第16話 異世界おしごと事情
「ねえノア、アインがちらっと言ってた冒険者ってどんな仕事なの? 私が知ってる冒険者と似たようなものなのかな」
「あれ? ライセさんがいた時代に冒険者ギルドなんてありましたっけ?」
「いやいや、実在はしてなかったけど色々な娯楽作品で見る名前だったから」
ノアは腕を組み、目を細めうーんと唸る。
そして、何かを思い出したかのようにぽんと手を叩いた。
その仕草は人間らしいというか、とても可愛らしくて、数日前までドローンに搭載されたAIとは思えない。
「たぶん、ライセさんが知っているそれとあまり変わらないと思います。魔物退治や商人の護衛、物資の調達、農作業の手伝い……人探しやペット探し、要は何でも屋さんですね」
ライセリアが想像していたものとほぼ同じだった。
色々と話を聞けば聞くほど、記憶にある異世界ファンタジー小説に出てくる冒険者ギルドに近いものがある。
「アインのやつあんな目立つ全身鎧尽くめだし、鎧の中身は骸骨だし冒険者なんて務まるのかな……」
「たぶん、大丈夫だと思います。元々定住しない、できない人たちが地元住民とのトラブルに見舞われないよう身分を保証するために作られた制度なので」
「あー……なるほどね」
いつ破落戸になりかねない流れ者に一定の身分を保証して公的な補助を受けられる代わりにその活動を管理するというシステム、それが冒険者。
「だからこそ、厳しい自浄作用を問われる組織なんですけど……ならず者一歩手前の人たちが所属しているのも珍しくないので」
ヤクザまではいかないけど半グレみたいな連中はいるということだろう、所属している人間が多ければどうしてもモラルの無い者も現れやすくなる。冒険者ギルドも世知辛い。
「あいつ、何の仕事してるんだろ。ノアは聞いてたりする?」
ううんと首を振るノア。
アインがやってそうな仕事――見るからに厳つい格好だ。
素直に考えれば魔物退治とか用心棒なのだろうか。あの機砲やミサイルを乱射する対人戦車みたいな堕天使と互角以上に戦えるのだからその実力は折り紙付きだろう。
「ところで冒険者ギルドってたぶん国家を跨いだ組織なんだよね。どこにそんな組織力があるんだろう?」
「元々はエデン教会の一部門でした。今は教会から分離独立したほぼ別組織で、それでも持ちつ持たれつの協力関係にはあるけど互いの独立性を尊重している関係ですね」
教会から良い目で見られていない――そのようなアインが冒険者やれているのも、その独立性のおかげだろうか。ギルドの身内に明確な落ち度がない限り外部の組織からの介入には応じない、そんなところだろうか。
そうこうしているうちに日も傾き夕暮れ時になった。ライセリアたちは小屋に戻りアインの帰りを待っている。
(それにしても――)
アインの小屋は殺風景だ。せいぜい六畳一間程度の広さで家財道具も何も置いていない。壁に皮袋が吊るしてあり中には干し肉と干し果物が入っている。これはアインがライセリアたちのために用意してくれたものだ。
アインはあのような骸骨の体のため、食事を必要としないので小屋には調理器具もない。この数日はこれらを摘んで食べていた。
ノア曰く、本当はライセリアたちもあまり食事を必要としない特別な肉体なのだが、肉体が栄養の補給を必要としなくても、人としての精神がそれを欲してしまう。食事はただの生命維持の手段だけにはあらずということだ。
ライセリアは干し果物を口に放り込む。乾燥し茶色いそれの見た目はデーツに近く、噛むとねっとりとした食感と甘みが口の中に広がる。一度食べだすと病みつきになる味だ。
ノアも干し果物をもきゅもきゅと頬張っていた。
と、その時だった。バタンとドアが開く音がしたのでライセリアはドアのほうへ視線を向ける。
アインが大きな袋を担いで帰ってきた。彼は何が入っているのかわからない袋を床に置くと、兜の奥から言葉を発した。
「……お前らそろそろ働け」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます