第16話 親子対決。


 蟹江静香における現在の身体は、この巨大な母蟹から生まれ落ちた。魚に食べられそうになった弱い自分を踏みつけ、初めての死を与えた張本人である。この圧倒的な威圧感と迫力は、死の衝撃を伴い、深く脳に刻み込まれていた。


「みんな! こいつは私の身体を生んだ母蟹だ! 最初から全力で攻撃して! 明久君! サンダーボルトを!」


 大人と大型重機程の重量さに、生徒たちは圧倒されていたが、放たれた蟹江静香の大声に、生徒たちが次々と正気を取り戻す。


「は、はい!」


 木村明久は、サンダーボルトの指示を受け、即座に雷の太矢を発生させる。


【不意打ち判定】【マスク判定】【マスク判定】 成功!


 達成判定【3】【4】成功!


 サンダーボルト発動【5】【5】【1】【4】【3】【6】


 隣り合っていた3匹の蟹たちは一斉に感電した。それでもまだ原型は留めている。


 続けて蟹江静香が【千切る】を繰り出す。


 達成判定【3】【1】成功!


 千切る発動!【6】【5】【4】


 力任せの鋏攻撃により、蟹を仕留めた! 続けて吉野家早霧のタックル!


 達成判定【5】【2】【5】【1】


 鋭いタックルにより、打撃と転倒のダメージが入り、2体目の蟹を仕留めた!


 飛田喜一のウォーターボール!


 達成値【6】【4】【6】


 ウォーターボールの水圧より、3体目の蟹は討伐された! 引き連れていた3体の子蟹を討伐され、巨大蟹は怒るどころか、その様子をじっと観察していた。そして、全員の頭の中に念話が注ぎ込まれる。


『お前たち……! 異種でありながら、徒党を組んでいるね……? また魔人様のお戯れか……! 我が一族から『混ざりモノ』が出てしまうとは……』


『あなた! 魔人について知っているの⁉』 


『あぁ、魔人様は我々の生みの親にして、この世の王となるお方。そして、我が名は【しょくのカルチノーマ】熱帯領域の支配者にして、魔人様の5番目に作られた使徒でもある』


 その巨大蟹からは誇りと矜持を感じられた。支配者というに相応しい実力と風体を備えた、紛れもない実力者であるという事が、肌からも伝わってくる。


『して、貴様ら混ざりモノは、何故我が進行を妨げたというのだ』


『この先にアタシ達の住処があるからよ! あんたみたいのが通ったら壊れちゃうじゃない!』


 念話にて金森式奈が参戦した。巨大な蟹に臆せずモノ申す度胸は大したものだが、この場では一挙手一投足が命に繋がる。他の生徒たちは、着々と寿命が縮まるのを感じていた。


『なにかと思えばそうか……。外界の神が、この地にそなたらの場所を作ったのか、そうとわかれば、この場にもう用はない。我らはこの地に現れた不可思議な巨岩と大木の存在を知り、調査をしに来ただけに過ぎん』


『えっ⁉ じゃあ、サンダーボルトは撃たなくてもよかった……⁉』


『フハハハハハ! 気にするでないわ! あの程度で死ぬようでは、我の子とは呼べぬ! ここで死ぬ様な輩は、この先も生きては行けぬのだ……! しかし、我から混ざりモノが生まれたというのは理解したが……。貴様、我に何処で産み落とされた? その統率力を持つ実力ならば、我が手元に置いておくはず……!』


『生まれてすぐに魚に喰われて、助けれらたと思ったら踏みつけられて死んだの! 死んだら、この先にある拠点に飛ばされて蘇ったって訳』


『ふむ、【流転蘇生】の類か、よりにもよって、面倒な魔法じゃのう……』


『とにかく、話が出来るなら助かるわ! 私たちには、あの拠点が必要なの! 見逃して頂戴! 仲間が揃ったら、ちゃんと出て行くから!』


『ふん、外界の神が作り出したモノを、わざわざ手間をかけて壊す事もあるまい。我もそこまで暇ではないからな。見逃してやっても良いが、ひとつ条件がある。我と戦え。倒せとまでは言わぬ。我を地に付けるか、体力を一定まで減らせば、この場は見逃してやる』


『やるしかないか、もちろん、みんなも参加していいのね⁉』


『構わぬ、何百こようが、我を揺るがす事は出来ん。戯れよ』


 こうして巨大母蟹【カルチノーマ】との戦闘が幕を開けた。イニシアティブ判定によって、戦闘の順番が更新される。順番は、カルチノーマ、蟹江静香、木村明久、吉野家早霧、金森式奈、飛田喜一、亀之助となる。


『お前たちの実力は、我から見れば、この程度だろうな……』


 カルチノーマは、大きな鋏を地面に叩きつけた。その大きさは鋏だけで、蟹江静香の8倍の体積がある。この時点で最早巨大な岩と戦う様なものである。


『この鋏に傷をつける事が出来たら合格だ』


『みんな! 息を合わせて! 近距離と遠距離で分かれて連携!』


【千切る】【タックル】【噛みつき】連撃発動!


【連撃】――説明。


 攻撃速度の足並みを揃える事で発動する連携技。素早さを基準とする、イニシアティブ判定の際に、敵が間に入ると発動できない。攻撃の組み合わせにより、ダメージの底上げを始めとした、様々な特殊効果が追加される。達成判定を一気に行うが、それぞれの達成値は参照の能力値ステータス+10となり、最低でも2D6が追加される仕様となる。大失敗は存在せず、大成功の時は相手の防御力を貫通させることが出来る。なお、相手も使ってくる場合があるので、注意が必要である。


――――――――説明終了。




 近距離連携【噛み千切りタックル】は母蟹の鋏に傷をつけた。


「固っ! どうなってんの⁉ コイツの防御力高過ぎでしょ!」


「どうやら攻撃技能スキルの固定ダメージだけしか通ってないようね!」


「タックル仕掛けてるのに、仕様で転ばない相手なんて初めてだよ!」


 それもそのはず、タックルの相手は基本、本体でなければ意味がない。現状攻撃を仕掛けたのは【鋏】というひとつの部位に過ぎない。この様な場合、タックルの追加効果、転倒は発動しないが、追加のダメージだけは通る仕様となっている。


「次は俺たちの出番だ! 行くぞ、亀之助! 木村クン!」


「任せてくだせぇ!」


「君たちに合わせる!先に水魔法を!」


【ウォーターボール】【空気大砲】【サンダーボルト】連撃発動!


 遠距離連撃【サンダーボール大砲】電気を纏った水球が、空気大砲によって勢いよく発射された。その反動で、メタルギアタートルである亀之助は、後方に大きく吹き飛ばされ、1ターン行動不能となる。


『ふむ……。この熱帯雨林で戦うには、十分な部類かも知れんな……。中途半端に治癒させるなら、再生の方が早いかもしれぬ……』


 カルチノーマの鋏は、サンダーボール大砲の威力で表面を焼かれていた。それを、もう片方の鋏で切断する。その行動に迷いは一切ない。火傷を治療するよりも、鋏ごと再生した方が早いと判断したためだ。


『我が鋏をくれてやる。次合うときには我の脚を折るまでに成長しておくがよい! さらばだ! フハハハハ!』


――――――――戦闘終了。



報酬―――――――― 

 経験値+1000

 カルチノーマの鋏

――――――――入手。


 ファンファーレが鳴り、この場にいる全員がレベルアップを成し遂げた。


全員の能力値ステータスが更新された。


能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 SSCソフトシェルクラブ中型 LV5

〈名前〉 蟹江静香かにえ しずか


HP  53/53

MP  34/34


筋力  16

頑強  15+2

素早さ 23

器用さ 20+4

知能  18

幸運  23


技能スキル〉 捕食 作成 製薬 念話

〈攻撃系技能スキル〉 千切る+1

〈基本系技能スキル〉 頑強+LV1 

        器用さ+LV2

〈装備〉魔獣の鎧(防御力+10。水耐性)

――――――――――――――――



能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 白蛇 小型 LV4

〈名前〉 金森式奈かなもり しきな


HP  42/42

MP  24/24


筋力  17

頑強  17

素早さ 14+3

器用さ 18

知能  14

幸運  15


技能スキル〉 早足 念話

〈加護〉 白蛇様の寵愛

――――――――――――――――



能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 オールセクト 中型 LV2

〈名前〉 木村明久きむら あきひさ


HP  51/51

MP  33/33


筋力  22

頑強  23

素早さ 25

器用さ 24

知能  25

幸運  24


技能スキル〉     糸生成

〈攻撃系技能スキル〉  爆裂拳 

〈攻撃系魔法〉     サンダーボルト

――――――――――――――――



能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 パンサー 中型 LV5

〈名前〉 吉野家早霧よしのや さぎり


HP  52/52

MP  27/27


筋力  17

頑強  14

素早さ 17

器用さ 16

知能  17

幸運  15


技能スキル〉     毛繕い

〈攻撃系技能スキル〉  タックル


――――――――――――――――



能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 フロッガー 中型 LV4


〈名前〉 飛田喜一とびた きいち


HP  47/47

MP  22/22


筋力   9

頑強   7

素早さ  7

器用さ  7

知能   9

幸運   9


技能スキル〉    念話

〈攻撃系技能スキル〉 キック

〈攻撃系魔法〉 ウォーターボール

――――――――――――――――



能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 メタルギアタートル 中型 LV2


〈名前〉 亀之助かめのすけ


HP  72/72

MP  40/40


筋力  27

頑強  33

素早さ 16

器用さ 14

知能  20

幸運  16


技能スキル〉    念話 鉄壁

〈攻撃系技能スキル〉 空気大砲

――――――――――――――――


 全員がレベルアップを喜べる雰囲気になかった。圧倒的実力差を目の当たりにし、皆が萎縮してしまっているのを感じていた。


「みんな、ここが正念場だよ。私たちのレベルはまだまだだけど、この辺りの敵には対応できるようにはなってきた。これは大きな進歩だと思う。今回の相手はラスボスの手先、つまりは中ボス。この世界の広さに関しては体感で理解できたと思う。力を合わせれば必ず元の世界に帰れるよ! がんばろう!」


「そうです! 今回は相手が悪かっただけです! 僕たちはまだ伸びしろがあります! これからもレベル上げや技能スキルを向上させて、このゲームを必ずクリアしましょう!」


「そーだね! 今回のレベルアップで進化の条件は満たしたし、なんとかなってくれるかもね!」


「あたしも! 筋力型で進化する! パワーで圧倒したい!」


「頼むで亀之助、俺が進化するまでバッチリ守ってくれや!」


『もちろんです旦那ぁ! 旦那に貰ったこの命、尽きるまで! 戦い抜いて見せますぁ!』


 それぞれが己を鼓舞し、立ち直った。強敵との戦いを経て、彼らの体と心は、年齢を大きく超えて強くなった。


 そう、【強くなったのだ】




【トピックス】――――――――

 八英祖とは、魔人の手によりこの世界に生まれ落ちた、大いなる力を持つ存在の事である。彼らの目的は様々であり、魔王を誕生させようとしているとも、人間を家畜として支配しているとも云われている。

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