第14話 発表会と、いつもと違う岩沢先輩

色々あった合宿も終わり、とうとう降り板組の発表会が行われる。

見知った顔ぶれのレギュラー組の前で演奏するのは、お客様の前で演奏するのとは違った緊張感があった。暑さのせいもあるのだろうか、手が汗で湿ってくる。

そんな私の様子に気付いた健太郎は、

「練習の時の様に吹ければ大丈夫だよ」

と、励ましてくれた。いつも、健太郎は私の様子を気にかけてくれる。今回もそうだ。

暑さと、緊張感が混ざった空気の中、セッティングした席に座って、指揮者の登場を待つ。

指揮棒があがった。私たちは楽器を構える。

振り下ろされ、演奏を始めた。

『アルヴァマー序曲』は出だしからトランペットの出番だ。

健太郎と数人が面倒を見てくれた成果があり、早いテンポの部分だが、順調に滑り出す。曲はゆっくりしたテンポに切り替わり、3人の和音が会場の教室に響きわたった。再び、テンポが速くなり、勢いにのって、曲が終わる。

レギュラー組が大きな拍手をしてくれた。


片づけをしていると、佐久先輩と須藤先輩がやってきて、

「石原は随分上手くなったな。この調子で頑張ってくれ」

「佐久先輩の言う通り、正直、最初はどうなるかと思っていたのだけど、このまま練習を重ねれば、レギュラー組への道のりは近そうね」

と、手放しで称賛の言葉をかけてくれた。

褒められた事の嬉しさと、恥ずかしさが混じり、なんとかお礼を言う。

「佐久先輩、須藤先輩、ありがとうございます。今回上手く演奏できたのは、健太郎と数人のおかげです。色々付き合わせてしまいました」

佐久先輩が、ニヤリと笑い、

「上手いやつが教えてくれるというのも、実力のうちだぞ。少なくとも俺は、数人が人の面倒をみるやつだとは思っていなかった」

須藤先輩も嬉しそうに笑う。

「そうそう。これからも私や、1年生2人に上手く頼ってね」

私は、胸の奥からこみ上げて止まらない、感謝の気持ちをもう一度口にする。

「ありがとうございます。これからも気を引き締めて練習に励みます」

練習は嘘をつかない。これからも練習を重ね、上手になる様、決意を新たにした。

そんな私の様子を見届けて、先輩方は健太郎と数人のところへ向かっていた。

私の面倒を見ていた事をほめている様だ。

「俺だって、必要なときは、面倒くらい見ますよ」

数人がいつもの涼しい顔で話し、対する先輩方と健太郎の笑い声が聞こえてくる。

発表会が無事に終わってよかった、と達成感が体を満たした。


帰り道は、やはり岩沢先輩と一緒である。夜になっても熱い向かい風を、薙ぎ払う様に自転車をこぐ。

自動販売機の前で、岩沢先輩が嬉しそうな顔で、

「今日の発表会、良かったよ。僕も中学校で難しいと思いながら演奏した曲だけど、2週間であんなに上手に演奏できるなんて想像もつかなかったよ」

自分の事の様に褒めてくれた。

「ありがとうございます。今回は仲間の力で乗り切りました。仲間って大事ですよね」

そう答えると、岩沢先輩はいつもの表情ではなく、微妙な感じだ。歯切れ悪く、

「そうだね。仲間は大切にしないとね」

と答えてくれた。なにかまずかったのだろう。話題を切り替える。

「次はレギュラー組の番ですね。緊張するのでしょうけど、私はホールで演奏が聴けるのを楽しみにしています」

そう言うと、先輩はいつものいたずらっ子の顔に戻り、

「最後のコンクール、悔いのないように頑張るよ。じゃ、また明日」

と、会話を終了した。

「はい。お疲れ様でした」

先輩といつまで一緒に帰れるのかな……、コンクールが終われば先輩は引退だ。

上位大会に進めればと思い家路につく。


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