第14話 名付けが結ぶ不思議な縁
「そういえばちょっと気になったんだけど……そこの骸骨さんの身の上話を聞いて思ったんだけど……死んだ人の蘇生って可能なの?」
「それは、ついさっき亡くなった人ですか?」
「ううん、何年も何十年も前に亡くなった人」
ノアは少し驚いたような顔をしたが、すぐに考え込む表情に変わった。
「理論的には可能……です。でもすっごく難しいと思います……」
ノアは言葉を詰まらせながら、言葉を選びながら答える。
「どういうこと?」
「ええっと――なんて説明すればいいのかな。NOAHには膨大な人類の記録があって、でもその中から特定の人の人格マトリックス……つまり、その人らしさみたいなものを見つけ出すのが大変だと思います」
「記録はしてるけど探すことは難しいということ?」
「NOAHはそういうデータを記録はするけど、整理はしなくて……NOAHにとって大事なのはたくさんのデータを持って全体的な傾向やパターンを分析して推論するのであって、個々のデータを細かく吟味したり整理したりはしないんです……」
ノアは困ったように言う。
基本的なことはライセリアの時代のAIと同じでビッグデータの分析やそれによる予測はできる。でも、そのデータから個人を特定して分析することは難しい……ということだろうか。
「ってことは――生き返らせたい人を探すの、砂浜から一粒の砂を見つけ出すようなものってこと?」
「そうそう! ライセリア様、すごくわかりやすい例えです! でも……例え見つけられてもエデン・エンデバーが『ダメ』と言っちゃうはずです。死んだ人を生き返らせるのって、きっと『自然に逆らっちゃダメ』って言われちゃうと思う。一応わたし――いえNOAHよりエデン・エンデバーのほうが上位の命令系統なので……」
「そっか……」
埋葬された死体がたまたま動き出すのは許容されても人為的な意図で死者の復活は否定される。
当然と言えば当然だが、この世界にゾンビは普通に存在することに身震いするライセリアだった。
「もしかしたらあなたを生き返らせることができると思ったけど……ごめんなさい」
「気にするな。人前であまり素顔は晒せないが、この姿も悪くはない。腹は減らんし喉も渇かないし、疲れも感じない。悪いことばかりではないさ。まあ不便と言えば――街の人間や教会の連中から良い目で見られず、露骨に差別されるぐらいだ」
やはり、と言うべきだろうか。だから最初にこんなところに教会の人間が、と言っていた。
蘇った死者というものは聖職者にとっても忌み嫌われるべき存在だろう。
それでも彼はぶっきらぼうに言いつつも、その声色は第二の生を辛いなりにも楽しんでいるようにも聞こえた。
少なくとも、自分が置かれた状況を呪っているわけではなさそうである。なんという自己肯定力の塊なのだろう。このメンタルの強さは見習いたいと思ったライセリアだった。
「そうだ、忘れてた」
ライセリアはぽんと手を叩く。
色々なことがありすぎて忘れていたことがある。
「ここで会ったのも何かの縁――まずは自己紹介と行きましょう。私は……この世界ではライセリアと名乗ることにしてるので。長いから『ライセ』と呼んでくれていいわ」
「? この世界では?」
「あー、気にしないで。話すと長くなりそうだし、あなたも興味ない話だろうし」
「わたし、元天使のノアですっ! ……えっと今はなんだろう。ライセリア様の子供?」
「いや……そこはせめて妹にして……それにノア、ライセリア『様』なんて堅苦しいこと言わないで『ライセ』と呼んで」
「えっ……う、うん『ライセ』さんっ」
さんまで付けなくてもいいけどまあよしとするべきか。
様付けよりかはずっと親しみが持てる。
「で、あなたの名前は? 記憶がないからもしかして無かったり? じゃあ私が付けてあげよっか」
「……こう見えても冒険者の身分持ってるんでな。通り名ぐらいはある……
鉄仮面――それはそのまんますぎるだろう。ライセリアは思わず噴き出しノアもクスクスと笑い出した。
「もっと親しみやすい名前持ってないの?」
「持ってない」
「じゃあ私が考えてあげる、ええと――」
ライセリアは腕を組んで骸骨騎士改め鉄仮面の愛称を考える。
一方で鉄仮面は無言で彼女の考える名前を待っているようだった。
――あれ? やめろって言われるかと思ったのに。
しかし、いざ付けろと言われると難しいのだ。命名というものはセンスを要求すされる。
……うーんそうだなあ……うん決めた。
ライセリアはニヤリと笑みを浮かべた。
「鉄仮面……アイアンマスクだから略してアイアンを少しもじって“アイン”なんてどう?」
「わぁ、素敵ですっ!」
「……好きにしろ」
「おーけー! じゃああなたのことアインって呼ぶね。よろしくね!」
ライセリアは骸骨騎士改め鉄仮面改めアインの鎧をぽんぽんと叩く。
「あのっ、わたし“アイちゃん”と呼んでいいですかっ?」
「いやあ……それは……私はいいと思うけど、ねえ?」
「それは勘弁してくれ……」
「えー、とってもかわいいと思いますけど……」
本気で嫌がってアインはがっくりと肩を落とした。
この厳つい骸骨の鉄仮面を“アイちゃん”と呼ぶのはなんかシュールな絵面である。
さすがにアイちゃん呼びは彼の尊厳に関わりそうなので自重しておこう、ライセリアはそう思ったのである。
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