第32話 受け継がれてゆく因子
蟹江静香がサムソンと話を進める中、戦利品である脚素材を食べ終わったふたりは、少し離れて様子を伺っていた。夜も更け、熱帯平原は昼間とは打って変わり、かなりの寒さとなっている。
「せんせえ楽しそう……♡」
「わたくし達をずっと探し続けていたんですもの、さぞかし気を張り詰めていたと思いますわ。自分の命も掛かっている中で、常に生徒を想いやる気概、蟹江先生は……本当に思い切りのよい人物ですわね」
「おねえさま……。せんせえの脚は適合した?」
「えぇ、カルチノーマの因子をしっかりと受けました。腐食の属性を帯びたことで、毒の生成に幅が生まれ、薬を体内で精製する事が可能となりましたわ。みんとさんは、適合できましたの?」
「うん……。おぺちゃんの話だと、進化先に母の因子を受け継いだ【
「天の声、わたくしの
『了解しました』
〈状態〉
★
〈称号〉 愛されしもの
〈名前〉
HP 156/156
MP 122/122
筋力 42
頑強 44
素早さ 40
器用さ 41
知能 41
幸運 45
〈
〈攻撃系
〈基本系
〈変質系魔法〉
――――――――――――――――
〈状態〉 雷撃蜂 小型 LV2
〈称号〉 親喰らい LV5
〈名前〉
HP 134/259
MP 100/121
筋力 56
頑強 53
素早さ 53+4
器用さ 66+4
知能 55+4
幸運 55+2
〈
〈攻撃系
〈基本系
器用さ+LV2
知能+LV2
幸運+LV1
蝕の因子
――――――――――――――――
「この結果から察するに、【正統な後継者でなければ、八英祖の力は大きく受け継がれない】という事が分かりましたわ。それでも、取り込む事で因子を引き込み、能力を向上させる効果が見込まれますわね」
「わたしも、進化……♡ 早くしたい……♡」
「天の声、みんとさんの進化にかかる時間はどれくらい?」
『
「そういう事だから、進化は拠点に戻るまでお預けね」
「はぁい……♡」
「みんとさん、蟹江先生と話を付けてくるわ。あの人たちまだ話が長引きそうだし、わたくし達は先に休む事にしましょう」
その後、ふたりは見張りを白犀に任せ、その場で休む事にした。サムソンの覇気の所為で周囲のモンスターが襲ってくることは無い。
生徒ふたりが床に就いたのを確認し、蟹江静香とサムソンは酒の話で盛り上がった。サムソンの持ち歩いていた酒は人間を返り討ちにした際、手に入れたもので蜂蜜を原料としたミードであった。
『ミードと聞いたらあまり印象が薄いけど、蜜の純度か酒の工程がよいのか、めっちゃうまい……!』
『ワガハイは酒の存在を知ってからは、襲い来る人間をむやみに殺すのをやめた。これ程のものを作る種族、粗末に出来ぬと考えたからだ。行く先々で念話が使える者を捕まえて、酒を手に入れてきたが本当に美味い。蜂の巣を舐めた所でこの様な味は出来ない』
ミードが生まれたのは紀元前、蜜蜂の巣に雨水が溜まって発酵したものが原型と云う説がある。偶然の産物である奇跡、酒にサムソンは心を奪われ、各地を探索しながら、冒険者たちを返り討ちにし、野生のモンスターと戦う生活を続けているという。
『その実、ワガハイは【つがい】を求めておるのだ。ガゼルタウロスは八英祖たちの争いに巻き込まれ、命を落とした個体が多い。その中でワガハイはカルチノーマに助けられる形で命を拾った。あの方は気にもかけてはおらんかったがな』
『お母さんは強いから話普通に通じるんだよね。ミルウィートもそうだけど、やっぱり強いものこそ、強者としての風格を持ち合わせていないとね』
『それよ、ワガハイも強者としての信念と矜持を心に、そして存在意義を魂に刻み込んでおる。上位のモンスターとして力を手に入れたからには、成すべきことがあるのだと、ワガハイは考えておる』
実力と倫理観を備えたサムソンは、蟹江静香がこの世界に来て一番親近感がわく存在であった。彼には強者に必要な要素が備わっている。その日は夜遅くまで語り合い、夜を明かした。
【トピックス】――――――――
強い者同士は、いずれ惹かれ合う運命にある。それは時と場合を選ばない。
――――――――――――――――
カニ生23日目――――――――
熱帯平原に日が昇る。生き物たちはそれぞれの習性に従い、世界は動き出す。
『ワガハイはこれより西に向かい、大戦時に散った仲間を探すつもりである。デスマスクのシズカよ。お主と出会えた運命に感謝する』
『私も、色々教えてくれてありがとう。本当に助かるよ。私たちは一旦、拠点に戻って生徒の進化を見守り、その後は北東の山岳地帯で仲間を探してみるよ』
『うむ。達者でな、次回、
『私も出来るなら酒を用意するよ!』
『ふははっ! 楽しみにしておるぞ!』
そう言って、サムソンは熱帯平原を西に駆けてゆく。その速度はまさしく神風、あっという間に視界から消え、その場に静けさが残った。
「さぁ、拠点に戻ろうか。今から向かえば相塚さんの進化に間に合うと思うよ」
「そうですわね。18時間も掛かる訳ですから、時間は大切にしないと」
「しゅっぱーつ……♡」
帰還判定【マスク判定】――成功。
オペレーターの案内により無事に拠点へと辿り着いた。
――蟻塚住宅
蟻塚住宅に到着してすぐ、相塚みんとは進化に入った。ミルウィートの一部を身体に取り込んだことで、新たな進化先を得た彼女は、頼もしい戦力として活躍してくれると皆が期待している。
相塚みんとが進化を確定させると、それは大きな蛹を形成し始めた。その場で待機していた白犀が自らを捧げ、魔力の塊となって蛹の中に取り込まれてゆく。
「魅了されていたモンスターも進化の糧になるのか……。果たして最善の手だったのか……。進化に関してはまだまだ謎の部分が多い……。相塚さんがひとりでも戦えるだけの力を手にしてくれたら嬉しいんだけど……」
「心配ありませんわ蟹江先生。みんとさんは自身の機嫌を操作できるようになりました。しかも、この世界指折りの実力者である、ミルウィートの力を受け継いで進化するのですから」
「思い出しただけでも震えが止まらなくなる。あの一瞬で私の脚を切断するなんて、
実際、対峙したミルウィートは実力の一割も見せていなかった。それでもなお、蟹江静香は手も足も出なかった。それはレベルが下がる前でも同じだろう。
「鳴海さん、ここで彼女を守っててもらえる? 私は少しでも経験値を稼いで、レベルを2にしておきたいの。お願い」
「かしこまりましたわ。何かやっておくことはありますの?」
「私の持っている素材アイテムから、鎧に適した物を選別してほしいわ。帰ってきてから
『装備の有用性に関して、詳しくはログをコピーしてある私の方から説明をしておきます。蟹江先生は時間を有効にお使いください』
「ありがとうオペちゃん」
「わたくしは天の声に残された戦闘データの解析と、それに伴い、装備に適した素材の選別を行いますわ。いってらっしゃいませ」
蟹江静香は残された探索2回分を、戦闘に充てることにした。丁度、モンスター3匹程を討伐すれば、経験値テーブル的に、レベルが2に戻る計算である。
「いってきます!」
【トピックス】――――――――
八英祖の因子を取り込めば魔力が爆発的に高まり、体内の結晶が強化される。それに伴い、
――――――――――――――――
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