第2話 運命の出会い
私は、吹奏楽部に入りたくてたまらない、念願の県立九十九高校に入学した。
そこで、男の子2人と運命の出会いを果たす。
そう。結婚する人との---
校門前の立派な桜が遅く咲くころ、入学式が執り行われた。
式はやはり、かったるい挨拶が続く。
そんな中、驚きは吹奏楽部が校歌を合唱したことだった。
合唱部はないのか。
楽器が上手ければ、歌も上手いのだなと、ぼんやり思ったのを覚えている。
桜はすっかり葉桜になり、念願の仮入部期間が始まった。
授業が終わると、さっそく仮入部届を持って音楽室に向かう。
周りを見渡すと、私と同じく仮入部届をもった人達がいた。
みな、そわそわしているが、先輩方の邪魔にならないよう隅に固まり、自己紹介を兼ね、志望動機を話しはじめる。
聞いていると、私と同じくコンクールにやっとのことで出場している弱小の吹奏楽部から憧れて入った人、関東大会や全国大会常連の強豪の吹奏楽部から続ける人と様々だ。
私たちの自己紹介は途中だったが、先輩が声をかけてきた。
「希望パートの先輩が呼びに来るから、お互い自己紹介をしてください」
私は中学と同じ、トランペットを志望しているので、トランペットパートメンバーが集まっているところに向かう。
まずは女子の先輩から自己紹介が始まった。
「私は八谷中学(強豪中学)出身の2年の須藤亜由です。これから一緒に頑張っていこうね」
と、先輩は微笑む。
ドレスが似合いそうなお嬢様という感じだ。優しそうな先輩で緊張も解けてきた。
須藤先輩は、自己紹介をしたのち、一人の男の子に紹介するように促した。
「同じ中学の後輩、増田くんよ」
「初めまして。増田健太郎です。これからよろしくお願いします」
満面の笑みで、自己紹介をしてくれた。笑顔がまぶしいというのは、こういう顔の事を言うのだろう。
「山野中学(弱小中学)出身の、石原美佑です。よろしくお願いします」
と、挨拶を交わす。
増田君の輝いている笑顔に圧倒してしまい、うまく笑えない。
「堅苦しいのは嫌だから、僕のことは健太郎って呼んで。石原さんは美佑でいい?」
私の緊張を取り除くように、話をしてくれる。
「うん。美佑って呼んで」
彼の真っ直ぐな視線が心地よく、自然と微笑む事ができた。
挨拶が終わるころ、男子の先輩も1人男の子を連れてきた。
「俺は、佐久義武。九十九東中学出身(強豪中学)の3年、トランペットパートのリーダーを務めている。これからよろしくな」
明るく、朗らかな空気をもつ先輩だ。
佐久先輩も、自己紹介をしたのち、もう1人の男の子に紹介する様、促した。
「俺の後輩の黒木だ」
「九十九東中出身の、黒木数人です。よろしくお願いします」
涼しい顔をしながら、最低限の挨拶だ。
自己紹介が終わると、健太郎が黒木君に、
「美佑とも話していたんだけど同じ学年同士、堅苦しいのはやめようって。僕は健太郎、石原さんは美佑って呼びあうようにしたよ。黒木君は何て呼べばいい?」と、聞く。
「なんでも構わない。中学では、『すうと』と呼ばれていた。『かずひと』は呼びづらいってさ」
「じゃぁ、『すうと』って呼ぶね」
無言は了承と、健太郎と私は受け止めた。
つとめて冷静に挨拶はしたつもりだが、内心は『どうなるのかな。どうしよう……』と、戸惑いでいっぱいだ。男子と一緒になんか楽器を吹いたことがない。これから先、どうなってしまうのだろう。
2人の足を引っ張ってしまわないか、嫌われないかと、心がむずむずと落ち着かない。
それと同時に胸に訪れたのは、『仲間になれると嬉しい』という感情だった。
健太郎と数人。多分、2人と3年間一緒だから――。
そして、恋も始まるのだろうか。
どちらかと。
パートの挨拶が終わると、再び先輩から声がかかる。
数人(すうと)と健太郎と目が合うが、強豪中学との説明が違うと言う事で、バラバラになってしまった。
弱小中学出身では、強豪中学出身とレベルの差が激しいと説明され、 初心者同様だと言われてしまう。
説明が終わった後、健太郎が早速声をかけてくれる。
「僕たち、今日から合奏に参加することになったから、そろそろ行くね。美佑は基礎練習?」
これから、須藤先輩に基礎練を教わることになっていた。
佐久先輩と須藤先輩は、彼らに、私は初心者と変わらない、と説明していたのだろう。
「うん。早く合奏に参加できるように頑張る」
「頑張れ、頑張れ」
健太郎が笑顔を残しながら、合奏前の自主練を始める。
数人(すうと)は涼しい顔でそれにならった。
これがもどかしい恋の始まりだった。
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