第41話 信頼に応える時/打ち明ける勇気
アルシオネ地下遺跡は街の地下に張り巡らされた広大な地下鉄網だった。
かつては街中に複数出入口が存在していたようだが、長い時の中で今や土砂に埋もれ地上の教会からしか出入りはできなくなっている。
それにしても――なぜこの世界に
その途中
恐らく
道すがら、駅のホームでライセは奇妙な物体を発見した。
打ち捨てられた二足歩行のロボットだった。無骨な金属製のボディに、四角いカメラのようなものを頭に装着した形状をしている。
以前のノアのような天使や遭遇した堕天使は曲線的で未来的なフォルムをしていたが、このロボットは直線的で技術的にも数世代前のものに見えた。
「まだ
ライセがロボットをまじまじと観察していると、アインはそう呟く。
アインはロボットの背面に回り込み、背中のカバーを外して中を開けた。
「
「ねえアイン、あえてスルーしてたんだけどそろそろこの遺跡について教えてくれない? あなたにとっては日常の光景かもしれないけど私にとっちゃあこれ驚きものなのよ」
ライセはロボットを指先でコンコンと叩きながらそう言った。
冒険者を始めたばかりいえ、いくら何でもこの遺跡の異様な様相には違和感を覚えずにはいられなかったのだ。
アインはふむ……と言って顎に手を当てる。そして少し間を置いた後口を開いた。
その口から出てきた言葉は――
「この遺跡は――千年前の古代エデニア文明……魔科学時代とも言ったな。その時代の遺跡だ」
「千年前って……! あの伝説の聖女ライセリアがいた時代って、それ本当!? ちょっとノア! アインの言ってること本当なの!? 初めて聞いたんだけど!」
目を丸くしたライセはロボットの背面カバーの中身を覗き込んでいるノアに向かって叫ぶ。
当のノアは「あれ? 言ってませんでしたか?」とキョトンとした表情でそう返した。
言われてみれば、ノアから説明されたのは千年前に世界が滅びかけて、それを聖女ライセリアが命と引き換えに救ったという簡単な概要だけだ。
その時代がどんなものだとかは聞いてなかったし、ライセ自身も先入観で今のようなファンタジー世界観を勝手に想像していた。
「ノ~~ア~~!」
「ごっ、ごめんなさい……ライセさんが聞かないということはとっくに知っているものとばかり……」
ライセがジト目でノアを睨むと、彼女は焦ったような反応で言葉を返す。
ある種これがノアの欠点なのである。機械が人の肉体を得たという奇跡の産物である彼女。
精神性こそ少女の姿に引き寄せられ人間のような愛くるしい振舞いをする時こそあるが、かつての機械だったときの思考の名残が、質問されないということはすでにその情報は自分と共有されているという固定観念に繋がっているのだ。
ノアは「あくまで今の自分にある知識は一般的なものですが」、と前置きして千年前の時代をかいつまんで話しだす。
千年前の当時は魔法と科学の融合が進み、魔科学と呼ばれる技術体系が発展し今よりも遥かに進んだ技術力を誇っていた。
そのうちの一つが
とはいえ技術レベルとしては地球における21世紀相当で、エデン・エンデバーの技術とはまだ百年以上の開きがあったそうだ。
「なんでも空の向こう――月まで行こうと大それたことを考えていたそうだけどな。結局行けずじまいだったそうだが」
アインはノアの説明にそう補足する。
「そんな中で訪れたのが……暴走したマナ――瘴気による世界崩壊の危機です」
それは以前にノアから聞いた通りだ。
マナ――ナノマシンが突如として暴走を始め、その暴走は世界規模で広がり人類は滅亡の危機に瀕した。
そして聖女ライセリアが命と引換えにその暴走を収め、世界は救われた。
「教会の連中は驕り高ぶった人間への神の怒りによる罰と捉え、復興した世界では魔科学は禁忌となり教会が管理するようになった。よく言えばかつての過ちを繰り返させないため。悪く言えば教会の都合で技術を独占し人の進歩を意図的に停滞させた。……まあ、そのことは今はいい」
ライセはノアから説明されたので知っている。
マナの異変は神の怒りでもなんでもなく、太陽から放出されたスーパーフレアによる災害だったこと。
そのことを確認するためライセはノアに囁く。
(ねえ、瘴気の原因はスーパーフレアで大神エデン――エデン・エンデバーは特に関係ないよね?)
(はい……エデン・エンデバーが人類に魔科学を禁止させたわけではないです。人類が技術の停滞を望む判断をしたのならそれを尊重する。それがエデン・エンデバーのスタンスです)
「……なあライセにノア、そろそろ本当のことを――お前たちの正体を教えてくれないか。……その、俺はお前たちのことを仲間だと思っているからな」
アインは言いにくそうに、そして少し恥ずかしそうに言った。
ライセとノアが普通の人間でないことなどすでにアインは察している。
そして大神エデンが実在するも、その神がアインが知っているような存在でないことも薄々感づいてはいる。
「ふふっ、やっと聞く気になったんだ。ずっとスルーしてるからもう話すタイミングがないのかなって思ってたのよ」
ライセは意地悪そうにそう言うと、ノアの方を見て笑う。
だがノアもコクリと頷いて返事をする。どうやらノアも同じ気持ちのようだ。
二人並んでアインと向き合う。自分たちの正体を、この世界の秘められた歴史を。
そして口から出たのは、アインの想像を超えた言葉だった――
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