第33話 切り札は最後まで


 ――熱帯平原


 蟹江静香は一刻も早くレベルを取り戻す為、熱帯平原の探索に力を注いでいた。車の様な速度で大地を横断するの姿は、まさしく怪物そのものであり、偶然それを目にした人間達からは、畏怖の対象として恐れられたという。


 探索判定【4】【2】 敵影発見!


 強靭な鋏と尻尾を備えた、大きなサソリが4体同時に現れた。


「……! サソリって群れを作る習性あったっけ⁉」


『モンスターならあり得ます。経験値が分散しますが、確実に相手を殲滅する事が可能となりますからね。数の暴力とはそういうものです。張り切ってまいりましょう』


 イニシアティブ判定! 成功! 

蟹江静香、サソリ達の順番で戦闘は開始される。


 達成判定 【3】【3】 成功! 蟹江静香の薙ぎ払い!


 サソリ4体に対して均等にダメージが与えられた。


 サソリの攻撃! 【マスク判定】鋏攻撃! 【連撃】発動!


「あっ! 連撃発動した!」


『これは……ダメですね』


 連撃が発動した事で、蟹江静香はサソリからタコ殴りに遭い、死んでしまった。




 絆の楔が――――――――


 ――――――――現界へと魂を縛る。



 蟹江静香は蟻塚住宅へと死に戻った。サソリの連撃が余りにも鋭い為、痛みを感じる前に死んだのは、結果として精神的負担を減らした。脚が1本喪失している。




「……お早いお帰りですわね……先生……」


「普通に死んだわ。外敵4体は流石に無理! 能力値ステータスが拮抗している相手に対して薙ぎ払いがあったとしても手数で勝てない! こうなったら、装備をアホみたいに強くするしかない!」


「そうなると思いまして、素材をピックアップしておきました。粘着剤なども用意してありますので、いつでも生成が可能です」


「よーし! 作るぞー!」


 以前は草の鎧をベースに、モンスターの毛を張り合わせる事で魔獣の鎧を制作したが、今回は素材が全体的にレベルが高いものばかりなので、構想を練る。


【材料一覧】――説明。

 猪の大牙 鰐の皮 大餓狼の大鬣おおたてがみ2枚 巨大蜂の毒針2本 ネズミの尻尾 粘液筋肉 ジャガーの牙 サソリの尾 トカゲの鱗 豹の牙 大熊の毛皮

――――――――説明終了。


「防具に使えそうな素材が余り多くないから、工夫しないと作れないな……。鳴海さんも手伝ってください。細かい作業は片鋏では出来ないので」


「わかりましたわ」


 鎧のベースとなるのは大熊の毛皮と、鰐の皮である。これをデスマスクの外装に合わせてカット、モンスターの素材である為、頑丈ではあるがデスマスクの鋏の前では関係ない。余った鰐の皮をベルト状にして、カットした素材とそれぞれを連結。


 これでベースとなる【大熊と鰐の鎧】が完成した。さらにこの上から、液体筋肉を接着剤として刷毛で塗装し、大餓狼の大鬣を流れに沿って貼り付けていき、毛並みを整えると、【大魔獣の鎧】が完成した。



【大魔獣の鎧】――説明。

 大熊の毛皮と鰐の皮をベースに、大餓狼の鬣をふんだんに使用した鎧。分厚い剛毛が攻撃を遮るため、最終防御力20増加に加えて、斬、欧、突の攻撃属性に対して20パーセントのダメージカット効果が望める。毛は防水だが、炎と熱に弱い。

――――――――説明終了。



「出来たー! ベルトはある程度長さ調整可能だから、ひとまわり大きくなっても安心して装着できる!」


『以前制作した魔獣の鎧よりも立派な防具に仕上がりました。装備データとして詳しく解析しておきます』


 蟹江静香が着心地を確かめながら、動作確認をしている。鳴海蝶子にとって、その動きはなんとも滑稽に映った。


「こういうのもなんですが……蟹江先生。その装備、なんだか山賊みたいですわね」


「客観的に見たらそういう印象なのか……アウトローみたいでカッコよくない?」


「どちらかと云えば、世紀末ヒャッハー系ですわね。何処かの一族が着てそうですわ。牙を付ければ完璧ですわね」


「エーっ⁉ そうなの⁉ えっ⁉ カッコよくない⁉」


「見た目はちょっとアレですわね。性能が良いのであれば、目を瞑れる程度ですが」




能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 デスマスク 中型 LV1

    (右鋏喪失)(脚喪失3)

〈称号〉 親喰らい

〈名前〉 蟹江静香かにえしずか


HP 152/152

MP  64/64


筋力  59+2

頑強  60+2

素早さ 62

器用さ 47+8

知能  47+2

幸運  49


技能スキル〉 捕食 作成 製薬 念話

〈攻撃系技能スキル〉 カルチノーマの鋏(使用不可)

        薙ぎ払い

〈基本系技能スキル〉筋力+LV1

        頑強+LV1 

        器用さ+LV4

        知能+LV1

        英祖の力

〈攻撃系魔法〉 ファイヤーボール

        ストーンシャワー

〈補助系魔法〉 ビルドパワー

〈装備〉 大魔獣の鎧(防御力+20)

〈呪い〉必要経験 3倍

――――――――――――――――


「まだ時間はあるから、これ着てもう1回探索してくる!」


「いってらっしゃいませ」


 そして、蟹江静香は夜の熱帯平原へと繰り出す。




――熱帯平原 夜


『夜の外出は初めてですね。本来であれば、夜が明けるまで拠点で待機するのが一般的なのですが、今回はレベルアップを最優先でこなしましょう』


「夜の世界に対して何か注意事項はある?」


『夜行性のモンスター、つまり肉食獣が多く出現します。その代わり、トカゲなどの変温動物や、虫系統、草食系統、夜目の効かない鳥なんかも、あまり出現しません。あとは、日の光がない為、基本的に寒く、装備や状態によっては、寒さによるダメージを受ける場合もあります』


「まぁ、寒さに関しては大魔獣の鎧があるからいいとして、問題は夜のモンスターがどれくらい強いのかだけど、戦ってみるしかないよね。しかし、デスマスクって便利だな……。夜目も普通に効くのか……。視野が狭くなることもないし」


『これ以上脚を捥がれない様、危なくなったら逃げるもの視野に入れ、戦ってください』


「サソリの連撃みたいなハメ攻撃は滅多にないと思いたいな……」


 探索判定【4】【5】 敵影発見!


凄まじい闘気をまとった、ボス狼が1体目の前に現れた。その禍々しいモンスターには顔が3つあった。


「これ、また死ぬのでは?」


『逃げても捕まりそうですね。ここは戦うしかなさそうです』



 イニシアティブ判定の結果、ボス狼1体、蟹江静香という順番になった。


 1ターン目――――――――


 達成判定【5】【6】 成功! 噛みつき!


 蟹江静香の体力が一気に2割削られた。


「もうダメだ、MP全部使ってビルドパワー掛けま~す!」 


【ビルドパワー】――説明。

 達成値は20であり、1回の使用にMPを10消費し、攻撃の達成値を20上昇させる。MPの消費量に応じて達成値が上乗せされる。力は使いこなさなければならない。溺れれば己自身を破壊することになる。

――――――――説明終了。


『この方法は、サムソンに忠告された方法ですが……』


「死んだらそれまでだからね! 使う! 覚悟完了!」


 達成判定 【6】【1】 成功! 次に行う攻撃の達成値に120が追加される。



 2ターン目――――――――


 達成判定【5】【6】 成功! 噛みつき!


 さらに、蟹江静香の体力が2割削られた。


 達成判定【5】【3】 成功! 超薙ぎ払い!


 蟹江静香の超薙ぎ払いが全力で放たれた。鋏から繰り出される衝撃によって、ボス狼の身体は歪に変形し、大量の出血が確認された。顔のひとつが完全に潰れ、超薙ぎ払いの破壊力を物語っている。それに伴い、左の鋏が完全に崩壊した。


「う゛わ゛あ゛あ゛ぁぁあぁっ!」


 鋏の外装が完全に砕け、骨と筋肉が露出し、神経がむき出しになっている。血まみれになりながら放った攻撃であったが、ボス狼の命を刈り取るには届かなかった。


「クソが―っ!」


『両腕を失ったことで、物理による攻撃手段を失いました。戦いを継続しますか⁉』


「する! ここまで来たらもう相手を殺すしかない!」


『攻撃の手段はどうしますか⁉ わたしにはアイディアがありません!』


「私にはある!」




 3ターン目――――――――


 達成判定【3】【2】 達成! 噛みつき! 傷が広がり出血が増える。


 さらに、蟹江静香の体力が2割削られた。


『あと2発貰えば死にます!』


「まだ2発ある!」


 ここで蟹江静香はインベントリから【願いの輝き】を取り出した。


「【願いの輝き】をMPに変換!」


『願いの輝きを使用したことで、MPが10回復しました』



 4ターン目――――――――


 達成判定【5】【5】 達成! 噛みつき! 出血が大きくなる。


 さらに、蟹江静香の体力が2割削られた。


「MP全てを使って! 【ファイヤーボール】!」


 達成値 【1】【6】 達成! ファイヤーボール発動!


 蟹江静香の口から、【ファイヤーボール】が発射された、構える筈の両腕を既に失っている為、真っ直ぐ飛ばすにはこの方法しかなかったのだ。


 ボス狼にファイヤーボールはが直撃した! さらに、炎上効果が付与され、ボス狼の身体を焼き尽くしてゆく。


『ま、まだです! まだ生きています!』


「しぶとい奴だ……! しかし、終わりだ。狼の毛はよく燃える!」


 燃え移った炎は、狼の毛に含まれる防水油によって激しさを増した。これは、狼の毛皮で防具を作り続けた蟹江静香にとって、もはや常識である。炎はやがて全身を覆いつくし、生命が維持できない程に燃え広がっている。


『な、何故……! いかに炎が強くとも、HPにはまだ若干の余裕があったはず……!』


 狼は炎から逃れようと必死に足掻いているが、容赦なく炎は強くなり、顔まで到達して遂には視界すら奪った。パニックになった狼は痙攣を起し、その場に倒れる。


「オペちゃん……。飛田喜一くん、憶えてるでしょ?」


『はい! カエルの生徒さんで、ウォーターボールの使い手……! まさか……』


「そう、【窒息】だよ。ファイヤーボールは【炎上】の追加効果を持っている、だけどそれだけじゃHPを削り切れない、ならHPに関係なく倒せる方法で戦うしかない。

水で可能なのに炎で窒息しない道理はないと思ってね……」


 炎が周囲の酸素を燃やす事で、相手から呼吸を奪い、無理に息をしようとすれば内臓が焼ける。野生の獣には到底防ぎようがない。


『で、ではなぜ、フルパワーで薙ぎ払いをして、左鋏を砕くような真似を……!』


「狼の動きは機敏だ。ファイヤーボールが躱される可能性があった。回避の技能スキルを持っているかもしれないし……。それを極力防ぐためさ」


 ボス狼は、例えフルパワーで殴ったとしても、HPで耐える確信があった。それならば、ダメージを受けて左鋏を砕き、攻撃手段を奪おうと考えたのだ。


「しかし、それは囮、相手はまさかデスマスク……。蟹である私が、炎の魔法を使うとは考えてもいなかっただろう。そして、願いの輝きによるMPの補充……。サムソンに教えてもらってなかったら、どうなっていた事か……」


『蟹江先生がこれ程まで考えて、戦いを行っていたことに驚きを隠せません』


「正直が過ぎるでしょオペちゃん……! あとは、窒息で倒れたボス狼が、炎と出血の継続ダメージで死んだら、戦闘終了さ」


 狼の様に口呼吸で活動を行い、体温を調整する動物は、窒息に対応する手段を持ち合わせていない。ボス狼は窒息の状態異常のまま、炎上と出血のスリップダメージにより死亡した。

――――――――戦闘終了。



報酬―――――――― 

 経験値+12000

――――――――入手。


 盛大なファンファーレが鳴り響いた。




【ファイヤーボール】――説明。


 炎属性を持つ一般的攻撃魔法。相手に向かって真っすぐ飛び、着弾すると、大きく燃え広がる特性があり、隣接していると複数に被害が及ぶ場合もある。達成基本値は10で、2D6のダメージを与える。達成値が5上がる毎に、判定ダイスの数が1ずつ追加され、追加ダメージが+3される。状態異常判定に成功すると、相手を炎上させる事も可能である。


――――――――説明終了。


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