第26話 最強のコンビ結成?


 熱帯平原にて、生徒である【相塚あいづかみんと】と合流した蟹江静香は、拠点に戻り、残された時間を情報共有に費やした。


「相塚さんはスタートダッシュガチャで魅了魔法を手に入れて、ここまで生き残ってきたという訳ね」


「はい……。ずっとひとりで旅してたから、寂しかった……♡」


 相塚みんとは、蟹江静香の側から離れようとせず、終始べったりと密着していた。それは子猫が親猫に甘えるよりも、執拗で依存的なものであった。


『蟹江先生は随分と、相塚みんとに懐かれている様ですね。これまでの生徒たちとは様子が異なりますが、慕われているという事でよろしいのでしょうか?』


「あぁ、うん。そういう事にしておいて……」


 相塚みんとは蟹江静香のクラスにおいて、特別依存性の高い生徒だった。家庭環境が複雑であり、学校に唯一の居場所を見出した人物であった。


 個人の能力が高いものの、そのコミュニケーション能力に難があり、クラスにおいては蟹江静香と各教師、ごく一部の生徒としか会話が出来ない程である。


能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 蠱惑蟻ラブリーアント 小型 LV3

〈称号〉 愛されしもの

〈名前〉 相塚あいづかみんと


HP 134/134

MP 100/100


筋力  34

頑強  39

素早さ 33

器用さ 36

知能  36

幸運  40


技能スキル〉    体力吸い

〈攻撃系技能スキル〉 噛みつき

〈変質系魔法〉 魅了チャーム

〈特性〉    愛嬌

――――――――――――――――


蠱惑蟻ラブリーアント】――説明。


 誘惑蟻テンプテーションアントの女王から生まれた次世代の蟻型モンスター。ピンク色の甲殻を持ち、特有のフェロモンであらゆる生物を酩酊めいていさせる。特に雄には効果が高い。酔わせた相手に鋭い顎で噛みつき、相手の体力を吸い取って回復するという特性がある。体液を吸い取る際に能力値ステータスが増加する事もある。


魅了チャーム】――説明。


 相手の五感から脳へとアプローチをかける認識疎外の魔法。対象を意のままに操る事が可能であり、掛けられる数に制限はないが、MPを大量に消費する為、3体程が手頃といえる。達成基本値は20。正気に戻るには致命的な攻撃を受けるか、なんらかの状態異常回復の手段を講じる他ない。極めて厄介な魔法であり、使い手は少ない。これの上位魔法に【誘惑テンプテーション】が存在する。


――――――――説明終了。


「せんせえ……♡ また出会えて良かった……♡」


 話を聞くところによれば、彼女は誘惑蟻テンプテーションアントの女王候補として生まれたが、高レベルであった女王は、魂の異なる相塚みんとに対して激怒し、その場で惨殺されたという。


「母の名は、【魅惑のミルウィート】多くの配下を生み出し、熱帯平原を支配していた。今では巣を移動して、もういない……。ここは元々女王の住んでいた場所。魔力の残り香でわかる」


「魅惑のミルウィート……。種族名ではなく、固有名だとすればカルチノーマと同じ様なものだろうか……」


「うん……。ミルウィートは八英祖の3番目。とても強い……」


「じゃあ相塚さんは、ミルウィートの正統な次期後継者……⁉」


「そうなるね……。強くなる要素はある……! せんせえも?」


「私は【蝕のカルチノーマ】から生まれたの。一緒だね!」


「うん……! いっしょ……!」


 次期八英祖の後継者同士である事を知り、相塚みんとは蟹江静香に対してさらに仲間意識と親近感を抱いた。


 その後、情報交換を行い、今後の行動について話を進めた。


 蟹江静香はデスマスクの呪いがある為、ひとりで行動する事が都合が良いという事、それに対して相塚みんとは、蟹江静香と離れるのを強く拒否した。頼れる者がいない現状で、相塚みんとをひとりきりにするというのは、論理的によろしくない。


 共に行動するという前提で、ふたりは戦闘におけるスタイルや戦術について意見を交換した。ご存じ、蟹江静香は単独で多数に対して攻撃が可能となり、経験値を集める事が課題となっている。


 相塚みんとは、魔法【魅了チャーム】を利用して兵隊を作り、兵隊が死にそうになると体液を吸い取ってステータスを上昇させていた。トドメを刺し、倒したのは間違いないが、戦闘として経験を積んでいない為、経験値の獲得量が少なく、レベルアップには繋がらないという。


「その辺りは、【短縮戦闘】と近い処理がされているのかもしれないね」


「わ、わたし、レベル3だから……。弱くて……」


「ん……? レベル3だけど、進化してるでしょ?」


「せんせえ……。進化って……なに……?」


「この能力値ステータスって相手の体液を吸った事で得た数値だったの⁉ じゃあ、数値が15以上に達した時、進化の通知は来なかったの?」


「ゲーム……したこと、なくて……」


 相塚みんとの家は厳しく、娯楽と呼べるものが存在しなかったという。ゲームに馴染みがない上、通知は基本的に一度きり、全てを理解する前に解説が終わってしまった為、彼女は進化について何も理解出来ていなかった。


「そ、そうか……。聞き慣れない言葉が羅列された所為で……」


『同期した事で判明しましたが、彼女のオペレーターは通知と解説の機能に問題はありませんでした。しかし、会話機能が死んでいた為、質問をすれば解説が返ってくるという事が分からなかったのでしょう』


「オペレーターさん、すごくしゃべるね……。いいなぁ……。わたし、ずっと寂しかった……」


「しかし、ゲームの仕様を理解しないまま、よくぞ生き残ってくれました。大丈夫ですよ相塚さん。独り立ち出来るまで、私とオペちゃんがしっかりと教えますから!」


「うん……♡ せんせえ……♡」


 可愛い声も相まって、ピンクでまんまるのアリがとても蠱惑的に感じられる。これが、彼女の生まれ持った生物的特徴である。例えるなら、本能では抗えない程美しい少女が目の前に現れたのと同じ状況である。


「デスマスクの精神耐性がなければ即死だった……」


「せんせえ……♡ 一緒に寝ようね……♡」


「(うぉーっ! 誰か助けてくれー!)」







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