第34話 未知なる冒険、待ち受ける試練
ギルドはまだ朝の早い時間だというのにすでに混雑模様だった。依頼書が所狭しと貼られた掲示板の前には冒険者たちの人だかりができており、今日はどのクエストを受けようかと吟味している様子だ。
ライセたちもその人だかりに加わり手頃な仕事を探すことにした。七等級の冒険者が受けられるクエストとなるとあまり数は多くないし、報酬も期待できるものは少ない。
薬草の採取、ドブ浚い、荷物運び等々……どれも低賃金かつ日雇い労働に近いものばかりだ。
魔物討伐となると六等級からのものばかり。
(遺跡で
この世界にもゴブリンがいて討伐依頼が出されるとは興味深いが今のライセに受注資格はないので諦めるしかない。
それにしても十日前に受注されているのにまだ達成報告が挙がっていないクエストとはよくあるのだろうか。
ふと辺りを見回すとアインの姿が見えない。
隣で掲示板を眺めているノアに尋ねると「アインさんならあそこに」と窓口を指さした。
ライセはノアの手を引き窓口へ足を運ぶ。受付カウンターでは神妙な面持ちのフィオレが書類に目を通しながらアインと何やら話をしているようだ。
「アインさん、実はあなたに直接お願いしたい依頼があるんです」
「ほう……俺も随分と有名になったものだな」
「依頼そのものは五等級相当のそう難しいものではないのですが、何分不測の事態の可能性がありますので、ベテランのあなたにご協力いただければと思いまして……もちろんギルドからの直接の依頼ですので通常の相場よりも高い報奨金をお支払いいたします」
どうやらアインは指名されて仕事を請け負うことになったらしい。
三等級というランクにもなれば直接指名も入るのかとライセは感心する。
「十日前、レイモンド・ブライトという冒険者が地下遺跡に向かったんです。遺跡で
それを聞いてライセは眉をピクリと動かす。遺跡で
十日経っても達成報告が無いことに違和感があったがなるほど、そういうことだったのかと合点がいく。
「遺跡で消息を絶ってすでに十日となると――」
「最悪の場合、既にこの世にはいないかもしれんということだな?」
「はい、不慮の事故ならまだしも、未知の魔物に襲われ命を落とした可能性も否定できません。もちろん生きて帰ってくる可能性もありますが、最悪を想定して行動しなければいけませんので」
そう言ってフィオレは目を伏せる。
アインに提示された依頼は行方不明者の捜索で、もし死亡を確認すれば冒険者証を回収するという内容だった。
「……死体を放置したら蘇る可能性があるぞ。俺みたいなアンデッドになるならまだしも自我のないゾンビとして動き出すのはあまりに不憫だ。まあアンデッドとなっても不幸なだけだがな。まさかそいつは生前の遺言でアンデッドとして蘇る可能性あるから死体は保管してくれなんて言ってないだろうな?」
「まさか、もし同行者に“
「ほう……」
アインは腕を組んで逡巡する。しばらく沈黙が続いた後、彼は口を開き背後のノアに問いかけた。
「ノア、お前もしかして“
「んー……使ったことないですけど、たぶん使えると思いますよ」
「そうか、やはり知らないか」
「ちょっとアイン、なんで私には聞かないのよ」
「世間知らずのお前はどうせ使えんだろ」
「あー! その言い方むかつくーっ! ええ知らないですよーだそんな魔法、ノアだって知らないでしょ!」
「いえ……わたし使えますけど」
ノアの言葉に「へ?」とライセは素っ頓狂な声を上げた
――“
死者の遺体をマナの粒子へと分解し、大地に還す。
死者の蘇りが自然現象として存在するこの世界では不測のアンデッド化を防止するためにも使用できる人間は何かと重宝されるのだ。
特にアインのような人間社会で真っ当に生きているアンデッドにとって、自分のような不幸な人間を増やさないためにも必要な魔法であると言えた。
「あの異常なマナ量だからもしやと思ったが本当に使えるとは……」
「たぶん、一般的に知られている魔法なら大体使えると思います」
「マジで!? ノアすごいじゃん」
それにしてもノアは元天使だけあってやはり規格外の存在だとライセは思う。
こればかりはさすがのアインも驚いたような声色だった。
――ハッどうだアイン、うちのノアはすごいだろ~、とライセは自分のことではないのに心の中でアインに自慢する。
「と、いうわけだ。この二人をその依頼に同行させてもいいか? 俺は三等級で依頼の条件は五等級相当、七等級の人間を二人連れて行ってもルール上は問題ない、おまけに一人は“
「えっ!? 私も一緒に行っていいの!」
「嫌ならお前は別行動でもいいが?」
「行く行くー!」
ノアはアインと一緒のクエストなのに一人でドブ浚いなんてまっぴらだ。ライセは二つ返事でアインに同行を申し出る。
「そういうことだ。構わんだろう?」
「え、ええ……アインさん……彼女たちはいったい何者なんですか……」
「さあな、俺も知りたいぐらいだ」
そんなやりとりを経てライセたちは正式に消息不明となった冒険者の捜索依頼を受けることとなったのだった。
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