第40話 闇からの襲撃者
暗闇に包まれた線路の奥からズルッ……ズルッ……と何かが這いずる音がライセたちの元に近づいて来た。
とてつもなく嫌な予感がする。ライセは冷や汗を額に滲ませた。
薄暗がりの向こうから、何かがゆっくりとライセたちの方に近づいてくる。
這いずる音は次第に大きくなっていき――そして姿を現したのは
――例えるなら巨大なイグアナかカメレオンか。
太い四脚で胴体を支え、尻尾を地面に引きずりながらのっしのっしとライセたちの元に歩み寄ってくる。
頭部にはトサカのような角、大きく裂けた口と鋭い牙。そしてライセたちを餌と認識しているようでその目は爛々を光らせていた。
まさしく大トカゲだ。もっともそのサイズはワゴン車どころかバス一台分くらいのサイズがあるが。
先ほどの
「こ、この大きさ、じょ……冗談でしょ……」
「
推奨討伐冒険者ランクは四~五等級、中堅冒険者数名での討伐が推奨の魔物である。
ただしそれは野外での遭遇だ。ダンジョン内等での遭遇は三等級以上の冒険者数名が望ましいとされている。
抵抗力の弱い人間など一呼吸で動けなくなり、生きながら食われることを待つだけだ。
「ノア! まずは
「はっ、はい! みなさん目をつぶっててくださいっ!」
「ヤツの目を眩ませたらさっきの広場まで戻るぞッ! 狭い通路ではこちらの不利だ!」
アインは
ノアはこくんと頷き杖に魔力を注ぎ込み
「させない――!
ノアの杖から放たれる閃光弾が強烈な光を放つ。
閃光が
ライセたちは互いに目くばせし、
線路上で再び麻痺ブレスを吐かれると逃げ場がない、迎え撃つ場所は先ほど
ライセたちは一目散にホームへと駆ける。
ライセはちらりと背後を見るが、
いきなりの閃光を食らい魔物は怒り心頭なのだろう。鼻息を荒げて猛追してくる。
三人はホームに駆け上がり高所を確保する。そしてライセは
線路の奥から
魔力弾が銃口から放たれ
だが――あまり効いた様子がない。やはり
だがそれを黙って見ているアインではない。
アインは長剣から大剣に持ち替え、腰を大きく落として構える。
そして――
鋭い刃が
「グギャアアアアアアッッ!!」
「さすがに目玉までは鍛えられんようだな」
アインは口元を歪めながら大剣を
しかし
眼球を抉られてもなお、目の前の獲物を食らわんとする。そして
「不味い――! ブレスがくるぞ!」
アインは大きく後方に跳躍し、ライセとノアはブレスに対する防御姿勢を取る。
一息吸っただけで全身の自由を奪われてしまう麻痺ブレス。防御とは言っても息を止めるぐらいしかできることはないが、戦闘中で息を止めていられる時間はごく僅か。
ライセは考える。何か対策は――あった。狭い空間で麻痺ブレスが滞留するのが危険なら換気を行えばいいだけだ。
「ノアっ! 何でもいいから風の魔法でブレスを散らして!」
「任せてください! 密閉空間での作業は換気が大事ですねっ!
ノアは杖を振りかざし、ライセの指示通り風の障壁を展開させる。
渦巻く強風がライセたちの周囲を包み込む。吐き出される黄色い気体、強力な麻痺ブレス。だがブレスはノアが生み出した空気の渦に阻まれてライセたちに届くまでに四散していく。
あとは硬い外殻を持つ
ライセは銃に装填するべき魔力弾を切り替える。
例えるならあの魔物は外殻はちょっとした戦車並みに堅い。ならばその装甲を貫けるだけの貫通力と破壊力を持つ魔力弾で勝負だ。ついでに着弾後爆発もおまけだ。
ライセはノアが展開した
そして
「食らえっ!
銃口から撃ち出される魔弾。高速で射出された魔弾は一瞬で
次の瞬間、
頭部の大半を失った
「やったあ! やりましたね、ライセさん!」
「いぇーい! お疲れ様っ!」
ライセは嬉しさでピョンと跳ねて、ノアに飛びついた。
アインも腕を組みながら、「初めてで
「だが――頭を吹き飛ばしたのは勿体なかったな」
「えっ、そうなの?」
「
アインは
討伐証明は残った頭部から牙を回収すれば問題ないだろう。
「残りの部分は持ち帰れるなら持ち帰った分だけ金にはなるが――俺たちのクエストは
そう言ってアインはライセを見る。
その視線の意味するところは、そう――ライセがひょんなことで編み出した画期的な魔法である
「おっけー、やってみるね」
「……ちょっと待て、もしお前の術が失敗して死体が丸ごと消滅したらせっかくの
アインは頭部の残骸から牙を数本回収する。
ライセの
「アインは心配性ねえ。じゃ、行くわよ!
ライセは
金色の粒子が
「……収納はできましたね。あとは……ライセさんが取り出すことができるか」
「大丈夫大丈夫、それっ!」
ライセは
するとイメージ通り、
「すごいですね……複雑な構造の生物までも分解し再構成できるなんて」
ノアは
この魔法を編み出したライセ自身も未だ原理がはっきりとは分かっていないのがこの魔法の不安要素ではあるのだが。
その出自から類まれなマナ量と操作力を持っているライセとノアだが、その使い方は対象的だ。
ノアが既存で知られる魔法の原理を理解し、応用的に魔法を使うのに対してライセは感性で既存の魔法に縛られない独自の魔法を編み出してしまう。
それがライセの強みでもあるが、感性のみで魔法を使うため彼女自身が原理を理解していないので予期せぬ事象を起こしてしまうかもしれないのだ。
(……不安に思ってしまうのはわたしが元AIだからかな)
無事
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