第28話 自分を奮い立たせろ
電撃蜂へと転生していた生徒、鳴海蝶子と合流し、蟹江静香はと相塚みんとは、休憩を終えて熱帯草原の探索を再開することにした。
探索判定【5】【5】 新しい2体の敵影を発見した。
均整が整った中型の野良イタチと、地面を豪快に這う大蛇が争っている。
「漁夫の利……をしたところで、こちらの人数は3。経験値としては美味しくない。なので、ここから観戦をして、相塚さんに戦いの基本を憶えてもらいましょう」
「そうですわね。片方が瀕死になってから、みんとさんだけ突撃すれば、経験値も手に入るかもしれませんし……」
「へ、兵隊さんに任せちゃ……だめですかぁ……?」
「相塚さん、苦手なものから逃げているだけでは、立ち向かわなきゃならない時に困るのは自分なんですよ。経験は自信に繋がり、積み重ねが根拠を構築してくれます」
「だってぇ……! 戦いのは怖いし、死ぬのは痛いから……」
相塚みんとは、この世界での産みの親に殺されたというトラウマと、死に戻りの恐怖で、完全に萎縮してしまい、戦闘に対して消極的になってしまっていた。これまでは魅了した兵隊が彼女を守っていたが、今後もそれが可能である保証は何処にもない。
「みんとさん、考えてもごらんなさい。蟹江先生とわたくしがそばについている現状で、安全に戦えるというのは、ある意味恵まれていましてよ。あなたひとりの時に、敵と戦う事はできる?」
「できないぃ……」
「挑戦と云うものは全て、自転車を乗るようなものですわ。意外にもやってみたら割と出来るものよ。あなたの
「でも、怖いのはどうしたら……」
「みんとさん、あなたが本当に怖い事はなんなのかしら? 練習で戦えず、この先の本番にも役に立てず、大好きな蟹江先生のお荷物になって迷惑を掛ける方が、もっと怖いのではなくて?」
鳴海蝶子の論法は理にかなっているが、比較法と呼ばれるもので、どちらの方がマシなのかという選択を迫るものである。立ち向かわなくてはならない事は世の中に多い、人は自身を奮起させ、騙し、困難にも打ち勝っていかなければならないのである。
「相塚さん、この挑戦は無謀ではないわ。私は学校であなたに、勇気の出し方を教えたでしょう? あれをよく、思い出して頂戴」
感情を制するのは、生物が分泌するホルモンにある。交感神経と副交感神経に働きかけるこの機能は、生物が困難を乗り越える為に備えたものであり、脳を支配すれば、身体を奮い立たせる事も可能となる。
「自分自身を奮い立たせる……!」
「わたしは……! つよい……!」
そう口にした瞬間、相塚みんとの外装が真っ赤に変化した。それに伴い、白犀の目が真っ赤に変化し、周囲に絶大な殺気を巻き起こす。
その結果として、争っていた2体のモンスターは標的を変更し、気配を頼りにこちらへと突撃してきた!
『こ、これは……! モンスターの危機感知能力に直接作用してます! 新しい
オペレーターの解説に割り込む様に、2体のモンスターが奇襲してきた。
対乱入判定【2】【4】 成功!
存在をあらかじめ認識していたため、驚きや戸惑いは起こらなかった。
イニシアティブ判定により、蟹江静香、イタチ、ヘビ、相塚みんと、鳴海蝶子の順番で戦闘が開始される。先程まで戦っていた2体は両者とも体力が半分にまで削れている状態である。
1ターン目――――――――
達成判定【1】【1】 ファンブル! 蟹江静香の攻撃は失敗した。盛大に転倒したが、相手の敵対心は白犀と相塚みんとに向かっている為、ペナルティはない。
「うぼわーーーーっ!!」
「蟹江先生! 何をやってますの⁉ しっかりなさってください!」
「違うんだ! この世界の仕様上、確率の収束に逆らう事が出来なくて……!」
イタチとヘビの攻撃順番が続いている為【連撃】である【引っ掻き噛みつき】が発動した。白犀の分厚い皮膚を削る攻撃が繰り出されるが、その絶大な防御力に斬撃は効果が薄かった。
達成判定【4】【5】 成功!
相塚みんとによる白犀の突進攻撃。犀特有の目の悪さを、相塚みんとが上手く誘導している。角による突き上げ攻撃が炸裂する。角の貫通力と、地面に叩きつけられるダメージが相手を苦しめる。
達成判定【2】【4】
続けて鳴海蝶子の【電撃針】
【雷撃針】――説明。
器用さ数値参照で、達成値20の刺突属性攻撃。2D6と追加で12の固定ダメージを与える。それと同時に神経毒により麻痺を与える事が可能。神経毒は知能により効果が増す。相手の頑強が高いと無効化される場合がある。この時の計算式は、【自分の知能数値VS相手の頑強数値】となる。数値が同一の際は、麻痺の確率が50パーセントとなる。
――――――――説明終了。
渾身の一撃! 雷撃針はイタチ型モンスターの身体に深く突き刺さり、致命傷を与え、神経毒の効果により、全身の麻痺を誘発。相手はその場に倒れた。
2ターン目――――――――
蟹江静香の達成判定【3】【4】 成功!
左鋏による薙ぎ払いが炸裂。ヘビに対して激しい痛撃が繰り出された。
「相塚さん! 今です! 兵隊と共にトドメを!」
「わかりましたぁぁ!」
相塚みんとの身体は、ホルモン操作によって激高し、真っ赤に変化している。兵隊である白犀との連撃が発動した。
「わたしの身体が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと煌めき叫ぶ!」
達成判定【2】【6】【2】【4】 成功!
白犀と相塚みんとの連撃、【噛みつき突進】は見事に成功。激しく地面に叩きつけられたことで、ヘビの命を刈り取った。
その後は、麻痺したイタチ型モンスターを、相塚みんとの手でトドメを刺す事で、外敵を殲滅する事に成功した。
――――――――戦闘終了。
報酬――――――――
経験値+3000
蛇の猛毒
モンスターの肉
――――――――入手。
ファンファーレが鳴り響く。
適性なレベルよりも多くの経験値を手に入れ、
相塚みんとのレベルが一気に3上昇した。
〈状態〉
〈称号〉 愛されしもの
〈名前〉
HP 156/156
MP 122/122
筋力 42
頑強 44
素早さ 40
器用さ 41
知能 41
幸運 45
〈
〈攻撃系
〈変質系魔法〉
――――――――――――――――
「やったぁ……♡ レベル、あがったぁ♡」
戦闘を終えて、相塚みんとは完全回復し、一回り大きくなった。
それは、レベルアップしたことによる成長もあるが、自身のホルモン操作を身に着けたことによる、恐怖の克服も合わせた大きな成長となった。
身体の色は、本来のピンクへと戻り、落ち着きを取り戻していた。
「やりましたわね! みんとさん! やっぱりやれば出来る子ですわ!」
「相塚さん! やりましたよ! 兵隊との連撃まで発動させるなんて上出来です!」
「う、うれしい……♡ わたし、ちゃんとできたぁ……♡ せんせえと、おねえさまのおかげ……♡」
蟹江静香と鳴海蝶子は、相塚みんとに対して、生物的な恐怖を覚えた。
『これが、人の成長と愛……! ドラマチックですねぇ……! 神界機構の皆様方が夢中になる訳です……』
【トピックス】――――――――
脳は自身の環境や状況を認識する力が非常に曖昧である。それ故にホルモンのコントロールで、気力を出したり、リラックスすることで身体の回復を促したりすることも可能となる。もちろんこの世界でも有効な手段である為、生物はみなこれを自然と習得している。自分の機嫌をとるのはいつも自分である。
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