
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