第46話 王の秘策


 バーリーン砦奪還作戦は最終局面を迎えていた。ゴブリンの殆どは殲滅し、残すは小鬼の王ゴブリンキング。英雄から奪ったとされる【シャドラスの大剣】を構え、蟹江静香へと向かってくる。




 小鬼の王ゴブリンキングの攻撃。シャドラスの大剣は炎を巻き上げ、刀身へと宿り、炎の剣へとその姿を変えた。踏み込みと同時に振り下ろされる炎の大剣は、蟹江静香にダメージを与えるには十分な手段である。


 しかし、弱点である炎を使う相手の攻撃を、黙ってそのまま受けた訳ではない。戦場でツェルンを守り続けた大盾を構え、しっかりとその身を守ったのである。


 『ばかな! その鋏で大盾を使いこなすとは!』小鬼の王ゴブリンキングの顔をそう語っている。誰がどう見ても異質であった。亜人であり人間の姿に近いゴブリンの様な存在であるならまだしも、相手は強力な身体能力を備えた純粋な化け物である。更に、武器や防具まで器用に使いこなすとなれば、脅威と言わざるを得ない。


【バーリーンの大盾】――説明。

 金属を加工して製造された大きな盾、この様な装備は金属を大量に使用する為、かなりの資金を費やして製造しなければならない。バーリーンの神子であるツェルンだからこそ、今回所持を許された最高級品である。


 効果としては、物理攻撃に対してダメージを軽減させる事が可能となる。盾での防御が発動する確率は、重さや質に大きく影響されるが、およそ30パーセントであり、発動する事で防御力は+36される。炎のダメージをカットし、炎上を防ぐ。

――――――――説明終了。



「ふははは! 扱い辛い!」


『モンスター用ではありませんからね。そりゃあそうでしょう』


 ルッツはがっちりとロープで固定してくれた為、落ちたりはしないが衝撃がそのまま鋏を通して腕に流れてくる。上手く筋肉で衝撃を分散させなければ、怪我は免れないであろう。


「とはいえ、炎を防ぐことさえできれば何の問題もない!」


 蟹江静香の【カルチノーマの鋏】! それは、相手に確実に命中し、腐食によって防具を損傷させ、さらにダメージを重ねていく。それでも小鬼の王ゴブリンキングは確実な回避によって直撃を防ぎ、鎧の腐食を許しながらも致命傷は外している。


 素早さ、攻撃の精度、現状ではどれをとっても、小鬼の王ゴブリンキングに遅れを取るような事はない。モンスターの格で言えばガゼルタウロスであるサムソンの方が数段格上であるため、蟹江静香に恐怖心は無く、非常に冷静である。


 戦闘中は油断せず、危険の管理さえ行えば問題なく倒せる相手ではある。しかし、厄介なのは炎の大剣。これが的確に命中してしまえば鎧が炎上し、炎による免れようのないダメージが待っている。


 小鬼の王ゴブリンキングの炎の大剣。先程の攻撃とは異なり、大剣を背負う様にしてからの高速の打ち下ろし。溜めの動作で発動が遅れるが、これにより、防御のタイミングを確実に外してきた。


 大盾ごと破壊する重量の乗った攻撃。これを安易に受ければ、大盾が使い物にならなくなる。ならばどうするのか、蟹江静香はこれまでの戦いの中で得られた知見を頼りに、思考ではなく反射によって攻撃へと対応した。


 攻撃の命中と共に大盾を斜めに受け、攻撃を滑らせ受け流す。その防御は繊細であり、ほんの少しの差異で大盾を使い潰す結果へと繋がったであろう。


『パリイだと! 馬鹿な! そこまで可能なのか!』小鬼の王ゴブリンキングは恐怖した。いかに相手が次世代の八英祖だったとしてもありえない。モンスターが武器を持ち、ましてや戦闘で技術性の高い技能スキルを使うなど前例がない。


「なんで⁉ 私はパリイの技能スキル持ってないよ⁉」


『これは、閃きですね。積み重ねた戦闘経験から技能スキルが発現したのです。まさか、炎に対する警戒と意識が一時的に蟹江先生の戦闘技術を高めたのかも……』


【閃き】――説明。

 戦闘の最中、状況や展開などに合わせて技能スキルが体現される生命の足掻き。人間など種族によく見られる特徴であり、戦いの中で成長する。意図的に行う事は勿論だが、無意識下で起こる場合もある。攻撃の技能スキル熟練度が一定に達した際に確率で発現する事もある。

――――――――説明終了。


「そんなロマンシングな事、起こるんだ……!」


『このような事象が発現する世界の構築をしているのは、非常に稀です。以前、装備アイテムで【パリイ】という防御の技能スキルが存在している事を知っていたのが発動の鍵になったのでしょう』


「おぉ! あの時か!」


 木下藤吉と熱帯平原を探索を行っていた時に、死体から手に入れたパリイ・ブレスレットの存在である。しかも、本来パリイは防御に徹して行う技能スキルであるのに対し、発動したのは【オートパリイ】である。


『本来の技能スキルとはまたシステムが異なるようですが、詳細についてはこの戦闘が終わった後にしましょう! まずは、小鬼の王ゴブリンキングを!』


「よしっ!」


 思わぬ能力の発現により命を拾った蟹江静香は、畳みかける様に攻撃を繰り出した。【カルチノーマの鋏】は相手は炎の大剣で防御を試みるが、力押しでそれを弾き飛ばした。シャドラスの大剣は手から離れ、炎は消える。


 拾い直して再び炎を纏わせる。しかし、この動作によって1ターン消費され、蟹江静香に攻撃のチャンスが回ってきた。


「戦いの中で進化しろ! デスクロー!」


 達成判定【6】【6】 クリティカル!


 調子に乗って発言した蟹江静香であったが、なんと【カルチノーマの鋏】はこの戦いの中で本当に【デスクロー】を派生させてしまった。


 鋏から発せられた螺旋状の波動が相手に纏わりつき、見えない拘束具となって相手を縛り上げた。それは筋肉、神経、骨を急激に締め上げ、体力を奪う。


 これには運命の女神も爆笑している事だろう。


『なんだこの技は! か、身体が動かぬ! そして、体力が無くなっている⁉』小鬼の王ゴブリンキングは自分の身に何が起こっているのか判別出来なかった。


【デスクロー】――説明。

 相手のHPを強制的に一桁へと減らし、強制的に麻痺の状態異常にする最恐の技である。発せられた波動が対象者を拘束する事で効果が発揮される。この攻撃は不可視であり、成功する確率は66パーセントである。

――――――――説明終了。


『まさか、初期に話していたデスクローがこんなにも凶悪な技だったなんて……!』


「……どうやら私も、戦いの中で進化しているみたいだね……!」


 どう考えてもやり過ぎである。


「さて、もう絶対に抵抗は出来ないし、今のうちに斃そう。オペちゃん、相手を生け捕りにしたのは初めてだけど、何か出来る事はない? 技能スキルの実験とか」


『そうですね。今まで温めていた方法なんですが、生きている対象を捕食した場合、どの様な事が起こるのか、気になりますね』


「あぁ、そうか……! 今までは殺してから捕食してきたから食べた瞬間にアイテムになって効果が無くなるけど、対象が生きていたらどうなるかは分からないもんね」


『トロールが美味であったことを考慮すれば、小鬼の王ゴブリンキングにも期待が持てると思われます』


「見た目こんなに不味そうなんだけどね……。とりあえず食べてみるか……!」


 蟹江静香は大斧で腕と足を切断し、まずは腕をそのまま食べてみた。


 捕食判定【4】【4】 美味であった。それもトロールよりもかなり。手足を順番に捕食していくと、それぞれで能力値ステータスの上昇が見られた。


 【6】【6】【2】 筋力が6上昇した。

 【6】【4】【2】 筋力が4上昇した。

 【5】【6】【1】 頑強が3上昇した。

 【2】【2】【6】 知能が4上昇した。


「えぇ~! すごく美味しい! 二つの意味で!」


 なんと小鬼の王ゴブリンキングは分割して食べたとしても捕食の効果が適応され、手足の数だけ能力値ステータスが増加したのであった。


「これは嬉しい発見だ……! コイツを生かして治癒を施し、手足を再生させれば、無限に捕食が出来るかも知れない……!」


 蟹江静香が人間にあるまじき悲惨な発想を思い浮かべ、小鬼の王ゴブリンキングを見つめると、王は自らの命を絶った。舌を噛んで窒息したのである。


「あぁー! やめろー! 命を粗末にするなー! まだ回復魔法でなんとかなるかもしれない! ツェルンにヒールを掛けてもらわなきゃ! 経験値が!」


『一騎打ちモード終了!』


――――――――戦闘終了。


報酬―――――――― 

 経験値+360000

――――――――入手。


 ファンファーレが鳴り響き、

この場にいる全員のレベルアップが確認された。


『『我らの勝利だーっ! 勝鬨をあげろーっ!』』


ツェルンとルッツの叫びが、戦場に響き渡った。


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