第27話 蜂のように刺す。
カニ生22日目――――――――
この日は朝早くから、熱帯平原にて戦いの流れや、連携について打ち合わせをしていた。相塚みんとはこれまで戦いを全て魅了した兵隊に任せ、自身では面と向かって戦ったことがなかった。
それに伴い、身体の使い方や暴力行為の方法が分からず、このままでは独り立ちが出来ないと、蟹江静香は頭を悩ませていた。
「とりあえず、手頃な相手を捕まえて実践をするしかないか。相塚さん、私の背中に乗って。探索しながら戦闘相手を探すよ!」
「はぁい♡ せんせえ……♡」
彼女は非常におっとりとした性格をしており、殴り合いのデスゲームに参加するような人間ではない。兵隊を手に掛けたのも、あくまで食事としての行為であり、そこに暴力としての認識は存在していなかった。
【トピックス】――――――――
この世界における戦闘は、回数を重ねる毎に外敵が強くなる仕様がある。己がレベルを上げている時、外敵もまた、レベルを上げているのだ。
――――――――――――――――
熱帯平原――
探索判定【5】【5】 新たな敵を発見した!
巨大なボス個体であろう
「いくらなんでも強過ぎる……。戦い慣れしているというよりも、動きが洗礼され過ぎている。時折動きにフェイントが織り交ぜられているし、ゲームとしての仕様を完全に理解している動きだ……」
蟹江静香がそう感じたのは、他でもない、蜂という生物は基本的に本能に忠実であり、頭脳的な行動を行わないのが通説である。如何にモンスターの知能が発達していたとしても、複雑怪奇なあの動きには明確な意図と意志が存在している。
「あの蜂、生徒だ。相塚さん、タイミングを見て助けに入るよ!」
「あの……なんでしたら、あの大きい動物、魅了してみましょうか?」
「えぇ⁉ あんなに大きくて強そうなボス個体でも可能なの⁉」
「試したことはないですけど……。本能に近い子は、割と効くみたいなので……」
相塚みんとの提案により、魅了を試す為、乱入を行う事になった。戦っている蜂も、
乱入判定【2】【2】 成功! ピンクのアリを背中に乗せた巨大な蟹が、戦いに乱入してきたことで、その場の空気は硬直した。
蜂の方は明らかに、蟹と蟻の中身が人間であるという事に気が付いている。組み合わせとしても不自然なうえ、他種族同士で連携を行う野生モンスターなど、普通は存在しないからだ。
『オペレーター通信完了。会話可能となりました』
「こちら蟹江先生! 応答願います!」
「あらあら、蟹江先生でしたの。名は体を表すをそのままでいくなんて、本当にユニークな方ですのねぇ……」
「この特徴的な口調は……! 【
「相変わらず、わたくし達の事はすぐに判別できるんですのね……正直驚きますわ」
「相手の防御が固そうだね! 助太刀するよ! 主に相塚さんが!」
「【
達成判定 【2】【1】 自動成功! 会話を遮り、強襲の勢いで
「
「おったまげましたわ……。まさか、みんとさんがこの様な魔法を……!」
――――――――戦闘終了。
報酬――――――――
経験値+1000
――――――――入手。
探索一発目で生徒を見つけ出すという幸運を引き寄せた蟹江静香であったが、探索を続けながら、鳴海蝶子に対して情報交換と擦り合わせを行った。
〈状態〉 雷撃蜂 小型 LV2
〈称号〉 親喰らい LV5
〈名前〉
HP 134/259
MP 100/121
筋力 56
頑強 53
素早さ 53+4
器用さ 66+2
知能 55+4
幸運 55+2
〈
〈攻撃系
〈基本系
器用さ+LV1
知能+LV2
幸運+LV1
――――――――――――――――
【雷撃蜂】――説明。
肉食蜂型モンスター。この個体の毒針は神経系にダメージを与える為、『電撃に撃たれたかのような、激痛が走る』と云われている。基本、群れで行動するが、雷撃蜂に出会ったら、踵を返し、全力で逃げる事が推奨されている。
【親喰らい】――説明。
同種族に対して与えるダメージが上昇する。
レベル5の場合、ダメージは2倍になる。
――――――――説明終了。
「えぇっ⁉ つっっっよっっ!」
「序盤に親からの
鳴海蝶子はこの世界に生まれた時、人間の魂が入っていたにも関わらず、育児放棄はされなかった。親がそれ程賢くない個体という話で、それならばと脛を齧りに齧り倒し、運ばれてくる食事を延々と食べ続けた。
そして、急速に成長し、独り立ちする頃には他の子どもたちを全て食い殺し、親も食べたという。その後、称号によって同種族特攻を手に入れ、夜襲を仕掛けて巣を全滅させたりと、かなり上手く立ち回り、この力を手に入れた。
「親と兄弟も殺して食べたとか、覚悟が完了し過ぎでしょ……」
「すべては元の世界に戻る為、仕方のない犠牲ですわ」
「ひえぇっ……!」
相塚みんとは完全に怯えてしまっている。彼女は育児放棄をされた身であるため、親に対しての未練はなかったが、自分にはそこまでする度胸がないので、完全に別の生物を見ている様な印象が刻み付けられた。
「まぁ、でも私としては無事で安心したよ。生徒が全員そろえば、【願いの宝珠】を発動させて帰るだけだし……」
「あら、そんな方法もあるんですのね」
「そうか、全員がこの事を知っている訳じゃないのか。オペちゃんを介して、このゲームにおけるルールの説明をログとして残しておいたから、確認しておいてね」
「オペレーターシステムってこんな……スマホアプリみたいな便利機能がありましたの⁉ 今まで苦労は一体なんだったんですの⁉」
『どうやら鳴海蝶子のオペレーターシステムも、一部機能が死んでいますね。マップや解説、会話機能が使えていなかったようです』
自身のオペレーター機能が死んでいたことにショックを隠せない鳴海蝶子は、この後、アップデートされて即座にオペレーターシステムを使い倒していた。
「それにしても、この白犀はどうしたものかね……」
「最終的には体液を吸って……駆除することになるけど、強い個体ならMPの続く限り、兵隊さんとして、運用できます……。今あるわたしのMPから計算すれば、3日はこの状態が維持できます……。しっかり眠ればそれこそ永続的に……」
「その魅了魔法、解ける事はありませんの?」
「兵隊さんは……瀕死の重傷になるまで……戦ってくれるよ……♡」
この一言の含みに深淵を感じた鳴海蝶子は、相塚みんとに対してそれなりの敬意を払う様に心に留めた。
少しの休憩をはさみ、彼女達は時間の許す限り探索を行う事にした。
【トピックス】――――――――
動物の身体なのに、どうして人間の記憶が維持出来ているのか。本来であれば動物の頭蓋骨に人間の脳みそは納まることは無い。記憶を維持しているのは【絆の楔】が【ネットワークバックアップ】の役割を果たしているからである。脳は単に受信機としての役割を果たしているだけであり、人間の記憶自体は別の所に保管されている。人々はそれを【魂】と呼んだりもする。
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