第47話 奪還
「レベルが上がったー! 身体の奥底から知らない力が溢れ出してくる!」
「こ、これが……! 限られた者しか経験出来ないという命の昇格……!」
「あれ程重たかった装備がまるで羽の様だ! なんて素晴らしい力だ!」
兵士も精霊使いも皆例外なく喜びを分かち合っている。砦の奪還が完了した事よりも、物語に登場する戦士たちと、同じ体験が積めた事への喜びが大きいようだ。
鳴海蝶子と相塚みんとは自身の役目を終え、蟹江静香の下へと帰ってきた。
「鳴海さん、相塚さん、そっちの様子はどうだった?」
「問題ありませんわ。ゴブリン達は全て掃討完了しました」
「こちらも、精霊使いの皆さんに被害は出ていないよ。レベルアップが、かなり嬉しかったんだろうね。もう戦いの疲れを忘れてはしゃいでる……」
『それでは、お待ちかね、皆さんの
〈状態〉 デスマスク 中型 LV4
〈称号〉 親喰らい
〈名前〉
HP 798/798
MP 364/364
筋力 216+8 器用さ 211+8
頑強 201+2 知能 208+6
素早さ 200 幸運 216
〈
捕食 作成 製薬 念話
〈攻撃系
カルチノーマの鋏 薙ぎ払い デスクロー
〈基本系
筋力+LV4 頑強+LV1 器用さ+LV4
知能+LV3 英祖の力
〈攻撃系魔法〉
ファイアーボール ストーンシャワー
〈補助系魔法〉
ビルドパワー
〈装備〉 大魔獣の鎧(防御力+20)
〈呪い〉 必要経験 3倍
――――――――――――――――
〈状態〉 雷撃蜂 小型 LV8
〈称号〉 親喰らい LV5
〈名前〉
HP 620/620
MP 580/580
筋力 186 器用さ 206+4
頑強 183 知能 185+4
素早さ 183+4 幸運 185+2
〈
〈攻撃系
〈基本系
素早さ+LV2 器用さ+LV2
知能+LV2 幸運+LV1 蝕の因子
――――――――――――――――
〈状態〉
〈称号〉 愛されしもの
〈名前〉
HP 1145/1145
MP 785/785
筋力 214 器用さ 212
頑強 217 知能 213
素早さ 210 幸運 220
〈
〈攻撃系
〈基本系
〈変質系魔法〉
――――――――――――――――
「どうやら、経験値が三倍必要になる私以外のふたりは、順調にレベルアップを果たしている様ですね。これで戦力がアップ!」
「それにしても、ツェルンの時といい、何故、集団戦闘だとこれ程まで経験値が多く獲得できるのでしょう……? この仕組みを解明すれば、わたくし達に有利な育成方法が見つかるかもしれませんわね」
「わたしたち……モンスターはレベルの上昇に伴って、必要な経験値が増えるけど、レベルの獲得をしていない人間さんとパーティを組む事で、獲得経験値が増えるのかも……!」
この短い戦闘経験で、相塚みんとはゲームシステムの核心に迫りつつあった。彼女の言う通り、このゲームの戦闘における獲得経験値は分配法則が存在する。
更に、戦闘回数が重なれば重なる程、またはレベルが上がれば上がる程、遭遇する外敵のレベルも上昇するという仕組みになっているのである。しかし、まだ彼女達はこの核心に迫った訳ではない。
『そこに、レベルを獲得していない人間との共闘によって、戦闘経験値がバランスを取ろうと獲得数を増加させているという可能性が高いですね』
このゲームの穴、それはとにかく均衡を保とうとするシステムにある。そして本来、人間とモンスターは相容れない存在同士である為、共闘をする事など、常識的にはまずありえない。
つまりこの状況は、世界を構築する理において、イレギュラーな現象となるのだ。
「この流れで、ツェルン達に協力してタワーオフェンスモードを活用すれば、可及的速やかに、レベルを上げる事が可能になるかもしれないわね」
「良い考えだと思いますわ。人間達が力を付ければ、取り返した拠点が再び攻撃されても、陥落まで追いやられる可能性は少ないかもしれません」
蟹江静香は人間達の成長を促し、モンスターに対抗できる力を付けさせようと考えたが、頭の中にひとつの不安要素が過った。
「だけど、獲得経験値の増加は人間には黙っておこう。私は以前、人間の魔法使いに殺された。圧倒的な力の差で一撃だった。ツェルンの事は信用してるけど、バーリーンの人達全てを信用するというのはリスクが大き過ぎる」
「そうですわね。話の通じるツェルンが居たから認識が甘くなっていましたが、基本的に人間はわたくし達モンスターとは別の生き物。警戒に越した事はありませんわ」
「……わたしたちも、元は人間なのに……」
どうしてわかり合えないんだろう、という言葉は続かなかった。ツェルンにも話していない事がまだある上、本当の事を話したところで、蟹江静香たちが魔人の呪いで姿かたちを変化させられている事実は何一つ好転する事はない。
「考えれば考えるだけ、息苦しくなってきますわ。帰らなければならない理由がたくさんあるというのに、目途が立つ様な進展もない……。このままでは精神が疲弊して壊れてしまいますわ……」
「わ、わたしは……今の身体気に入ってる……。背も高いし、おっぱいも大きい」
「……」
鳴海蝶子は無言のまま、相塚みんとにしがみついた。四つの豊満な果実に包まれ、存分に堪能している。
「すーーーーーーーーーーっ……!」
それは深呼吸と云うには余りにも深すぎた。長く、熱く、ねっとりとしていた。
「そんな猫吸いみたいに……」
「あぁっ~~! みんとさんの体臭、めちゃくちゃにキマりますわ……! 猫の数倍は効果がありましてよ……!」
「嘘でしょ⁉ 猫を越えるの⁉ あぁ! 身体が大きいのが恨めしい!」
「ひえぇ……♡ おねえさま恥かしいよぉ♡」
「あぁ! ずるい! 私にも嗅がせて! 強く抱きしめて! 愛して!」
とても教師の発現とは思えない言葉が発動したが、相塚みんとは、蟹江静香の口元に、自分の胸を押し付けて抱きしめた。
「はすっ! はすっ! すはすはっ!」
蟻型モンスターである相塚みんとの、種族特有のフェロモンが鼻腔ををくすぐり、脳神経に働きかける。それは猫の数倍は効果のある成分であった。蟹江静香の体内で愛情ホルモンである【オキシトシン】が分泌し、リラックス効果が高まる。
「先生……気持ちは分かりますけれど……」
「もういいんだ! 私ここに住む! 住民票もここに移す!」
「せんせえ……。流石に住むのはちょっと……♡」
蟹江静香も鳴海蝶子も、度重なる戦いの連続で、相当にストレスが高まっていた。そこに相塚みんとという、フェロモン分泌率の高い仲間がいれば必然と引き寄せられるというものである。
「先生のメンツが丸つぶれする所だったよ。危ない危ない」
もうかなりの手遅れ感があるが、彼女達のじゃれ合いが終わった頃、砦奪還作戦における戦果や、状況処理などが完了し、カリンガ―が報告へとやってきた。
『お三方、大変お待たせいたしました。まずは、この度の作戦にご助力いただきまして誠にありがとうございます。詳しくは砦内部に作戦本部をご用意いたしましたので、そちらにてご説明をさせて頂きます』
『わかりましたわ。すぐに向かいます。先生! 行きますわよ!』
『うわーん! もっと吸いたいー! 相塚さんの赤ちゃんになりたいよー!』
『せんせえ……いい子いい子……♡』
『みんとさんも甘やかさないの!』
新しい依存先が発見されたことで、蟹江静香達は再び活力をみなぎらせる事に成功したのであった。
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