ミルクチョコレートとビターチョコレート
くまと呼ばれる
第1話 エピローグ~回想
夜風が体に纏わりつく。湿りを帯びている風は、青春を鮮やかに彩る本格的な夏の到来を予告しているようだ。
私、石原美佑(みゆう)は、定期演奏会の打ち上げに参加している。
九十九(つくも)高校吹奏楽部は定期演奏会を毎年6月に開催していて、3年生の美佑にとっては高校最後の演奏会だった。
みなは湿った空気の中にも関わらず、花火大会を楽しんでいるが、私は演奏会が終わって気が緩んでしまい、色とりどりの花火を遠目に眺めている。校庭で花火大会の許可が下りたのはびっくりしたが、部長や、もと生徒会長が頑張ったらしい。
「なに、ボーっとしているの。よかったら僕たちと線香花火をやらない?」
声の主は、3年間一緒にトランペットを吹いてきた、もと生徒会長の増田健太郎である。
その後ろには、同じくトランペットを吹いてきた部長の黒木数人(かずひと)がいた。どうやら健太郎に捕まった様だ。
「やろうかな」
健太郎から花火を受け取る。数人も同様に花火を受け取っていた。
手元で控え目に、ぱちぱちはじける花火を見ていると、健太郎が辛らそうに言葉を発する。
「2人とも、最後のコンクールが終わるまで引退しないよね?」と。
私の高校は所謂、『田舎の進学校』である。受験に向けて、夏休みに実施されるコンクールには参加せず、この定期演奏会を最後に引退する部員も多い。健太郎としては確認せずにはいられなかったのだろう。
私は即答する。すでに続ける覚悟をしていた。
「最後までやるよ」
数人も続く。
「部長の俺が引退してどうすんだ」
健太郎はほっとした様子で、
「よかった。最後まで3人で演奏できるんだね。引き続きよろしく」
数人と私はうなずく。
3人の決意を見届けたかのように、線香花火がぽとりと落ちた。
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私は初恋の人と結婚した。
「ねぇあなた。明日の同窓会楽しみね」
私は夕飯の後片付けが終わって、そう主人に声をかけたが、返答はない。
テレビを見ているようだ。
一人まったりと過ごすことに。
明日は同窓会ということもあり、高校時代に思いを馳せてみる事にした。
30年前の仲間との日々、そして恋の行方を。
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