第22話 美佑の事が大好きな後輩

新入生の仮入部の時期がやってきた。


同じ中学出身の後輩が多分入部してきて、私に話をするだろうという事に不安を抱いていた。


そして、その不安は的中する。

音楽室に響き渡る声で、

「石原先輩!お久しぶりです!約束通り、九十九高校に来ましたよ!先輩は、彼氏を作らず僕の事をまっていてくれましたか?」

石橋君だ。

彼は、『石原先輩が好き』と公言していて、それを受けた私は『後輩以上に思えない』と伝え、押し問答が繰り広げられていた。

タイミングも悪かった。

百合が1年生に説明をしようとしていた時だったのだ。

百合は、氷のような目で私を見つめている。

「ご、ご、ごめん、百合。こ、こ、これから、注意してくる」

動転した私は、なんとか百合に謝る。

私たちは、下の名前で呼び合う関係になっていたが、今はそれどころではない。

大慌てで、彼を廊下に引きずっていく。


上機嫌な彼を見て、私は盛大な溜息をつき、

「自分がした事がわかってる?ここは中学の時とは比べ物にならない位厳しいんだよ。入部する以上、言動には気を付けて」と注意する。

彼は、神妙な顔になったが、

「わかりました。迷惑をかけてしまい申し訳ありません。注意します。でも、先輩の事好きなのはいいんですよね」と懲りない。

私は、中学の時から変わらないセリフを言う。

「いつも言っている通り、後輩以上の感情は持てないの。ごめんね」

彼は、

「わかっています。でも好きなのを止められないんです。これからも好きでいさせてください」と、熱い気持ちをぶつけてきた。

「ありがとう。でも、早く私以外の好きな人を見つけてほしい」

石橋君は、女子に追いかけられるほどのイケメンだ。

望めば彼女なんていくらでも作れるだろう。

もったいないとは思うが、人の気持ちはどうすることもできない。

「じゃ、1年生の中に戻って、副部長の指示に従ってね」

そう言って、彼を送り出した。


石橋君を百合のもとへ送り出すと、健太郎が珍しく、嫌悪感を全面に出して声をかけてきた。

「美佑、後輩はきちんと指導しなきゃダメだよ」と叱られる。

私は、健太郎と、話に合流してきた数人に向けて、中学時代に繰り広げられた石橋君とのやり取りについて説明した。

「で、どうするんだ?」

一通り話し終わった後、よくわからないが、数人から確認される。

「どうもなにも、後輩以上には思えないよ。彼の情熱に流されて付き合うなんて、不誠実でしょ?あと、後輩としての行動がまずかったら、もちろん注意するよ」と回答した。

健太郎と数人はお互い目を合わせて、私に注意する。

健太郎は、まだ嫌悪感を拭わず、

「僕らだけじゃなく、他の人も不快感を持っただろうから、より厳しくしないとね」と、

数人は、いつもの涼しい顔に鋭い眼光を付け加え、

「彼の行動が直らない様なら、俺らや、関田の出番となるから、そうならないようにしてくれ」と私に告げた。

雅美も珍しく不快そうな顔をしてやってきたので、事の次第を説明すると、

「美佑も大変な後輩を持ったわね。でも、厳しくしなくては駄目よ」

と、苦笑いだ。


しかし、要領がいい石橋君は、この後は問題を起こすことなく、1年生の作業を行っていて、2年生の出番はなかった。

時々『ちゃんとやってるでしょ』というアピールを私にしてくるが、実害はないので、苦笑いで済ましている。



石橋君はさておき、トランペットパートには、2人の女子が入部した。

数人の後輩で青木美南(みなみ)、健太郎の後輩で沢渡若菜(わかな)だ。

彼女らは、すでに友達となっていて、お互いの話で盛り上がっていた。

美南と若菜は、数人や健太郎に誘われた訳ではなく、自主的に入部した、と言っている。

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