第21話 強者たち。
カニ生活19日目――――――――
熱帯草原のオアシスで一晩を明かした蟹江静香と木下藤吉は、情報のすり合わせを済ませ、今後の目標を、拠点の発見と生徒の捜索に定めた。
ひとりでサバイバルを生きのびた木下藤吉は、スタートダッシュガチャで
スタート地点は、ここより遥か南に位置する大森林の最奥。森の賢者とも呼ばれるエルダーエンティから生まれ落ちた。
「本来であれば、母親の寵愛を受けて育つはずだったが、野生の勘なのか、おれは育児放棄された。猿とは異なる魂が中にいるのを感じたんだろう。川へと投げ捨てられた先で初めての死を経験し、その付近に存在していた拠点に流れ着いたという訳だ」
「この世界の母親は自分の子供に厳しいのかな……。私も母親に踏みつぶされて死んだから、同じ哀しみを背負う仲間だね!」
「はっはっはっ! 蟹江ちゃんも同じ経験をしたか! 自然界は厳しい事よのう!」
その後、移動を行いながらこのゲームの攻略法や、
【トピックス】――――――――
蟹江静香たち、モンスターとこの世界の人間たちとでは言語形態が異なる。
――――――――――――――――
探索判定【3】【3】
熱帯草原を移動していると何かの死体を発見した。蟹江静香はそれに近づいて確認してみると、人骨の様であった。辺りには生前の持ち物が散乱している。
「仏さんには悪いけど、何か活用できるものがあったら助かるな」
「ならば、おれが調べるとしよう。蟹江ちゃんの巨躯では、道具を破壊してしまうかもしれないしな」
「進化した事でこんな弊害が生まれるとは思ってもみなかった……」
木下藤吉が死体の持ち物を探ると、荷物の中から――
【パリイ・ブレスレット】――説明。
装備している間、
相手の力を見極め、角度や力の加減を調整する器用さを持ち合わせていないと、上手く戦場で活かす事は出来ない。また、不特定多数から同時攻撃には対応できない。やるならタイマンに持ち込むべきだろう。
――――――――説明終了。
「これは蟹江ちゃんの防御力に打ってつけ……! ではあるものの、装着するには小さすぎるか……」
「そうだね。人のサイズで作られているから、一番小さい脚でも装備出来ないわ」
「ならば、おれがこれを装備し、蟹江ちゃんの上から迫りくる攻撃を全て弾いて見せようぞ! はっはっはっ!」
戦利品を手にし、探索を続ける事数刻、目的としている熱帯平原の拠点まではあと少しと迫っていた。
丘を乗り越えた所で、大型豹型モンスターと、熊型のモンスター2体が対立している。ボス同士の縄張り争いであると、容易に想像がつく。
「両方強そうだから3ターンくらい様子見た方がいいかな」
「漁夫の利とは蟹江ちゃんも抜け目がないのう! おれでもそうするわ!」
戦いが3巡した辺りで、蟹江静香と木下藤吉の乱入が開始される。
「今回は不意打ちではなく、堂々と名乗りをあげるわ! 藤吉くん、お願い!」
木下藤吉は、待ってましたと言わんばかりに、大声で名乗りをあげた。
「やあやあ! 音にこそ聞け、近くば寄って目にも見よ。 我こそは! 異世界より猿の身に転じて生まれ落ち、天の気まぐれによる恩恵と力を得し者! 大森林の最奥より参った! 木下藤吉なり! 貴様らの命、おれが血肉と変えてくれようぞ!」
見事な名乗りがあげられたが、肝心のモンスターたちは言語の意味が通じず、混乱している、しかしながら、迫力のある威嚇にも受け取れた猿の前口上は、相手の勢いを落とす程の効果をもたらした。
イニシアティブ判定! 蟹江静香、木下藤吉、豹型魔獣、熊型魔獣の順番で行動が開始される。
達成判定【4】【5】 成功! カルチノーマの鋏が豹型のモンスターに命中した。腐食判定をするまでもなく、両断され、その場に打ち付けられる。
続けて木下藤吉の達成判定【2】【5】 成功! 黒曜石のトゲ棍棒が熊型のモンスターに見事命中し、モンスターはその場に倒れた。討伐完了。
――――――――戦闘終了。
報酬――――――――
経験値+1700
豹の牙
大熊の毛皮
――――――――入手。
ファンファーレが吹き荒れる。木下藤吉のレベルが上がった。
〈状態〉 エンティ 中型 LV17
〈名前〉
HP 150/150
MP 64/64
筋力 49
頑強 41
素早さ 47
器用さ 44
知能 43
幸運 40
〈
〈攻撃
〈装備〉 黒曜石の棍棒(攻撃力+10)
竜トカゲの軽鎧(防御力+5)
パリイ・ブレスレット
――――――――――――――――
『
【6】【5】 【2】【6】
『――筋力+
「相変わらず、モンスター種の肉はふたつの意味で美味いなぁ……。なんかこれの為だけに旅をしていると思えてくる程に、肉厚で濃厚な味わいで、美味いんだよなぁ……。なんか入ってる? 出汁とか?」
〈状態〉 デスマスク 中型 LV2
〈称号〉 親喰らい
〈名前〉
HP 354/354
MP 126/126
筋力 86+2
頑強 88+2
素早さ 90
器用さ 71+4
知能 74+2
幸運 78
〈
〈攻撃系
薙ぎ払い
〈基本系
頑強+LV1
器用さ+LV2
知能+LV1
英祖の力
〈装備〉魔獣の鎧(防御力+10。水耐性)
〈呪い〉必要経験 3倍
――――――――――――――――
「藤吉くんはまだ進化してないけど、何か目的があるの?」
「いや、ずっと拠点を見つけられていないだけだ。安心して進化する場所が確保できず、気が付けばレベルがこんな状態になってしまった。特段不足があったわけでもない故、拠点を探すのを後回しにしてしまったのだ」
「進化するとメリットが多いよ。次の拠点に到着したら試してみようよ!」
「そうだな。蟹江ちゃんの大立ち回りを見れば、いかに進化が優れているのか分かる。早いところ拠点に向かいたいところだ」
戦いの後処理を終え、再び歩き出した。途中、木下藤吉がデスマスク特有の速度について行けず、搭乗することになったが、無事、拠点へと辿り着くことが出来た。
吉野家早霧が利用していた拠点は、集合住宅ほどの大きさがある、蟻塚の跡地であった。現在は居住している蟻はおらず、自由に出入りすることが出来る。不思議とこの周辺には動物の気配がなく、聖なる力で守られている様な感覚を覚える。
「今日はもう寝て、この地点をブックマークしておこう。一晩過ごすと、復活地点がこの場所になるから、憶えておいてね」
「成る程、死んで復活したらここから再始動という事か……」
木下藤吉の進化を明日に控え、ふたりは拠点で休む事にした。
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