第27話 ときめく修学旅行

文化祭が終わってすぐ、修学旅行だ。


九十九高校の伝統なのだが、修学旅行に行くためには、マニアックな日本史の先生が出題するテストに合格する必要がある。

行先は京都・奈良だ。その為か、お寺の名前やら、神社の名前はもちろん、『どこでどうやって知ることが出来たんだ』と言いたくなるような町のお地蔵様の名前を問われるという、レベルが高い問題が並んでいる。

もちろん、難しい漢字でも書けないと点数にならない。

過去には新幹線の中で試験を受けて、受からなかったので京都駅から東京に戻った生徒がいたという、昔はやったテレビ番組の企画そっくりな事件もあったらしい。


私と裕子は日本史で受験する予定なので、勉強にも熱が入ったが、理系の健太郎、世界史受験の数人や雅美は、『なんでなんだ』とため息をつくばかりだ。

なお、このテスト、もちろん追試があり、数人は追追試まで粘った。

私はここぞとばかりに、去年の数学追追試の意趣返しをする。

部長として出欠が取れないので、百合が代わりに行うのだが、そこで正々堂々と『追追試で遅れます』と言い放ち、遅れて部活にやってきた、悔しそうな数人の顔をニマニマしながら鑑賞してやったのだ。

それでも、みな、なんとか無事にテストに合格し、修学旅行に行けることになった。

部活で忙しい中、休みを使って鞄を買ったり、お泊りグッズを買ったりと、修学旅行に向けて慌ただしく日々が過ぎていく。



とうとう、修学旅行の日だ。東京駅に集合した生徒たちは、これからのイベントが楽しみでみな興奮しているのだろう。雑踏の中でもお互いの声が聞こえる位、声高に喋りまくっている。

そんな中、生徒会長の健太郎が、

「羽目を外さないで、学びながらも、楽しもう」

と、だけ挨拶した。女子は健太郎の挨拶に熱い視線を送っているが、男子はスルーしている様だ。ま、健太郎本人もわかっているだろうけど。

移動の際、裕子と隣同士で座り、お互いお菓子を食べながら、おしゃべりを楽しんでいる。

自由行動は裕子と、裕子の友達2人で班になった。裕子の友達とは一緒にお昼を食べているので、気心の知れた仲だ。どこに行くかはすべて裕子に任せてある。

脱線するが、裕子は京都御所に住む夢が叶ったら、私の事を『お菊』と言う名で雇ってくれると言っていた。もちろん、私の就職先は京都御所にはならなかったけれども。


自由行動で京都を満喫し、部屋のみなで夕飯を食べていると、裕子が私に、

「夜は、増田君、黒木君と一緒に自由行動するんでしょ?」と確認してきた。

「そうなの。トランペットパートの先輩、後輩へのお土産を選ぶことになっているんだ。私は女子に殺されそうだから、2人にお任せするように断ったんだけど、女子は何とかするから、一緒に選ぼうと、言い切られちゃって。私は裕子とお出かけしたかったんだけど、ごめんね」と、半分愚痴交じりで答える。

裕子は何故かニマニマしながら、

「私、夜は羅生門を読んでようと思っているんだ。京都で羅生門なんて粋でしょ?だから3人で楽しんできて」と、私の肩をぽん、と叩く。

文学少女の裕子らしいな、と思いながら、お礼を言った。



健太郎と数人とは、ロビーで待ち合わせる事になっている。私がロビーに着いたら、すでに2人とも来ていた。

「ごめん、遅かったね。お待たせしました」

と、2人に声をかけた。健太郎が、

「気にしなくていいよ。じゃ、お土産屋さんに行こうか」

と、答え、3人で夜の京都に出掛ける。


煌びやかな通りを歩き、お土産屋さんをめぐる。

時々女子の冷たい目線が気になるが、実害はないのでスルーだ。

色々目移りするなか、3人で、

「定番の生八つ橋にチョコレートのお菓子でよくない?」と結論に至った。

お菓子を選んでレジに向かおうとすると、お菓子売り場からちょっと離れた場所に、綺麗なガラス玉がついた、シンプルな簪を見つけた。

2人を呼んで、

「これ、須藤先輩へのお土産にどうかな?3人で700円位ずつ出せば買えると思うんだけど」と、提案してみる。

健太郎と数人は、

「いいね。お土産にしよう」と同意してくれた。

ガラス玉の色を選び、再びレジに向かおうとすると、健太郎が、

「レジに並ぶのは僕たちだけでいいよ。混んでるし。美佑は外で待ってて」

と、言い残しレジへ向かう。

私が店の前で待っていると、お会計を済ませた2人から、きれいな袋に入ったものを渡された。健太郎が、

「僕と数人からのプレゼントだよ。開けてみて」と促す。

開けてみると、簪が入っていた。

びっくりしていると、数人がちょっと照れ臭そうに、

「須藤先輩とお揃いにすると美佑が喜ぶだろうって、2人で選んだ」と説明してくれた。

「ありがとう。すごく嬉しい。大事にするね」

と、心の中の温かい気持ちを伝えるべく、お礼を言う。

私のお礼に2人は顔をほころばせた。

学校に戻り、須藤先輩に簪を渡して、『健太郎と数人のはからいで、私とお揃いです』と伝えたら、最初は目を丸くして、続いて花が咲くような笑みで喜んでくれた。

この簪は、今でも浴衣と一緒にしまってあって、着るときは必ず挿すようにしている。

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