第17話 文化祭と恋する4人

コンクールが終わり、文化祭が始まる。


吹奏楽部の演奏は、開会式が終わった後すぐに行い、全生徒が観客だ。


舞台に上がって、指揮者が来るのを待つ。

ホールとは違い、観客(生徒)が間近だ。聞いている生徒の表情がはっきりわかるのと、見知った顔も多いので、予想しなかった緊張が訪れた。

そんな私を見て、数人が、

「緊張しているのはわかるが、観客にみっともない顔を見せるな」

と声をかけてくれる。

いつもは健太郎が声をかけてくれるのだが、今回のセッティングでは席が離れていた。私へのフォローを数人にお願いしていたのだろう。

私は、数人に、

「ありがとう、緊張ほぐれてきたよ」

そっと、お礼をいう。その言葉に数人がうなずくと、指揮者がステージに入ってきた。


演奏も終わって、ステージを片付けていると、健太郎からお誘いを受けた。

「結局美佑のクラスは何もやらないの?僕たちのクラスは喫茶店をやるけど、吹奏楽の練習で、ほとんど関われず、出番がないんだよ。もし、よければ同じ境遇の数人と3人で見て回らない?」

魅力的ではあるが、裕子といる約束をしていたのと、あとは3人で歩いていたら、女子に殺される。

「お誘いありがとう。でも、友達と回るって約束しちゃった。ごめんね」

「わかった。校内で会ったら、美佑のお友達と一緒に食事でもしようね」

「うん」

片付けも終わり、みな各教室へ戻った。



私のクラスは、健太郎が言った通り、文化祭でなにもやらない。ザ・青春という行事に関わらないと決めたうちのクラスは、本当に協調性がなかった。もちろん、やる事がないので、クラスのみなは、適当に文化祭を見て回っている。


私は、化学部に所属している裕子のお手伝いをする約束をしていた。

手伝いと言っても、化学室は離れたところにあるので、人はあまり来ない。なので、化学室で裕子とおしゃべりしながら、まったり過ごす事になる。

実験体験とかを催すのに人が来ないのはちょっともったいないのだけど。


裕子と私は、珍しく恋バナをする事になった。

私は裕子と対面で座り、机に両肘をつきながら、裕子に探りを入れる。

「裕子は誰とも付き合っていないの?」

そう、裕子は美人でスタイルもよい。

私は裕子の友人という事で、頻繁に男子から『花田さん(裕子)には彼氏がいるの?』と聞かれるのだ。

「私、今恋愛に興味がないから。告白してくれる人には悪いけど、すべて断ってるんだ」

私に質問してきた男子の結末を聞いて、ちょっと哀れさを感じた。

裕子も負けじと私に聞いてくる。

「増田(健太郎)君や黒木(数人)君とはどんな関係なの?どちらかと付き合っているとかないの?それとも別の人と?」とのりのりで身を乗り出した。

私は、裕子の足にちょっと蹴りを入れながら、

「2人とは純粋に仲間という関係だよ。私も今は部活の練習に追いつくので精一杯だから、誰かと付き合う余裕はないんだ」

そう答えると、裕子は私を蹴とばし返しながら、

「もったいないな。私の所に、時々男子が、美佑に付き合っている人がいないか聞きに来るんだよ」と、爆弾を落とした。

私は被弾したが、

「それはお互い様だよ」

と、爆弾を落とし返す。


なかなか有意義な恋バナ、と言えるかどうかは不明だが、一応話ができた。しかし、そろそろおなかが空いてくる。

焼きそばでも買って差し入れをしようと思っていた時に、数人が現れた。

お互いびっくりして、

「なんで来たの?」

「なんでいるんだ?」

と同時に疑問が飛び交った。

私は気を取り直して、

「クラスの友達が化学部だから、お手伝い的な事をしているんだよ」と説明した。

裕子が会話に入ってきて、自己紹介をしている。

数人はいつもの涼しい顔で、

「俺もクラスの友達が化学部だから、来たんだ。他の友達は、クラスの仕事で手がはなせないから、仕方なくって感じだ」

と、いささか、友達に失礼では?という説明をしてくれた。

数人の友達はそんな様子にも慣れているようで、普通に自己紹介をしてくれる。

一連の流れの後、裕子が、

「じゃあ、4人でまったりしよう」と提案した。

それならと、私は、

「4人分焼きそば買ってくるよ。みな、おなかがすいているでしょ?」

3人にお礼を言われたので、焼きそばを買いに行く。


「買ってきたよ~」

買い出しから帰ってきたら、なぜか健太郎がいた。

事の経緯を健太郎が説明してくれる。

「僕は寄ってくる女子から離れたくて、化学部の実験をやってみようと来たんだけど、数人が美佑もいるから、僕にも混ざったらどうだ?と誘ってもらったんだよ」

私は、『ここに健太郎と数人がいるのがばれると、女子が殺到するな』とぼんやり考えていたが、誰ともなく、5人でまったりしようという話になって、お互い自己紹介をする。


友人達と話していると、実験体験の時間が来た。

部外者3人は、秋風がカーテンを揺らしている教室の隅で見学する事にする。

そこに、岩沢先輩と広末先輩がやってきた。

私はびっくりして、

「どうして来たんですか?」と思わず聞いてしまった。

岩沢先輩は心外だと言わんばかりの表情で、

「普通に実験見に来たんだけど」と返してくる。

本当に先輩方は実験を体験していた。


先輩方が去った後、健太郎と数人は小声でボソッと話をしている。

「岩沢先輩、美佑探知機でも付いているのかな?」

「同感だ。美佑が伝えた感じでもなかったしな」

いくらなんでもそれはないだろうと思い、スルーだ。

裕子は、2人の会話が聞こえていたようで『美佑探知機は2人にもついているでしょ』と、こっそり思ったらしく、私の一連の出来事をにやにやしながら見ていたのだった。

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