第23話 向けられた優しさと2人の決意
今年も定期演奏会の準備が始まる。
定期演奏会には、1年生2人とも全曲演奏することになった。
私も全曲演奏することになり、願いが一つ叶って、嬉しい。
でも、手放しで喜べない。今年の定期演奏会の質が落ちるのが分かりきっている中での抜擢なので、本来の実力を評価されていないように感じるのだ。
須藤先輩は『実力で選んだ』と言ってくれているが、こびりついた思いはなかなか晴れる事がない。合奏中も、落ち込んでいるように見えたのだろう。
練習が終わると、健太郎が、
「なにか悩みがあるの」と、声をかけてくれた。
私は、健太郎の優しさに甘え、実力がないのに抜擢されたという思いが消えないことを話した。
すると健太郎は、
「美佑は自分の事卑下しすぎだよ。実力は、1年生より上だと思っているよ。本当に上達したな、と」
強豪中学から来た1年生より上という事はないだろうが、やはり嬉しい。
「ありがとう、健太郎。少し気が楽になったよ」
「それならよかった。変な事考えずに、練習をしっかりやったほうがいいからね」
「本当に、健太郎の言う通りだ……練習に励むよ」
私は、いつも健太郎に助けてもらっている。
「健太郎はいつも、私がまいっている時に声をかけてくれるね。私はそんなに気が回らないよ」
「気にしないで。僕は4人兄弟の長男なんだ。だから自ずと色々気づいちゃうんだよ」
「やっぱり長男なんだと思っていたよ。流石だね。私は1人っ子だから、つい甘えちゃう」
ありがとうと伝えると、健太郎は、いつもの輝くような笑顔ではなく、優しさに満ちた笑顔を向けてくれた。
学年が1つ上に上がったのとともに。2年生の役職も見直しが必要となっている。
田中君の副指揮者、百合の副部長に変わりはないが、百合は3年生になっても副部長のままが良いと言っているのだ。
そうなると、3年生で部長になる人物を、副部長に据えなくてはならないが、吹奏楽部の部長は、文科系部活のリーダーにもなるので、安易な人選はできない。
白羽の矢が立ったのが、健太郎と数人である。
だが、2人には思う事があるらしく、須藤先輩に相談していた。
私の所にも2人がやってきて、まず健太郎が緊張した顔つきで、
「僕は生徒会長に立候補しようと思っているんだ。練習と両立させるという条件で、須藤先輩も許可してくれたよ」
次に数人がいつも通りの涼しい顔で、
「俺は部長になろうかと思っている。健太郎と同じく、練習と両立させるという条件で須藤先輩も許可してくれた」
と、私に報告してくれた。
私は、一抹の不安を感じながらも、
「須藤先輩が許可したなら、私に異論はないよ。2人とも生徒会長や部長の役目をしっかり果たせると思う」
と2人を激励する。
健太郎と数人はほっとしたようで、それぞれ私にお礼を言ってくれた。
こうして、健太郎は選挙で勝って生徒会長になり、数人は副部長(部長)になったのである。
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