第19話 訪問演奏と、ドキドキした初詣
冬の気配が近づいてくる。他の高校は知らないが、九十九高校吹奏楽部は、春の卒業式の演奏まで出番はない。
かと言って、練習がなくなるわけではない。来年の定期演奏会の曲を決め、徐々に練習を始めている。
しかし、2年生の出席率は低い。なのに部長と指揮者はなにも手を打っていない。森先輩に至っては、予備校優先で、副部長なのにほとんど部活に来なくなった。
1年生は百合のおかげで、なんとか持ちこたえている。しかし、目標がないまま練習を続けるのは難しい。
1年生みなが危機感を持ち始めたときに、数人があることを百合に提案した。
内容は、福祉施設への慰問演奏だ。
数人曰く『1年生は本番に慣れなさすぎる』と、百合に演奏を受け入れてくれるところを探してほしいとお願いしたのだ。
百合も現状打破したかったらしく、存在感ゼロの顧問を捕まえて、慰問先を探してもらったり、実際の演奏日に必要な、楽器運搬の手配を始めた。
ありがたいことに、慰問を希望する施設は多く、2週間に1回は、演奏会を開くことが出来る事になった。慰問演奏なので難しい曲は選んでおらず、1年生だけでも十分演奏できるのも魅力だ。
1年生だけでの合奏練習は、居残り練の時間にしかできないが、みな出席している。音がまとまって響く様になってきた。練習の成果が出始めている。
良い方向に回り始めながら、訪問演奏をこなしていった。
なにより嬉しいのは、訪問施設側が喜んでくれる事だ。施設の人の感謝の言葉が、みなのモチベーションを上げてくれる。
この訪問演奏は、オフの時にしかできなかったが、後輩を巻き込み、私たちが引退するまで続いた。
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練習にいそしんでいる中、いつのまにか冬が訪れ、クリスマスを迎えたが、もちろん休みはない。
しかし、練習漬けの部活でも3が日は休みだ。だが当時は、初売り等のイベントはなく、できる事は、初日の出をみるか、初詣をするかと言ったところだ。
私は健太郎から初詣のお誘いを受けた。すでに数人と雅美を誘った、と言っている。私は、すでに裕子と約束していたが、このメンバーなら、裕子は健太郎と数人とは文化祭で顔を合わせているので、一緒に行きたいと言っても差し支えないだろう。
健太郎、数人、雅美は、裕子の合流を喜んでくれ、メンバーは5人となった。
場所は、高校近くの神社を選んだ。みなが住むところの中心になるからだ。
雅美と裕子は着物を着てくると言っているが、私は、ちょっとしたおしゃれ着を選ぶ。
なぜなら、私の家はど田舎なのに車がないというハードな生活を送っているので、自転車に乗れない服装はできないのだ。
全員神社に集まった。みなの制服以外の服装は新鮮に感じる。土日も合宿の時も制服で過ごしていた。
それぞれ、いつもと違う姿に照れている様だ。寒さにも関わらず、みな、目線が泳ぎ、顔を赤くしている。
皆で見つめあっていると、
「女子はみんな綺麗だね」
と、健太郎は眩しい笑顔の通常運転で、褒めてくれる。
私は健太郎の誉め言葉を素直に受け取った。
雅美、裕子は珍しく赤くなっている。
こんな時、数人も通常運転で涼しい顔だ。
そんな数人は赤くなったのなんて、一瞬の事だった。
何を神様にお願いするのだろうか。みなそれぞれ気にはなっている様だが、誰も話すことはなく、淡々とお祈りを済ませ、当時は元旦に空いている店がなかったので、ここで解散となった。
この初詣は、なんと今まで欠かすことなく続いている。メンバーは、それぞれのパートナーや子供で増えてはいるが。
雅美の事は、なんとなくみなに伝えている。みないい人で、根掘り葉掘り聞く人はいない。
ただ、一途な思いをすごいと思っていると言っていた。
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