第13話 人間らしさとは

「ねえ骸骨さん、ノアはいつから私の隣にいたの?」


 色々と新しい情報の洪水でライセリアの頭はプスプスと煙が吹きそうではあるが最初の――どうしてノアがここに、それも人の姿をしてるのかという疑問が浮かぶ。

 あの時、浄化の炎でノアの機体は光の粒子となって消滅していったはずだ。

 

「知らん、俺はお前一人を担いでここに連れてきた。目を離したらいつの間にかそいつは隣で寝息を立てていたぞ」

「私一人を担いで――? 変なコトしてないでしょうね」


 ライセリアは思わず骸骨騎士をジト目で見る。

 しかし、その瞬間それが失言だったと気づく。


「この体でお前の体をどうこうできるわけがないだろう?」


 骸骨騎士は呆れた様子で肩を竦めた。


「ごめん……今のはデリカシーが無さ過ぎた」

「……いちいち謝るな」


 骸骨騎士はフンと鼻を鳴らす。

 ライセリアはばつが悪そうに目を逸らし床を見つめた。部屋の空気が急に重くなった気がする。


「あ、あのっ……わたし、何か悪いことしました……?」


 ノアが困惑した様子でライセリアたちを見ていた。


「いいや、お前は悪くない。こいつが余計なことを言っただけだ」


 骸骨騎士はノアの頭を撫でる。気持ちよさそうに目を細めるノアの姿は本当に人間の少女そのものだ。

 骸骨騎士は不思議そうにノアの頭から手を離し、甲冑に包まれた手を凝視していた。


「どうしたの? ノアの頭を撫でていたら突然びっくりしたような様子で……」

「……あまりに自然にこいつの頭を撫でていたからな。……俺には子供がいたのか?」


 それは骸骨騎士が無意識に行った生前の記憶のせいだろうか。

 とはいえ子供がいる男はいくらでもいる、それだけでは彼の正体に迫ることはできないだろう。


「……まあいい、俺の正体よりこの娘がなぜここいるか、の話だろう?」

「あのー、確証はもてないんですけど……もしかしたら、わたしが消えそうになったときに、ライセリア様がわたしに触れましたよね?」

「あー、うん……? そうかな……無我夢中だったからよく覚えてないけど……」

「あの時、わたしを構成するナノマシンの一部がライセリア様のお体を構成するナノマシンと共鳴して、わたしをこの姿に再構成した。と、言うことなんじゃないかなあと思うんですが……」


 ノアはおずおずと自信なさげに語る。でもライセリアには彼女の説明が一番納得できるものだった。


「? 言っている意味がよくわからないが、お前の子みたいなものか」

「はぁっ!? わ、私の子供っ……?」

「ええっ!? ライセリア様ってわたしのおかあさんだったんですかっ!?」

「おいっノアまで乗っかってくるんじゃない! というかノア、その姿になってからなんか喋り方とか考えが人間っぽくなってない……? ドローンの姿の時はもっと淡々とした喋り方だったし」


 ライセリアは思わず思ったことを口にしてしまう。ノアはきょとんとした様子で首を傾げていた。


「そうかな……? わたしはよくわからないです……」


 ノアはうーんと腕を組んで唸る。

 確かにノアはAIだった。でも、今の彼女はまるで人間の少女そのものにしか見えない。

 じゃあ今のノアって何なのだろうか――?


 と、思ったところでライセリアはそれについて考えることをやめた。

 なぜならばそれに疑問を持ったら、仮想世界からこの体にインストールされたライセリアの意識はAIと何が違うとなってしまう。

 ライセリアは、ライセリアだ。それ以上でもそれ以下でもなく、ノアもノアだ。それでいいのだ。。


 骸骨騎士のおかげで……こいつのおかげというのもなんか気に入らないとライセリア思ったが、自分の悩みを整理することができたのだ。そこは感謝するべきだろう。


「どんな姿でも、ノアはノアだよ」

「えへへ……」


 ライセリアはノアの頭を撫でるとノアは嬉しそうに目を細めた。

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