第17話 称号システム。



 カニ生活15日目――――――――


 前日の戦いを切り抜け、蟹江静香たち一行は、倒したカルチノーマ鋏と子蟹たちを拠点へと持ち込んでいた。


「先生ごめん、時間がもったいないからアタシたち、早く進化に入るね」


「先生、後の事はよろしくお願いします!」


 能力値ステータスが一定値に到達した、金森式奈と吉野家早霧の両名は、ふたりそろって進化の為に、眠りについた。進化の間は無防備になる為、安全地の確保や、仲間の助けが必要不可欠となる。


 金森式奈は、最初オールマイティ系を目指していたが、幸運進化項目に存在した、ある要素を重点的に採用し、幸運系進化を選択した。


 一方、吉野家早霧は宣言通り、筋力系統進化を選択、パーティの火力役を担う事を決断した。ふたりは明日の朝に進化を終える。その間に、残された者たちは出来る事を模索していた。


「この子蟹たちを先生が捕食するというのも、ひとつの手ではあるのですが、そうすると折角の固い素材が無くなってしまうのが考えモノですね」


「悩み所やな、センセに能力値ステータスを集中させれば、それだけ戦力が上がるのは確かなんやけど、これらで装備を作るという選択肢もある訳やし……」


「迷っている時間は少ないよ。このメンツなら、武器防具を持てるのは明久君と喜一君だからね。私の作成技能スキルも向上するだろうし、装備のアイディアがあるなら出来るだけ応えようと思うよ。まぁ、素材は今の所足りてないけど……」


「武器や防具になるメインの素材が揃ってはいますが、それを支える支柱になる、鉱石や木材などの素材がありません。ココは思い切って全部先生につぎ込みましょう」


「うーん……確かに、武器を作った所で扱えなかったら意味ないし、守りに関しては俺は亀之助がおるからな……鋏も含めて全部センセに食わせた方が早いかもしれん。消費する時間も極力短い方が節約にもなるし」


 話し合いの結果、全ての素材を蟹江静香が捕食することになった。


技能スキル捕食の効果により、蝕の子蟹を摂取。蟹江静香の――』


【2】【2】【2】 【4】【2】【5】 【1】【4】【6】



『賢さが1増加しました』


『素早さが3増加しました』


『幸運が3増加しました』


「上り幅がデカい!」


「やったで! センセ!」



「先生もオールマイティ派生の進化可能ですよ! やりましたね!」


「それじゃあ、残ったお母さんの鋏も頂きましょうね~」


 蟹江静香がカルチノーマの鋏を口にすると、幻視が起こった。自分の身体をそのまま置き去りにしながら、意識だけが大きく後ろ髪を引かれる様な錯覚に陥り、自身の中で大きな力が芽生えた。それは、とてつもなく大きな力の片鱗であった。


【カルチノーマの鋏】を【捕食】した為、【英祖の力】に目覚めました。

 攻撃技能スキル【千切る】が【カルチノーマの鋏】へと変化しました。


【カルチノーマの鋏】――説明。


 八大英祖の5番目である、カルチノーマの鋏から生まれた攻撃の技能スキル。相手を腐食させる能力があり、この腐食は絶対に防ぐことが出来ない。達成値は15で筋力値を参照する。2D8のダメージを与え、更に固定で5のダメージ毎ターン与える。このダメージは累積する。部位破壊は切断ではなく、腐食によるもので発生する。破壊確率は約66%となる。


――――――――説明終了。




能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 SSCソフトシェルクラブ中型 LV5

〈称号〉 親喰らい

〈名前〉 蟹江静香かにえ しずか


HP  53/53

MP  34/34


筋力  16

頑強  15+2

素早さ 26

器用さ 20+4

知能  19

幸運  26


技能スキル〉 捕食 作成 製薬 念話

〈攻撃系技能スキル〉 カルチノーマの鋏

〈基本系技能スキル〉 頑強+LV1 

        器用さ+LV2

        英祖の力

〈装備〉魔獣の鎧(防御力+10。水耐性)

――――――――――――――――


「あ! なんか不名誉な称号まで増えてる!」


【親喰らい】――説明。


 親の力を自らに取り込んだ正しい食物連鎖の証。同族に対するダメージの補正が20%向上する。同族を喰らうと、この割合が増加する。親の屍を越えてゆけ。


――――――――説明終了。




「これなら、子供を後に食べるべきでしたね」


「明久君、めちゃくちゃエグめな事言ってるけど……」


「なんか、勿体なかったかなって……」


「ワカルでぇ! 木村クン! うたばかりのスマホが、来月には新機種発売になった時みたいな感じよなぁ!」


「そんな感じです! ちょっとの差で損すると、かなり悔しいんですよねぇ!」


『何はともあれ、能力値ステータスが規定に達しましたので進化先を……。いや、お待ちください。進化先が増えています。特殊個体進化です』


「ま、まさかカルチノーマの影響で⁉」


『はい、明らかに能力値ステータスの伸びが通常の進化と異なります。これにより、どの様な影響が出るかはまるで未知数です』


「……力を得る為に諸悪の根源の力を得るのか……リスキーの様な気がするんだけどなぁ……」


『しかし、上り幅だけを見れば、どの進化系統よりも優れています』


「一度進化先の詳細を出してもらえる?」


『了解です』


【進化・特殊個体ユニーク】【デスマスク】――説明。


 この世界における八大英祖の力を受け継ぐ存在。歴代の英祖は力を受け継ぐことで、支配者として君臨し続けた。押し寄せる数々の試練を突破した者だけが、この偉大な支配者の力を手に入れる事が出来る。全ての能力値ステータス上昇値が2から5倍にまで変動する特殊な成長曲線をしている為、極端な強さに偏ることが多い。


――――――――説明終了。


能力値ステータス面においては何処にもデメリットがないね。上り幅も大きく、この先の戦いが有利になるになる事間違いなし……!」


 蟹江静香はしばし、長考して、【デスマスク】への進化を決めた。この進化は特殊なため、今から眠りに入れば明日の朝には完了しているという話なので、蟹江静香は生徒ふたりの後を追うように、眠りについた。


 進化の過程で、意識が朦朧もうろうとする中、蟹江静香は昔の夢を見ていた。それは、7年前担当した、男の子の夢であった。変わった少年で、蟹江静香の爆乳を羨望のまなざしで見ていた。まるで芸術を愛でる様に、愛に溢れたその視線は、蟹江静香が軽蔑するには十分すぎるものであった。


 なんでこんな夢を見なければならないのか、なんでこのタイミングなのか、彼女には理解できなかった。しかし、彼はいつも人々の輪の中心にあり、大人びた言動を繰り返し、毎日何かしらの怪我をしていた。内容はいつもはぐらかされてしまうが、卒業式の日、彼が人助けで、危険な行動を繰り返していたことが発覚した。且つての言動に対して、頭ごなしに叱った事を後悔したが、その後、その少年と出会う事は二度となかった。


 悔いが残った。自分の軽率さが、彼を傷付けたまま、卒業させてしまった。大きな傷を相手に与えてしまった。忘れていた筈の記憶が何故、今蘇ったのか、答えはでないまま、目が覚める。



 カニ生活16日目――――――――


 目を覚ました蟹江静香の前には、進化を終えたふたりの生徒があった。金森式奈は蛇種幸運型進化【フォーチュンパイソン】へと大きく変貌し、吉野家早霧はパンサー種筋力型進化【レオパルド】へと正当な進化を果たした。




【フォーチュンパイソン】――説明。


 蛇種族幸運型の進化先であり、太さと長さが大きく成長している。因果に干渉する力を持ち、達成判定などの判定行為の成功率を向上させる。能力値ステータスの成長曲線は一般的だが、幸運が増加しやすい。幸運特化型は幸運の値の2割を、他の能力値ステータス判定に参照する事が可能となる。


――――――――説明終了。


能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 フォーチュンパイソン 中型 LV1

〈名前〉 金森式奈かなもり しきな


HP  60/60

MP  40/40


筋力  19

頑強  19

素早さ 17+3

器用さ 22

知能  15

幸運  30


技能スキル〉 早足 念話

〈攻撃技能スキル〉 締めつける

〈加護〉 白蛇様の寵愛

――――――――――――――――

【締めつける】――説明。


 攻撃の技能スキルであり、対象の拘束可能となるが、対象の大きさと筋力によっては効果がない事もある。達成値は15であり、筋力を参照した基礎値+2D6のダメージを与える。


――――――――説明終了。


【レオパルド】――説明。


 獣型パンサー種筋力特化の進化先であり、筋力が向上する。咬合力こうごうりょくと裂傷力に優れ、相手を拘束、捕縛する力を有している。手加減をすることも心得ている。成長曲線は筋力が向上しやすく、頑強が上がりにくい。


――――――――説明終了。



能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 レオパルド 中型 LV1

〈名前〉 吉野家早霧よしのや さぎり


HP  75/75

MP  33/33


筋力  27

頑強  16

素早さ 20

器用さ 19

知能  20

幸運  19


技能スキル〉     毛繕い

〈攻撃系技能スキル〉  噛みつきタックル


――――――――――――――――

【噛みつきタックル】――説明。


 攻撃の技能スキル。噛みつきながらタックルを放つことで対象者を転倒させる効果があり、拘束する効果もある。転倒すると相手は問答無用で2のダメージを受ける。達成値は15であり、筋力を参照した、基礎ダメージ+【3D6+6】の刺突ダメージを与える。


――――――――説明終了。


「すごいよふたりとも! 見違えた! とっても強そう!」


「いやいや! それってアタシ達のセリフっしょ!」


「そうだよぉ! 先生ってば凄く強そうになってるよ! 水辺で自分の姿見て!」


 促されるままに水辺で自分の姿を確認すると、蟹江静香の姿は大きく変貌し、身体全体に鋭く細かな棘が備わり、甲羅は正面から見ると、禍々しくもおどろおどろしい様相となっていた。人間がもがき苦しんでいる時の顔を、溶解液で溶かした様な紋様が刻まれている。


「滅茶苦茶怖いけど、鎧着れば関係ないじゃんね……。」



能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 デスマスク 中型 LV1

〈称号〉 親喰らい

〈名前〉 蟹江静香かにえ しずか


HP 152/152

MP  64/64


筋力  57

頑強  56+2

素早さ 62

器用さ 46+4

知能  43

幸運  47


技能スキル〉 捕食 作成 製薬 念話

〈攻撃系技能スキル〉 カルチノーマの鋏

〈基本系技能スキル〉 頑強+LV1 

        器用さ+LV2

        英祖の力

〈装備〉魔獣の鎧(防御力+10。水耐性)

〈呪い〉必要経験 3倍

――――――――――――――――


「全能力値ステータス滅茶苦茶向上してる! 頑強に至っては最終防御力が68⁉ すごい! 特殊個体ってこんなに強いんだ! ……ん? 必要経験値3倍……? なにこれ……⁉」


『レベルアップに必要な経験値が、通常の3倍必要になるみたいですね』


「OH……!」


「いやいや、それを抜きにしたって、この能力値ステータスの上がり具合は

上々っしょ!」


「そうですよ先生! この上り幅ならレベルあがった時にもっと能力値ステータスが増加するはずです!」


「そ、そうか、希望を持たなければね……!」


「先生の進化が特殊個体という事で、かなり戦力が増強できたことは確かなんですが、いよいよ問題になってきましたね。経験値分配形式が……!」


「そうか……。必要経験値が3倍になったことで、更にレベルの上昇速度が遅くなったから、不利を受けるんだ……!」


「ここで、僕からの提案なんですけど」


「はい、明久君。どんな内容でしょうか?」


「【先生単独】で、1つのチームにしてしまいませんか? おそらくその方が探索範囲が今より広がると思いますよ。経験値配分の事もありますし」


「確かに……時間かけて決めたから、このままの計画で行くというのも対応力がない。より効率よく探索することを求めるならば、3チーム構成の方が……!」


『オペレーターの方は問題ありません。一応全員分のオペレーターシステムに関しては、同期と更新を行ってありますので、例え単独行動をしたとしても、私の分身体がきちんとサポート致します』


「よし、とりあえず一度やってみよう。それぞれの探索範囲を指定するね」


 行動回数一回を使用して、チーム分けはやり直された。チームアルファが蟹江静香単体。チームベータが金森式奈と木村明久、チームガンマが吉野家早霧と飛田喜一、亀之助コンビとなる。


 探索範囲は、東西南北をブロックごとに分け、オペレーターが制作したマップを確認しながら行う事となる。アルファは北の熱林地帯、ベータは東の巨岩地帯、ガンマは南の深い森地帯を探索する事となる。


 探索の際に、自分たちが対処できない強敵が行く手を遮った場合など、協力が必要な際には、拠点にて相談する手筈となった。


「時間は刻々と迫っている! みんな出発するよ!」


「「おうっ!」」




【トピックス】――――――――

 八英祖の一角、【蝕のカルチノーマ】は5番目に生まれた存在である。山の様な巨躯を持ち、その剛腕と鋏は、一振りで半径2キロ森を伐採する。自分の能力を引き継いだ個体を無尽蔵に生み出す事が可能であり、その子供たちが外敵に食べられる事で強個体へと成長。それをカルチノーマが倒す事で、レベルアップしている。

――――――――――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る