第48話 行軍
貿易拠点に引き続き、砦が奪還されたことでバーリーン国軍の勢いは増した。ゴブリン軍団によって残された爪痕は大きなものであったが、巨大モンスター三体を迎えた大規模な作戦によって、バーリーン軍の士気は高まっていた。
討伐された
ただひとつ気がかりなことがあるとすれば、自ら死を選んだ
これが一体何を意味するのか、蟹江静香たちには確証を得る要領を持ち合わせていなかった。判断を下すにしても、この世界の理は歪で不確かなものだ。今はまだ、前に進み続け、各地に散らばった生徒たちを探すしかない。
輸送拠点と砦の奪還が達成されたことで、バーリーン王都に攻め入る準備が着々と進みつつあった。軍隊の規模は三倍となり、より綿密な計画と連携が要求される。
バーリーンの戦い方は、砦を奪還した時と大きく変化はない。王都が陥落している時点で内部にとり残された国民は全滅していると考える方が妥当と言える。よって総力戦になるのは必然だろう。
しかし、これだけの数が集まったとしても、バーリーン側が劣勢を強いられるのは明白だろう。ゴブリンは王都を奪還した後もその数を増やし続けているという報告が偵察部隊からあがってきていた。
「報告いたします!」
軍司令部に先行偵察部隊からの一報が訪れた。
「ゴブリンの軍勢がこちらに向かってきているとの情報です! その数凡そ一千!」
「何故だ⁉ 王都の堅牢な城壁に籠城していればいいものを! カリンガ―! 直ちに戦闘可能な兵士を集め、部隊を編成するのだ!」
「かしこまりました!」
ツェルンの予想は大きく外れた。砦を攻めたことでその機能を大きく損ない、修復を試みた所で間に合うはずもなかった。更には軍の増強を図る為に各地に散開していた軍隊を呼び寄せている最中だ。立て直す事も望み薄といえる。
「おかしい、何故こうも砦奪還の情報が奴らに流れる……。砦からゴブリンは一匹残らず駆除したはずだ……!」
砦の攻防戦でゴブリン達は籠城戦による地の利を生かした戦法を取った。負けるつもりが最初からない戦い方であるならば、伝達を大本へと送る必然性はなかったはずである。可能性が在るとすれば――
『何やら騒がしいけれど、ツェルン。状況を伝えてくれない?』
蟹江静香の念話によって長考から意識を戻したツェルンは、ゴブリンの大群がこちらに向かってきている事を伝えた。
『……ゴブリン達には、拠点を取り戻した時点で、当然わたくし達の存在は筒抜けだと思うのですが、その上で何故攻めてくるのでしょう。聞く話によれば王都の城壁は、この砦よりも強固で攻め難い形状をしている。相手に数の有利があるのならば、待ち構えるのがセオリーと云えるはずですわ』
鳴海蝶子の疑問は当然だろう。どんな意図があればこの様な作戦になるのか、手持ちの情報から推察を行うも、可能性として挙がるのはやはり早期決戦を狙っての事、こちらに準備をさせず、砦の機能が停止しているうちに攻めるという判断だろう。
『神子が思うには、準備をさせるリスクと早期に攻めるリスクを天秤にかけた結果であるのではないかと……そもそも、この度におけるゴブリンの出兵も――』
『楽観的な考えかも知れないけど、普通に考えてゴブリンの出兵は、私達を挟み撃ちにする算段で出した結論なのかもしれないよ?』
蟹江静香の言う通り、完全に見過ごしている事がある。一度攻め落としている国の軍隊が、この様な短期間で物資拠点と砦を奪還する。と、云うのは現実的ではない。いかなる助力があろうとも、『数』という優位を覆すのは簡単な事ではないのだ。
『とりあえず、部隊が編成されるまで時間を稼ごう。私達は比較的アクティブに活動が出来るから、先行して偵察してもいいし、倒せるなら倒してもいい』
『シズカ様、ご負担をお掛けしますが、どうかよろしくお願いいたします』
こうして三人は部隊編成までの時間を稼ぐため、【大怪獣甲殻ブレーメン形態】で移動を行っていた。
『今回の戦い方だと、【タワーオフェンス】方式から外れちゃいますね……。経験値や戦闘によるダメージなどのバランスがどうなるか、心配です』
相塚みんとの考えも最もと言えるだろう。この世界における理は非常に不安定であり、レベルの存在も相まって非常に厄介と言える。まるで戦いを楽しみ化の様に新しい発想が取り込まれ発現していく。
『蟹江先生が余計な事を言わなければ問題ありませんわ』
『そもそも私にどんな権限があるんだよ。なんで発言ひとつでルール自体が書き換わったり変更されたりするんだよ、訳が分からない』
偶然発動したデスクローの様に自分に有利に働く効果もあれば、タワーオフェンスの様に積み上げて来た経験を無に帰すような斬新な効果も存在している。蟹江静香の在り方は、自分たちが思っている以上に大きいものなのかもしれない。
『どうも、この世界には【言霊】の存在があるような気がしてなりませんわね。先生、どうせなら自分たちが思いっきり有利になるような発言を心がけて今後過ごして下りません?』
『私の言葉ひとつでこの世界が改善するなら、喜んで発言するよ。というか、序盤の時点で難易度下げてくれとか無敵モードにしてくれとか言えば叶ったのかな』
『そしたらせんせぇ最強の生き物になっちゃうかも……!』
『やだやだ! 私だけ強くなったらやる事が増える! 巻き込むなら全員巻き込んでやる! 連帯責任だ!』
『担任の生徒を巻き込む内容ではない事だけは確かですわね……』
『せんせぇ、わたしはせんせぇの味方だから……♡』
『相塚さぁ~~ん! 先生バブちゃんになりたいよぉ~~!』
『よしよし……♡』
大蟻のモンスターが、大蟹のモンスターに騎乗しながら甲羅を撫でまわしている。異様な光景である事は確かであった。
【マスク判定】【マスク判定】
時速60キロメートルを実現している【大怪獣ブレーメン形態】は遠目にゴブリンの軍勢を発見した。その数は報告よりも多く
偵察のために上空を飛んでいた鳴海蝶子は、その事を報告した。
『視界はあまり良くないけれど、目視で確認しましたわ。およそ二百体ごとに編成を組んで行軍してきていますわね』
『ご苦労様、このまま森に身を潜めてやり過ごそう』
見渡しの良い広い道を選ばず、山岳地帯をかき分けるように進むゴブリン達。森からの強襲を警戒しての行軍だろう。抜け目ない判断だと云える。
道中、彼らは得体のしれない肉塊を口にしており、それを糧として進軍しているのが理解できた。
『相手が全部通り過ぎたら背後から奇襲を仕掛けるよ。その後は離脱すれば問題ないはず。経験上、私の移動速度に付いてこられる生物はそんなに多くないからね』
『わたくしが気にしているのは、先生の運と間の悪さだけですわ』
『そんな事言わないで!』
蟹江静香たちはブレーメンの状態を解除せず、森へと入り、やり過ごした。
達成判定 【6】【1】 成功!
ゴブリンの軍勢に悟られず、背後に回る事が出来た。
『いつでも逃げられる様にブレーメン形態を解除してないから、バレるリスクはあったけど、森があって助かった』
【マスク判定】【マスク判定】
軍隊の最後尾は輸送とそれを護衛するゴブリン達で構成されていた。これらを妨害すれば、敵の進行を大きく遅らせる事が可能となるだろう。
奇襲の達成判定【6】【1】 成功!
大怪獣ブレーメンは【ビルドパワー】を使用し、
MPの圧縮を行ってから、【ストーンシャワー】を繰り出した。
背後からの奇襲に成功している為、問答無用で岩石が降り注ぐ。
「MP300分のストーンシャワーを喰らえ!」
レベルが上昇しMPに余裕が生まれたことで、圧縮ファイアーボールの要領で全体攻撃魔法であるストーンシャワーを発動。
結果は自然災害に近しいものだった。
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