第15話 何処へ向かえばいいのか
カニ生活14日目――――――――
進化を終えた亀之助が、新しい面持ちで皆の前に現れた、以前の風体とは異なり、防御を特化させたその身体は、全身が金属質に変化し、柔軟性と硬度を獲得していた。
装甲はもちろんの事、その足回りは生物のそれを大きく逸脱していた。キャラピラと呼ばれる駆動系、無限軌道である。それに加え、甲羅の上には主砲が格納されており、そこから強烈な一撃を発射する構造となっている。
「見てくだぇ皆様方! これが俺っちの新しい姿です!」
〈状態〉 メタルギアタートル 中型 LV1
〈名前〉
HP 60/60
MP 36/36
筋力 25
頑強 30
素早さ 15
器用さ 10
知能 15
幸運 15
〈
〈攻撃系
――――――――――――――――
【空気大砲】――説明。
体内に圧縮した空気を充填させ、一気に放出する攻撃系の
――――――――説明終了。
「め、メカ化しとるーっ! なんやねん亀之助! ごっつう恰好よぉなっとるやんけ! 男の子心を分かり過ぎやろ!」
「こここ、これは! なんてカッコいいんでしょうか! この強度と柔軟性があれば、自然界における攻撃は殆どが吸収できてしまうのではないでしょうか⁉」
「男子たちがめちゃめちゃ盛り上がってんだけど、アタシにはちっともわからんわ」
「だよねぇ。ウチは弟がいるからなんとなく感じはわかるけど、男の子は働く車とか重機とか大好きだよねぇ」
「防御特化ってあんな感じになるんですね……。亀之助君の
「それええやん! センセの場合、メカ化したらビーム出るんちゃう⁉」
「ふふっ、それはまさしく【カニ光線】ですね!」
「そのネタ一体何人が分かるんや! 木村クンもマニアックじゃのぅ!」
亀之助の防御型進化が、圧倒的に高い評価を得ており、飛田喜一も大変満足している。これで、戦力に関してはかなり揃ってきたと言えるだろう。
続いては、蟹江静香のランクアップガチャだが、急に勿体ない病が発症してしまい、『攻略が詰まるまでは温存しておきたい』という彼女の意志を尊重し、保留となった。いざ実行できるとなると、不安に駆られてしまうのは、やはりゲームにはつきものと言わざるを得ない。
「蟹江先生、金森さん、僕、吉野家さん、飛田君、亀之助君とメンバーが6人になった所で、ひとつ問題があるんだ」
それは、メンバー過多による、経験値分配システムの弊害が起こる事である。
「確かにレベルは上がらんかも知らんけど、このメンツなら多勢に無勢でかなり攻略が有利になるとちゃうんか?」
「飛田君、木村君が考慮しているのはおそらく、多勢に無勢でも勝ち得る【ボス】の事を危惧しているのよ」
「そ、そうかぁ……。俺達はまだ、そこまでの強敵に遭った事はない。大人数で探索すれば、その方が有利かと思っとったけど……」
「それに、探索範囲もかなり狭まるよね。折角人数が居るのに、まとまっていたら、他の生徒を見つけるのが遅くなっちゃうと思うよ」
「それな! 吉野家の考え、、アタシにも分かるわ。ひとりで過ごすのってめちゃめちゃ心細いし、まだ見つかってないコもさ、早く助けてあげなきゃって思う」
「そうだね。生徒はあと26人。早く探し出してあげないとね」
「僕たちは蟹江先生と出会えたから、若干の余裕があるけど、他の皆はいまどうしているかな……」
「なぁに! 大袈裟に心配する事もないで! 俺たちは泣く子も笑う【問題児学級】やで! こんなゲームなんかに負けたりはせん!」
「ふふっ……確かに、飛田君があの
「あっ! 言うたな! 木村クン! 俺が一番気にしている事に触れたな⁉」
「わ、ご、ごめんよ! あの環境下で生きれる君が特別に強いってだけだね……」
「何本気にしとんねん! 折角俺が、この場を和ませようとしとんのに!」
「そーだよ! キムラッキ、飛田の言う事なんていちいち気にしなくていいんだって!」
「ぐぬぬ! 亀之助を救ってもらった恩があるとは言え……! このギャル……!」
「は? なんか文句あんの⁉」
金森式奈は白蛇、対して飛田喜一はカエル。相性は最悪と言ってもいい。
「かぁ~っ! 気の強い女ってのは、どうも手に負えんわぁ……!」
「みんなの持っている
『お任せください。神界機構のオペレーターは優秀です』
蟹江静香の要望通り、空中に透明なボードが表示され、それにはチーム分けされた名前が表示されている。内容としては、蟹江静香、金森式奈、木村明久のチームアルファ。吉野家早霧、飛田喜一、亀之助のチームベータという振り分けだった。
「やっぱ、そうなるっちゃなるよね」
「せやな、こんなとこで文句言ってもしゃーない。攻撃面に若干の不安があるが、この編成はベストと言わざるを得んな」
「てかさ、複数戦闘になった場合、あたし、タイマンしか出来ないから困るんだけど、どうしたらいいのかな?」
ここで転ばせ屋パンサーである【吉野家早霧】が、戦いついて切り出した。今までタイマンで戦い抜いてきた彼女には、集団戦闘においての不安があった。
「そこは、俺と亀之助がカバーして、他の敵を受け持つ。その隙に、タイマンへ持ち込んで一体ずつ倒す。これしかないやろうな」
「へぇー。飛田君、喧嘩慣れしてる……?」
「あったりまえやろ! この飛田喜一! 神戸でチンピラ50人を相手に大立ち回りをした喧嘩の天才やで! まぁ、その所為であの学級にぶち込まれたんやけども」
「ははは、確かそうだったねぇ……来た当初は手が付けられないって言われてたけど、飛田君は地頭がいいし、ちゃんといい子だよ」
「ま、まぁ、センセに出会ってからは、俺もだいぶおしとやか、というか……」
「飛田、まさかアンタ、先生の必殺技で……!」
「は、はぁ⁉ 何言うてんねん⁉ センセの熱ーい情熱の説教が俺の心にドシーンと来ただけや! それ以外はなんもあらへん!」
話を戻す為、蟹江静香は大きく鋏を鳴らした。
「はい、そこまで! 話が脱線したけど、チーム分けはこの通り。これで探索範囲を広げていこうと思うの、次はこの拠点周囲の話だけど……」
蟹江静香が画面をスライドさせると、マッピングをした周囲の地図が表示された。この地に降り立ってから、早二週間が経過しようとしている。
探索の結果としては、熱帯雨林から西は砂浜、東は岩場、南は深い森、北には熱帯草原が広がっている。それぞれが旅をして、この地に集まった結果として、この地図は大まかに完成しているが、まだまだ北方には、土地が広がっている様である。
『オペレーターの情報統括を行う際に、オートマッピング機能は正常に稼働していた様でして、この様な地図が完成いたしました』
「オペレーターちゃん。我々が別行動をした際、オペレーターは正常に別々のチームのサポートを行えるの?」
「可能です。チームリーダーを設定していただき、その人物がもっている神界機構のオペレーター機能に、私のデータを統合させれば、問題なく機能すると思われます」
「それにしても、なんでセンセのオペレーターはそんなに喋れるんや⁉ 俺なんか、亀之助がいなかったら、何にもこの世界の事分からんかったで⁉」
「あたしも思ってた! 先生のオペレーターだけよく喋るし、性能良さそう!」
『それはおそらくですが、【絆の楔】の影響でしょうね。我々、神界機構のオペレーターは、背後霊や守護霊などと、同じ様な仕組みで構成されているので、より強い霊体をお持ちの方には、弾かれる可能性が在るのです。勿論、個人差があるので一概には言えないのですが、オペレーターを弾くという事は、相当強い守りが、あなた達生徒には施されているのです』
「だからみんな【弱肉の因果】の影響が薄いじゃないかな」
『そうですね、この中で【弱肉の因果】による影響をモロに受けているのは、蟹江先生しか存在していませんね』
「その、【弱肉の因果】ってどんな効果があるの?」
『人生の中で、一番ヘタクソに食べた生き物の形になる呪いです』
「マジ⁉ 先生カニ食べるの下手なん⁉」
「はいはい! その話はもういいの! 話を戻すよ! これからはこのチーム分けて、探索範囲を増やしたいと思います。探索範囲が増えれば生徒を見つける確率が増えるし、オペレーターのオートマッピングで周囲の環境が判明する。戦闘に不安を覚えたらアイテム素材などを駆使して、私が装備を新たに作るわ」
蟹江静香の提案は理にかなったものであり、生徒たち全員もそれが確実にこのゲームを攻略する近道であると理解した。行動時間に制限がある為、話を切り上げ、本日の探索を行おうと、行動しようと思った矢先のことである――
【マスク判定】
拠点全体に途轍もなく大きな振動が駆け巡る。それは、この大木全てを震撼させる規模のものである。拠点の崩落を恐れた蟹江静香は、全員に、この場からの避難を促した。妖精も含めた生徒全員が、洞から脱出すると、熱帯雨林に住まう動物たちが大移動を行っていた。その数は地表を埋め尽くし、数える事すらままならない大群である。それ程の【恐怖の存在】がこの地に訪れようとしている。
『なにか……強大なものが奥からやってきた……! これは僕の手には負えない、僕はこの地を離れる! みんなもそうするんだ!』
そう言って振り返ることなく、妖精は動物たちと同じ方向へ逃げた。
「先生! あたし達も早く逃げよう!」
吉野家早霧の提案はもっともである、が、この拠点は蟹江静香の死に戻り地点である。ここから逃げたとしても、また別の場所で死んだ場合、ここに戻ってきてします。もし、恐怖の存在がこの地を支配した場合、蟹江静香は敵の支配地で復活することになってしまう。
しかも、最悪な事に、金森式奈が拠点にしていた【巨岩のある方角】から相手はやってきている。拠点として場所を記録している箇所は大木と巨岩の2カ所しかない。これでは逃げる事も叶わないのである。
「私の都合で悪いんだけど、みんな力を貸して!」
『みなさんはこの拠点で一晩過ごしています。既にリスポーン地点が更新されていますので、ここで死んだ場合、この拠点から復活します』
「えぇ⁉ そうなるの⁉ そんなの仕様にあるなんて聞いてない!」
『聞かれなかったもので……』
「悔やんでも仕方ないで! 強そうな敵さんが向こうからわざわざ来てくれるんや! 俺たちの力で返り討ちにしてやろうやないかい!」
「とりあえず戦ってみましょう。幸か不幸か、僕たちは死に戻りが可能です、最悪ゾンビアタックか、逃げるかすれば、いずれは活路は見えてくる筈です!」
『そうだぜ! 俺っちの初陣がそんな強い相手なんて不足なし!』
「はぁ~……! そんなん言われたら、やるしかないじゃん……!」
拠点を背にし、騒動の根源へと一斉に歩みを進める。蟹江静香と亀之助を前衛とした陣形で、ふたりが囮となり、隙をついて最大火力を繰り出す作戦だ。
熱帯雨林の奥底より、木々をなぎ倒しながら、恐怖の存在がその姿を現す。
「お、お母さん……!」
不意に、蟹江静香から声が漏れる。それは初日に自身を紙屑の様に踏みつぶした、驚異の存在。山の様に巨大な蟹が、3匹の小型蟹を引き連れて登場したのである。
【トピックス】――――――――
この世界の各地には、その地帯を支配する存在が居る。その中で更に縄張り争いが起き、それぞれボスの座を狙って日々争いが絶えない。
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