第26話 文化祭で暴露されました

文化祭が始まった。今年は練習成果に手ごたえを感じ、ステージに上がる。

本番を迎えるにあたって、今までは、健太郎か数人が私のメンタル面のフォローをしてくれていたが、『もう大丈夫でしょ』と、信頼してもらえるようになった。

今年、私たちに向けてくれた拍手は、代替わりしてからの、厳しい練習が実った事を評してくれているようだ。昨年とは違い、素直な気持ちで拍手を聞くことができた。


演奏も無事終わり、この後、数人と私は化学部のお世話になる。健太郎は、生徒会室に箱詰めだ。楽器を片付けている最中、健太郎が、ふと、

「ところで須田さん(雅美)はどうしているの?」と私に聞いてきた。

「雅美は、茶道部のお手伝いだよ。彼女、師範を持っていて、茶道部で練習する必要なく、お茶をたてられるんだって」と説明し、

「後で裕子と行くことになっているから、一緒に行こう」と誘った。

健太郎はのりのりで、『時間を合わせる』と言って、一緒に行くことに同意する。数人も表情は変わらないが、同行する意思を表していた。メンバーが決まったので、私は、

「じゃ、4人分のお茶券を買っておくね」と、茶道室の方へ向かう。

茶道部のお茶体験は人気があって、早く買わないと売り切れになってしまうのだ。


「じゃ、行こうか」

健太郎が合流し、裕子は店番?を後輩に任せて、茶道室に向かった。

着くと、部員が席に案内してくれる。

席に着くと、雅美が驚いた顔で、

「みんな来てくれたのね。嬉しいわ。作法は気にせず、お抹茶楽しんでいって」

と声をかけてくれた。

雅美は和服を優雅に着こなし、見事な所作で、お茶をたてている。部員は雅美のお手伝いに徹していた。これではどちらが部員かわからない。

お抹茶は、苦みが強いが甘みも感じる。私たちはそれぞれお茶を楽しんだ。


それぞれの場所に戻るときに、須藤先輩とバッタリ会った。

「あら、2年生3人組が揃っているのね」と、須藤先輩は嬉しそうに話しかけてくれる。

裕子は、

「先に戻ってるよ」と気を利かせてくれた。

先輩と私たちで4人になると、須藤先輩が、晴れやかな笑顔で、

「今日の演奏、とても良かったわ。短期間にも関わらず、全体的に成長しているのがすごいと思う」

と、自分の事の様に喜んでくれる。『全体的』という単語に、トランペットパートだけがうまかった、という先輩の思いが詰まっている様に思えた。

ちょっと思いにふけっていると、先輩は続けて、

「さっき、美南と若菜に会ったわよ。彼女らは音楽室にいるって言っていたけど、あなた達はどこにいるの?」

まず、健太郎が、

「僕は生徒会室に缶詰です。今みたいに時々席は外していますが」と説明し、

私は、

「数人と化学室にいます。私たちはクラスの友達が化学部なので、一応お手伝いをしています」と説明した。

須藤先輩は『化学室』という単語に大笑いしている。屈託のない笑顔が見られて嬉しかった。

先輩は一頻り笑ったあと、

「じゃ、私は教室に戻るわね。今年はクラスの出し物に参加しているのよ」

と、ニコニコしてそう告げた。

須藤先輩のクラスは、軽食を売っている。お昼も近かったので、私は昼ご飯をゲットすべく、

「先輩のクラスに昼食を買いに行きたいので、教室までご一緒させてもらえないですか?」

と、お願いをして、無事ご飯にありつけた。


化学室に戻ると、石橋君が来た。数人が少し不機嫌に見えるのは気のせいだろうか。

「実験やりに来たの?」

「!石原先輩、化学室にいたんですね。嬉しいなぁ」

石橋君と数人を見た裕子は、

「新たな美佑探知機が来た」と大爆笑だ。確かに去年の文化祭も同じような事いっていたな、と、遠い目で思い出す。

「僕もここに居ていいですか?」

「裕子がいいなら、いいよ」裕子は部長だ。

裕子は『こんな面白いことは見逃せない』と言わんばかりに承諾する。

裕子に、中学時代の石橋君の話をすると、

「すごい!美佑にぞっこんなんだね。美佑の中学時代の話、聞きたいな」

なんてことを言ってきた。

「じゃ、石原先輩が、生徒会副会長や学級委員長をやってた事や、気分によって、ものすごい課題を出して、放課後生徒を帰らせないようにする、ヒステリックな先生と大立ち回りをした件や、廃部寸前の吹奏楽部を立て直した、とかいう話を詳しく説明すればいいですかね」

「うん、うん、聞きたい。あと美佑のどこが好きなのとか、も説明よろしく」

裕子はノリノリで、不機嫌だった数人も、好奇心を丸出しにして私を見つめている。

私は半分諦めたものの、

「あんまり変な事は言わないでね」と、石橋君に釘を刺したが、

「善処します」とにやにやしている。

話を聞いた裕子は、常に大笑いしていて、数人に至っては、ぼそっと、

「健太郎に教えてやろうっと」なんて言っている。

私の文化祭は終わった。


文化祭の次の日、健太郎が転がるように私のクラスにやってきて、

「美佑、生徒会副会長や学級委員長とかやってたんだね。だったら、生徒会副会長に立候補してくれればよかったのに」と、興奮しながら話しかけてきた。

「その黒歴史、数人から聞いたの?」

「うん。僕も石橋から聞きたかったな~。じゃ、授業が始まるから僕行くね」

と、言うだけ言って、颯爽と授業に向かっていった。


私は部活が始まる前に、数人を捕まえて尋問する。

私の尋問に対して、悪びれる様子もなく、

「健太郎、早速美佑の所に行ったのか……教えたかいがあったな」

なんて、言うものだから、私はあきらめて、

「被害は、健太郎までにしておいて」とため息交じりに数人にお願いをした。

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