第15話 先輩からの告白。そしてーーー

コンクール当日、音楽室に行くと、人が集まりだしていた。

レギュラー組が最後の合奏を行う。やるべき事はすべてやった、という自信と覚悟を感じた。


結論から言うと、関東大会(当時は東西に分かれていなかった)の切符を手にした。

厳しい練習を耐え抜いた成果である。

だが、全国大会の切符を手にすることはできなかった。

肩を落とし、全員涙をこぼす。暑かった夏は終わった。


夜風は若干涼しくなり、3年生引退を告げた。

私は岩沢先輩にどう声をかけていいかわからず、

「お疲れ様でした」

とだけ、言葉にした。

先輩は、

「ありがとう」と、

先輩はやさしい笑顔でお礼を言ってくれたが、直後、部長の顔付きになる。

「僕たちの夏は終わったけど、代替わりは不安だな。強豪中出身が少ないし、指揮者や部長を弱く感じている。これからの九十九高校吹奏楽部は、石原の憧れを砕いてしまうかもしれない。でも、めげずに頑張ってほしいと思う」

先輩は本気で心配してくれている。ならばと、私の返事が決まる。

「はい。先輩の不安を払拭できるように頑張ります」

「そうか、もう見守る事しかできないから、頑張れよ」

部長の顔からいつもの顔に戻り、でも、決意した顔で私を見つめる。

始めて見る、先輩の顔に鼓動が早くなる。


「僕と付き合ってくれないか。初めて会った時から好きだったんだ」

突然の告白だった。


でも・・・「私の事、好きって言ってもらえて嬉しいです。でも、お受けする事はできません。告白していただいたのにすみません」

雅美は岩沢先輩の思いを知っていて、黙っていてくれたのだな、と気付く。


「もしかして、増田(健太郎)か黒木(数人)のどちらかが好きなの?」

先輩は悲しそうに聞いてきた。


『練習に必死で恋は無理』と、言葉が足りなかったと思った瞬間、

2人の事が頭をよぎる。

問われる事で自分の気持ちに気付いてしまった。

私が好きな人を。

唐突な事だった。

でも、この感情は恋なのか。

だとしても、決して明かさない。2人といい仲間でいたい。

苦しいけれども・・・

私は・・・なんてエゴイストなんだ。

告白の最中にこんなことを考えるなんて失礼だ。


きちんと先輩に応える。


「どちらかが好きという事はありません。

先輩の事は尊敬していますが、今は部活について行くのがやっとで、恋愛が出来ません。正直2人の事は気になりますが、まだ恋と言うものが分かりかけてきただけです」

「そっか。でも尊敬してくれていたのは嬉しいよ。素直な気持ちを伝えてくれてありがとう」

お互い泣きそうな顔だ。でも先輩はぎこちない笑顔を見せて、

「石原は現役東大生候補を振るというもったいないことをするんだな」

と、茶化した。

私も、笑顔に戻し、

「確かにもったいないですね。失敗です」

と返した。

先輩は、いたずらっ子の顔に戻して、

「振ったからって、気にしないで。これからも、いい先輩・後輩関係でいよう。ただ、これから受験だから、勉強を教えてって泣きついても、助けてやれないからな」と告げた。

これで、本当に一緒に帰ることはなくなってしまう。

「先輩、お元気で。本当にありがとうございました。先輩と過ごした日々は忘れません」

「石原も、ありがとう。僕も忘れない。体に気を付けてな」

私は宝物のような思い出をもらい、家に帰った。



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