第43話 決戦前日。

 カニ生活27日目――――――――


能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 デスマスク 中型 LV3

〈称号〉 親喰らい

〈名前〉 蟹江静香かにえしずか


HP 568/568

MP 256/256


筋力  136+8  器用さ 141+8

頑強  138+2  知能  148+6

素早さ 140    幸運  156


技能スキル

 捕食 作成 製薬 念話

〈攻撃系技能スキル

 カルチノーマの鋏 薙ぎ払い

〈基本系技能スキル

 筋力+LV4 頑強+LV1 器用さ+LV4

 知能+LV3 英祖の力

〈攻撃系魔法〉

 ファイアーボール ストーンシャワー

〈補助系魔法〉

 ビルドパワー

〈装備〉 大魔獣の鎧(防御力+20)

〈呪い〉 必要経験 3倍

――――――――――――――――




 蟹江静香とその仲間たちは、バーリーン精霊国の砦奪還部隊と合流を果たした。


 事前に知らされていた、総勢一千の兵士たちが彼女達を待ち構える。


 神子であるツェルンが、

ルッツの手を借りて演説台にあがり、高らかに宣言をする。


「皆の者! 苦しき状況の中、この度の出陣、誠に感謝する! 貿易拠点を奪還し、輸送の目途が付いた!」


 貿易拠点デスシズカを通して、この駐屯地へと持ち込に成功した物資は、演説台からもよく見える位置に保管されている。


 食料、武器、日用品からなる支援物資は、決して豊富とは呼べないものの、少なくとも兵士を鼓舞し、安堵させ、十分に食べさせるだけの量を確保していた。


「更に、貿易拠点に引き続き、彼ら次期八英祖のお三方が戦闘に参加してくださる! 我々と直接戦場を共にする訳ではないが、協力関係にあるのは間違いない! 途中、戦場にただならぬ殺気が飛び交うとは思うが、全員肝に銘じておけ! この戦いに勝利し、真の英雄となるのだ!」


 その激励に対し、兵士全員が短く応答した。


 雄々しく、勇敢に兵士たちの前で演説するツェルンは、年齢からは考えられない程に立派であると、蟹江静香達の目には映る。


 安易な思い付きによって、人間側への協力を決定した蟹江静香だが、この場に集まる兵士たちの心情を思うと、胸に熱いものが込み上げてくる。


 蟹江静香もまた、生徒を守り、自分の命を懸けた戦いを強いられている。一体何の目的や意図があったにせよ、巻き込んだ相手に対して、ケジメを付けさせるという決意は強く固まるのを感じていた。




 ツェルンによる演説会が終了し、物資の配給が滞りなく終了すると、明日の攻城戦に備えて、各々は自由に行動する時間となった。武器を手入れする者、馬の世話をする者、手渡された食料を調理する者など様々である。


 兵士たちが一息ついている頃、蟹江静香たちの前に、一際異色を放つ人物が現れた。緑色の紋様が染め仕上げられているローブを身に纏い、自然の結晶石を加工して作られた立派な杖を携えている。


 『お話は神子さまより頂いております。御三方の軍師、ナルミ様とお見受けしますが、よろしいでしょうか?』


 彼は念話を使いこなし、鳴海蝶子へと挨拶をした。


『えぇ、よろしくてよ。あなたがバーリーンの軍師さん?』


『お初にお目にかかります。軍師のカリンガ―と申します。まずは、拠点の奪還とこの度の参戦。誠に感謝いたします』


 作戦指揮を行うのはバーリーンの軍師であり精霊術師エクスエレメンタラーでもある、【聡明のカリンガ―】という男であった。その冠名に恥じない聡明さを持ち合わせており、バーリーンの中央都市を陥落された際にも、全ての住民を逃がし、敵よりも圧倒的に少ない兵士の数で応戦。見事に逃げ切ったという経歴を持つ。


『あなた、念話が使えますのね……。それもかなり精度が高い……』


『我々の様なバーリーン術者は、日夜精霊の声を聴いております故、他国の精霊使いよりも、その練度が高い事を自負しております。ご用命の際には、私か部隊の精霊使いエレメンタラーにお申し付けください。私の様に、緑色の紋様が入ったローブを身に着けている者達がそうです』


『そうね。よろしく頼みますわ』


『つきましては、攻城戦における作戦立案の意見を……!』


 鳴海蝶子とカリンガ―は作戦司令部へを向かい、攻城戦に備えて綿密な作戦を練ることとなり、蟹江静香から一時的に離れる事となる。


 共同作戦という程ではあるものの、集まった兵士たちは皆、蟹江静香と相塚みんとに興味を示している。精霊が実在している世界であり、信仰も深い彼らは、モンスターの存在も少なからず意識している者が多い。


 それが念話を通して会話出来るとなれば、モンスターである彼女達の真意を知りたいというもの、無理のない話であろう。


「す、すごいぞ……! 何がとは言えないが……! なんて迫力だ……!」


「これだけの大きさだ。戦いになればさぞかし勇猛に戦えるのだろう!」


「かの有名なミルウィートの軍勢は剣と盾、更には槍などの武器を使いこなし、一糸乱れぬ統率で勇猛に戦うと言い伝えられている! この方もそうに違いない!」


 特に相塚みんとに向けられる視線は、モンスターへと向けられるものとは異なるものであった。種族を越える魔性の魅力は、若い兵士たちの趣向を狂わせる。


『まぁ、見るよね。あれだけの美しいおっぱいが縦と横に並んでいたらさ……』


 蟹江静香の見立て通り、大体の兵士たちが熱心に視線を注いでいるのは、豊満を大幅に超越した爆乳である。これは相塚みんとの顔よりも大きく、動作の度に若い兵士たちは、催眠術に掛けられたかの様な視線誘導を起してしまう。


 種族は異なるが、やはりオスとしての宿命サガには逆らえない。


「ミントさま! 私の分の食糧です! お納めください!」


「ミント様! 僕の分も召しあがってください!」


「ミントちゃまの専属兵士になりてぇ~!」


 いつの間にか相塚みんとの周りには若い兵士が集結しており、この場には様々な想いが交錯している。


『みんな小さくて踏んじゃいそう……。せんせえ~! 助けてぇ……!』


 途中から趣向が極端な兵士も現れたが、本来あるべきモンスターに対する警戒心よりも、八英祖への憧れや、種族的な魅力に皆が興味を示していた。ちなみに、自分の食料を渡そうとした兵士は、上官から熱い叱責を受けた。




 一方の蟹江静香は――


「なんと素晴らしい……! 固い甲殻の上に、上級モンスターの素材で構成された鎧をまとっている……! それでいてこの大斧……!」


「こ、これはあの【孤高の黒騎士グレーリン】のものでは……⁉ 間違いない! 俺は昔、戦場を駆け巡る【暴風】を目の当たりにしたんだ!」


「先の大戦の最中、失われていたという名高い大斧を何故このお方が……! まさか……! あの黒騎士を打倒して……⁉」


「蝕のカルチノーマ……! おれ故郷の婆ちゃんに昔話として聞いたことあるぜ!」


 こちらは異なる方向性で話が盛り上がっている。個々の会話はバーリーン共通語で成立している為、蟹江静香たち異世界人には全く理解できないでいた。


『リスニングによる会話解析は、もうしばらく時間を頂く必要があります。ご了承ください』


 オペレーションシステム、【天の声】が懸命に分析を行っているが、やはり訛りと特徴が強い為、自動翻訳機にかけるには手間取っている様であった。


 通訳を任された精霊使いは、終始質問に挟まれ疲弊している。


『わたくしはカリンガ―様程、念話の精度には自信がありません……。ご無礼がございましたらお許しください』


『いいよ、構わないよ。モンスターに明確な意思がある個体は珍しいからね』


「『我は寛大なる心で無礼を許そう。奇異な目で見られるのも致し方ない』」


「おぉ! 流石は次世代の八英祖! 話が分かる!」


 レベル差や精度によって意訳が行われるが、この程度であれば許容範囲と云える。この微妙なズレが、今後に大きくかかわる事を蟹江静香はまだ知らない。




【トピックス】――――――――

 八英祖の歴史は長く、モンスターは基本的に長命の種族が多い。

子供達が聞くであろう寝耳物語によく登場し、各地方それぞれ、英雄や大罪者として扱われる口伝が多く残されている。子供をしつける為の方便が殆どである。

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