第25話 ロスト



 絆の楔が――――――――


 ――――――――現界へと魂を縛る。



 蟻塚住宅――


「あぁっ! 焼けるぅぅううぅっ!」


 絶叫と共に目を覚ますと、そこは熱帯平原の拠点、蟻塚住宅であった。外殻を焼失させ、内臓を焼き、体の水分が蒸発する痛みは筆舌に尽くし難い。


「くそっ! 最悪の目覚めだ! あのがきんちょ魔法使い……!」


『オペレーションシステム再起動しました。悪い話が2つありますがどちらからお聞きになりますか?』


「悪い話しかないじゃないか! そんなの選択しないじゃん! あっ! カルチノーマの右鋏と魔獣の鎧が喪失している! なんてこった……!」


『それがひとつめです。ふたつめは能力値ステータスをご覧ください』



能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 デスマスク 中型 LV1

    (右鋏喪失)

〈称号〉 親喰らい

〈名前〉 蟹江静香かにえしずか


HP 152/152

MP  64/64


筋力  59+2

頑強  60+2

素早さ 62

器用さ 46+4

知能  47+2

幸運  49


技能スキル〉 捕食 作成 製薬 念話

〈攻撃系技能スキル〉 カルチノーマの鋏(使用不可)

        薙ぎ払い

〈基本系技能スキル〉 筋力+LV1

        頑強+LV1 

        器用さ+LV2

        知能+LV1

        英祖の力

〈装備〉 なし

〈呪い〉必要経験 3倍

――――――――――――――――


「うわっっっ! レベルが低下している! 最悪だ! オペちゃん! これってデスマスクの呪い⁉」


能力値ステータスに参照されていませんし、マスクデータもありません。したがってこれは、あの強力な魔法使いによる技能スキルか魔法でしょう』


「ふざけんなよぉ~……! デスマスクのレベルを1上げるのに、どれだけの経験値が必要だと思ってんだよぉ~……!」


『これまでの経験値テーブルから算出するに……1万前後の経験値が必要かと』


「うぉおん! 急に現実的な数字が出てきた! 欠損と装備喪失とレベルダウン……! 1回死ぬだけでこんなにもペナルティが発生するなんて……!」


『初めての死は、何もない状態でしたので分かりませんでしたが、装備も失うリスクがあるという事ですね。データとして記録しておきます』


特殊個体ユニークの特性がじわじわと効いてくる……! 経験値3倍はいくら何でも厳しい……! だが、あの子供魔法使いは、経験値が手に入った事で、私が死んだと思っているだろう。これで狙われる心配は無くなる訳だ……」


『死に戻りの仕様が相手側に発覚した場合、最悪の結末が予測できます』


「うん……。リスポーン地点を探して、蟹狩りを行うと思う。あのレベルで魔法に対して反応出来なかった。人間対策もしないとならないね」


 蟹江静香が思考を巡らせていると、根元から失われた右鋏が幻痛を引き起こす。デスマスクの魔法抵抗をものともしない圧倒的な魔法の威力が、脳にこびり付いて離れない。


「だが、まだ絶望する時でもない。左の鋏があれば薙ぎ払いが使えるし、レベルアップすれば右の鋏は再生する。まだ日も高い。早速レベル上げだ!」


 蟹江静香は北上を一時的に中断し、拠点周辺での修行を開始した。




【トピックス】――――――――

 人間と動物は基本的に会話する事が出来ないが、妖精の技術である【念話】の登場により、一定のレベルを手に入れた生物は、自分の意志を相手に伝えるという事を憶えた。意思疎通により、友好が深まる種族が増える一方で、モンスターという存在は長きに渡って忌み嫌われ、恐れられてきた。それはひとえに、彼らの能力が圧倒的に人間達を凌駕するからに他ならない。

――――――――――――――――




 ――熱帯平原


 探索判定【2】【4】 敵影無し! 特に問題は起こらない。


 探索判定【4】【1】 敵影発見! 判別開始!


 敵の数は4体。ワニ、ボスオオカミ、イノシシ、アリという統一感のない構成になっている。戦況としては3対1。アリが追い詰められているという印象だ。


 培った知識と持ち前の知能が、蟹江静香の直感を揺さぶる。


「あの蟻さん、生徒だ! 助ける!」


 乱入判定【6】【6】 クリティカル! 


 巨大な蟹が戦闘に割り込んだことにより、4体全てが驚き戸惑いを見せる。これにより1ターンの間、一方的な先制攻撃が可能となる。


「オペちゃん! 相手との接触を図って!」


『近距離通信完了。会話可能になりました』


「こちら蟹江先生! 助太刀します! 応答してください!」


「わわっ……! 蟹江せんせえ……! わたしを助けに来てくれたっ!」


「この声は、相塚あいづかみんとさん⁉」


「せんせえ……すぐにわたしだって、わかった……愛の力……?」


「生徒を想う気持ちは! 誰よりも強いと思いますよぉ! 相塚さん! この3体は任せてください! 喰らえ! 左鋏の薙ぎ払い!」


 達成判定【3】【1】 成功! 薙ぎ払いが外敵の3体に炸裂する。この一撃で相手の体力を半分ほどにまで削り切った。


 イニシアティブ判定により、蟹江静香、オオカミ、ワニ、イノシシ、の順番で戦いは開始される

 

 達成判定【2】【6】 成功 薙ぎ払いが3体にダメージを与える。一方的に2回攻撃を受けたことで、3体は怒り狂い、攻撃力が上昇した。


「ちょっ! 待って! それ何の効果⁉」


『野生動物がたまに持っている技能スキル、【激情】ですね』


【激情】――説明。


 戦闘などにおいて、一方的に攻撃を受ける、または一気に体力が低下した場合に発動する。1ターンの間、攻撃力が5割上昇する。


――――――――説明終了。


 達成判定【2】【1】 【3】【5】 【6】【4】


 足並みがそろったことで連撃が発動! 【トリプル噛みつき】!


 【激情】と【連撃】の効果が乗った事で、蟹江静香に深刻なダメージが通った。この時、一点にダメージが集中した事で、蟹江静香は脚を1本折られた。


「おぉおぉおっ! いてぇ~~~~っ!」


 統一性がないように思われたこの3体は、どれも咬合力こうごうりょくに定評のある生き物達である。これらがなんの因果で結束しているのかは謎だが、蟹江静香を怯ませるには十分な戦力であったといえる。


 達成判定【6】【5】 成功! 

 渾身の薙ぎ払いが命中し、3体は同時に肉片へと変わった。

――――――――戦闘終了。



報酬―――――――― 

 経験値+5100

 猪の大牙

 鰐の皮

 大餓狼の大鬣おおたてがみ

――――――――入手。


 戦闘終了と同時に外敵の死体を捕食していく。

技能スキル捕食の効果により、外敵たちの肉を摂取。蟹江静香の――』


【4】【3】【1】 【4】【1】【5】 


『――器用さが1増加しました』


技能スキル捕食の効果により、狼型モンスターの大肉を摂取。蟹江静香の――』


【3】【5】


『――【器用さ+LV2】を取得しました』


能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 デスマスク 中型 LV1

    (右鋏喪失)(脚喪失1)

〈称号〉 親喰らい

〈名前〉 蟹江静香かにえしずか


HP 152/152

MP  64/64


筋力  59+2

頑強  60+2

素早さ 62

器用さ 47+8

知能  47+2

幸運  49


技能スキル〉 捕食 作成 製薬 念話

〈攻撃系技能スキル〉 カルチノーマの鋏(使用不可)

        薙ぎ払い

〈基本系技能スキル〉 筋力+LV1

        頑強+LV1 

        器用さ+LV4

        知能+LV1

        英祖の力

〈装備〉 なし

〈呪い〉必要経験 3倍

――――――――――――――――


「相塚さん、積もる話もあるけど一旦拠点に避難しましょう。先生の背中に乗ってください」


 左の鋏が差し出され、それを伝い、相塚みんとは蟹江静香の背中に搭乗する。


 帰還判定【マスク判定】――成功。問題なく拠点への帰路に着くことが出来た。




「せんせえ……♡ わたしの騎士様……♡」




【トピックス】――――――――

 通常の生物が何らかの形で、魔力を手に入れる事で、モンスターはこの世界に生まれると、古い伝承には残されている。モンスターの中には種族を越え、そのカリスマ性で他種族を従える個体も存在する。通常の生物とは異なり、魔力を得る事でモンスターとなったものは、賢く、強く、中には人に崇められる個体もいる。

――――――――――――――――



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