第13話 魂の繋がり。


 カニ生活13日目――――――――


 洞の中央に篝火を用意し、全員で体温を確保している。もうそろそろ、木村明久が進化を終えて変態が完了する。全員が初めて目にする進化、それはこの先のゲームにおいて、大きな希望になりえるのだろうか。全員の興味はその一点に注がれていた。


 分厚い繭に包まれた彼は、内部で一定の脈動を続け、次第にそれは早くなってゆく。やがて、繭に亀裂が入り、中から脚を器用に操り、分厚い繭をこじ開けた。


「木村明久! 進化完了しました!」


 逞しい6本の脚を自在に操り、固い装甲に覆われた中型の虫が現れる。弾力と強度を兼ね備えた装甲が各急所を的確に守り、関節には細かい体毛が生え揃い、腱と筋肉の力の伝達力、及び防御力を増加させる働きが見込める。


 これらの様子から察するに、生物的な意味合いで、全体的な強化が行われたことは明らかであった。



能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 オールセクト 中型 LV1

〈名前〉 木村明久きむら あきひさ


HP  41/41

MP  22/22


筋力  18

頑強  18

素早さ 19

器用さ 22

知能  23

幸運  19


技能スキル〉     糸生成

〈攻撃系技能スキル〉  爆裂拳 

〈攻撃系魔法〉  サンダーボルト

――――――――――――――――


【爆裂拳】――説明。


6本中4本の脚を縦横無尽に操り、連撃を喰らわせる技能スキル。達成値は15であり、【3d6+6】の殴打属性の攻撃を繰り出す。達成値計算には、器用さの項目を参照する。技の名前を叫びながら使用すると、何故か威力が+3される。不意打ちには向かない技能スキルだ。〈不意打ち無効〉


――――――――説明終了。


「見事な格闘家にクラスチェンジしている……! これが進化の力……! 心なしか、やる気と自信に満ち溢れている様にも見える……!」


「はい! 能力値ステータスも全体的に、2割増しと言った感じで、無駄のない強化を感じます。やはり、バランスがいいですね!」


 木村明久の進化も終わり、新たな仲間である、吉野家早霧を交えて、再び情報を擦り合わせを行った。


「これが、あたしの能力値ステータスだよ」


能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 パンサー 中型 LV4

〈名前〉 吉野家 早霧


HP  45/45

MP  23/23


筋力  14

頑強  13

素早さ 16

器用さ 13

知能  16

幸運  12


技能スキル〉     毛繕い

〈攻撃系技能スキル〉  タックル


――――――――――――――――


「流石肉食獣。強いなぁ……」


「ガチャで、【タックル】が手に入ったのが大きかったんだ! これには何回も助けられたよ!」


【タックル】――説明。


 低空で体当たりをする技能スキル。相手を転ばせる効果があり、一定確率で相手を動けなくする。転ぶと相手は問答無用で2のダメージを受ける。素早く仕留めるのが、この技のポイントである。達成値は10であり、器用さを参照した、基礎ダメージ+【2D6+6】の殴打ダメージを与える。


――――――――説明終了。


「相手を無限に転ばせて、ダメージを稼ぐ。これが基本のスタイルだよ!」


「流石は女子レスリング部期待のエース。もう戦いの心構えが違う……」


「これでアタシたちは4人になったから、数では圧倒的に優位に立てんね」


「先生。一度戦ってみて、手に入る経験値から、今後の流れを組みましょう」


「そうですね。通常のゲームから考えると、4人の構成は一番バランスが優れている。一度戦って考えてみましょうか」


「先生……! お腹空いた……!」


「そうか、吉野家さんは肉食獣だから、私達とは空腹の度合いが違うんだ……。これはまた新たな問題が生まれたかもしれないですねぇ……」


 こうして、4人は、探索に出掛けた。


 ※パーティが4人になったことで、今後のエンカウントでは、ボス等の強敵を覗いて、2体以下の敵は出現しません。




【トピックス】――――――――

 神界機構にとって、人間は大切な存在である。数々のドラマを生み出す尊い生き物を、彼らは愛して止まない。そんな想いが時折、行き過ぎた恩恵を与える事もある。

――――――――――――――――




――熱帯雨林



【マスク判定】曇っている。


 探索判定【3】【4】 新たな敵に遭遇した!


 明らかに様子のおかしい戦いが目に入った。甲羅に木を生やした亀の上に、カエルが隠れている。もう一方は、ジャガーがサソリを引き連れて、戦わせているように見える。別の種族同士で、統率が取れた動きをするのは自然界では珍しい。


「先生、様子を見ますか?」 【マスク判定】成功。


「どちらか分からないけど、生徒の気配がする!」


 蟹江静香は、生徒との戦場遭遇が4回目である事から、その存在を薄っすらと認識出来るようになっていた。そして、明らかな連携を取っている、亀とカエルに目を向けた。


「あの亀とカエルのチームに加勢しましょう。明らかにタッグを組んでいる。あの様子は、自然界でもなかなか見ない共存です。きっと生徒が仲間にしたのでしょう」


「確かに、あの陣形は自然界ではありえません」


「でも、一応って事があるから、1ターン待ってから乱入して、戦場を搔き乱そう。失敗してもそこまでデメリットないし!」


「先生めっちゃ卑怯じゃん、ウケる」




 イニシアティブ判定【マスク判定】【マスク判定】


 ジャガーチームの先行攻撃、噛みつきが成功した! しかし、亀の甲羅は固く閉ざされており、少しのダメージしか通らない。明らかに防御の構えを見せている。


 引き続き、サソリによる攻撃、これもまた甲羅に阻まれ、ダメージは出ていない。


 亀はその場でじっと耐えている。


 カエルの攻撃、達成判定【マスク判定】【マスク判定】成功。なんとその場に巨大な水の塊が出現し、ジャガーを呑み込む。水圧と窒息が容赦なく襲い掛かり、動きを見事に封じ込めている。


「あ! あのカエル! 魔法を使っているぞ! 水系統なのに、使っているのは……! スプラッシュじゃない!」


「つまり、あれはスタートダッシュガチャの魔法ってこと⁉」


「先生の勘は当たったみたいじゃん! そうとわかれば加勢っしょ!」


「よし! みんな! 行くよ!」


【乱入判定】【4】【1】 失敗! 登場の際、足並みがそろわず、ガヤガヤと大きな音が出てしまう。それによりいち早く存在が知られ、不意打ちが不可能となった。


「全然カッコよくキマらないじゃん!」


 乱入が失敗したため、改めて、行動順の判定が行われる。


 イニシアティブ判定【マスク判定】【マスク判定】


 圧倒的な速度で先制を手にしたのは、【オールセクトの木村明久】であった。その後、蟹江静香、吉野家早霧、金森式奈の順になる。


「サンダーボルト発動!」達成判定【1】【2】成功。


【ダメージ判定】【6】【6】【4】【4】【5】


「あ、あれ⁉ 放て! サンダーボルト!」


『予想を大きく超える、魔法の威力です。皆さん衝撃に備えてください!』


 普段、戦闘には口を挟まないオペレーターが、全員に対して注意を促す程の、激しい稲妻であった。水の牢獄に閉じ込められたジャガーは即死。直線上にいたサソリも、あと一撃で死ぬ手前まで追い込まれている。


 明らかに場違いであるサンダーボルトの威力に、一同が唖然としている中、引き続き、蟹江静香がサソリに攻撃を放った。


 達成判定【4】【4】成功。【ダメージ判定】【4】【5】【5】【2】


 カニの鈍くて大きな鋏が相手の命を絶ち切った。サソリを討伐した。


――――――――戦闘終了。



報酬―――――――― 

 経験値+200

 ジャガーの爪

 サソリの尾

――――――――入手。


 突如として助けに入った集団に、度肝を抜かれたカエルであったが、今はそれどころではなかった。カエルの為にダメージを請け負った亀が、瀕死の重傷である。彼らは念話で会話をしていた。


『亀之助! しっかりせぇ! 折角助かったんや! 死ぬな!』


『へへっ……。旦那ぁ……。いよいよ俺っちも、年貢の納め時かもしれねぇ……。体が思ったように動かねぇし……なんだか眠いんだ……』


『しっかりするんや! 俺は、お前がおらんとアカンのじゃ! 約束したやろ! 俺たちは一心同体や!』


『ダメですよぉ旦那……! 約束したじゃないですか……! あの時、旦那が水を魔法で出してくれなかったら……! あの場で俺っちは死んでいた……! その恩をやっと返せる……! 後悔は……! ねぇ! 最後は、旦那の、腕の中で……! はぁ、はぁ……旦那は……! 生きてください! 俺っちの……! ぶん……まで……!』


『か! 亀之助ぇ――――――っ!』




『はい、ヒール』


 金森式奈によって、亀とカエルによる、今生の別れはキャンセルされた。彼女のヒールにより、亀の傷口が完全に塞がり、出血も治まった。


『ありゃあ⁉ なんだいこれは⁉ 俺っちの傷があっさり治っちまいやがった! こりゃあ、なんてすごい奇跡だ!』


『か! 亀之助ぇ――――――っ!』


 ふたりは抱き合い、喜びを分かち合った。


――――――――そして




『オペレーションシステムを接続、適応されました。会話可能です』


「いやぁ! みんな! 助かったわ! 本当に、ありがとう!」


「この口調は……! 飛田喜一とびたきいち君……⁉」


「センセ! ホンマ助かったわ! 金森さんも、治療ありがとな!」


『俺っちからも、ありがとうございます! 旦那のお仲間だったとは露知らず、死に掛けであったとはいえ、お見苦しい所をお見せいたしやして、申し訳ござんせん!』


 関西弁のカエルが【飛田喜一】江戸っ子風の亀が【亀之助】である。召喚されてすぐ、出会った彼らは、いくつもの困難をふたりで乗り越え、この地へとやってきた。どうやら、この熱帯雨林の中で、やたらと強いカニがうろついていると、妖精から聞いという話であった。


「もしやとおもて、探索しに来たんやけど、運悪く連戦が続いてしもうてな、俺の魔法はMPの関係で連発でけへんし、あれでしまいやったんや。でも、会えてよかった!」


「積もる話もあるけれど、みんな一旦、拠点に戻りましょう。また襲われてもかなわないし」


「せ、先生! 捕食を忘れています! 勿体ないですよ!」


「あぁ、そうだったぁ! もぐもぐターイム!」


技能スキル捕食の効果により、ジャガーを摂取。蟹江静香の――』


【6】【2】【1】


『――筋力が1増加しました』



技能スキル捕食の効果により、サソリを摂取。蟹江静香の――』


【4】【3】【5】


『――素早さが3増加しました』


能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 SSCソフトシェルクラブ中型 LV4

〈名前〉 蟹江静香かにえ しずか


HP  42/42

MP  30/30


筋力  15

頑強  14+2

素早さ 22

器用さ 18+4

知能  17

幸運  21


技能スキル〉 捕食 作成 製薬 念話

〈攻撃系技能スキル〉 千切る+1

〈基本系技能スキル〉 頑強+LV1 

        器用さ+LV2

〈装備〉魔獣の鎧(防御力+10。水耐性)

――――――――――――――――


 その後、ジャガーの肉を、吉野家早霧のごはんとして補充した。



 帰還判定【マスク判定】――成功。




【トピックス】――――――――

 戦闘において、【陣形】は大変奥深いものである。並びによっては敵の攻撃をよけやすくなったり、防御力が高いものが敵対心ヘイトを煽り、庇いやすくなる。

――――――――――――――――




 大木の洞――


 新しく加わった【飛田喜一】を含め、情報交換と擦り合わせを行う。彼ら2人組は、この地点から西にある、浜辺のエリアから、やってきたという話である。途中、大きな川を越え、苦労の甲斐あって、合流する事が出来たのだという。


「俺のスタートダッシュガチャは、魔法【ウォーターボール】や。これの窒息効果のおかげで、生物を軒並み溺れさせてきた。しかし、能力値ステータスの伸びがカスすぎてなぁ! もう限界やと思って、こっちに流れて来たんや。陸上生物の方が、溺れる時間も短いしな!」


『その最中、俺っちは出会い、ここまで旅をしてきたんです』



能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 フロッガー 中型 LV3


〈名前〉 飛田喜一とびた きいち


HP  40/40

MP  18/18


筋力   6

頑強   5

素早さ  5

器用さ  6

知能   8

幸運   7


技能スキル〉    念話

〈攻撃系技能スキル〉 キック

〈攻撃系魔法〉 ウォーターボール

――――――――――――――――


「創意工夫でやってきた感じが、ひしひしと伝わる……!」



能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 パーメットタートル 中型 LV4


〈名前〉 亀之助かめのすけ


HP  40/40

MP  18/18


筋力  13

頑強  15

素早さ 14

器用さ 13

知能  13

幸運  13


技能スキル〉    念話 鉄壁

〈攻撃系技能スキル〉 噛みつき

――――――――――――――――


「亀之助くんは、浜辺出身なの?」


『へい先生! 俺っちは生まれも育ちも、西の浜辺でさあ』


『解析結果によると、亀之助は名前を付けられたことで、飛田喜一さんと魂の繋がりが成立しています。これが、絆と楔の力で、強化されている様ですね』


『そうなんですよ! 旦那が俺っちに名前を付けてくれたおかげで、俺っちは強いんですけど、その分、旦那のステータスが、伸びなくて伸びなくて……!』


「そういう事もあるんだねぇ……」


「ん、これなら亀之助君。これ、進化出来るんじゃないのかな? 防御型だけど」


 能力値ステータスを見ていた木村明久が、持ち前のゲームセンスで、即座にこの事に気が付いた。


『えぇ、その通りでさぁ。移動中にレベルが上がって、進化出来る筈でしたが、安全地帯が確保できず、保留になっていたんです。よろしければ、こちらで進化させていただきたいのですが……!』


「それは構わないよー。防御型なら、喜一君とのコンビネーションも強くなるだろうし、楽しみだねぇ」


「よっしゃ! 亀之助! さっとやってしまおうやないか! ごっつ強なってくるんやでぇ!」


『そうですね。少し、端っこをおかりしやす!』


 そう言って亀之助は、洞の端で甲羅の中に引っ込み、瞑想に入った。


 「余った時間で、私たちは、互いの相性やコンビネーションを加味して、新しい戦法と陣形を考えていきましょう」


「そうですね! 新しいメンバーがふたりも追加されたので、戦略の幅は大きくなったと思います。しかし、経験値配分の件も考慮しなくてはなりません。亀之助君の様に、仲間になってくれる動物の存在も分かりましたし、これは大きく前進だと思われます」


 話し合いの最中、パンサーである【吉野家早霧】がヒールを覚えたいと言い、皆もそれに賛成した。回復魔法の存在は大きい。出来るならば、全員持ちたい所ではある。既に攻撃魔法を持っているメンバーは例外として、回復役を設けるというのは、効率の面でとても大きな前進となる。


 熟練度が足りない為、金森式奈からヒールを教わることが出来ない。例のごとく、妖精にガチャパワーを支払う事で、吉野家早霧はヒールを習得した。


「ガチャパワーと言えば、この度の戦闘で、10回分が溜まりましたー!」


「やったじゃん先生! これでランクアップ回せるっしょ!」


「折角だし、ランクアップガチャはみんなの前でやろう。楽しみだなー」


 新たな生徒を2人発見した事で、蟹江静香は安堵していた。残っている生徒はあと26人。先は長い。



【ルール】――――――――


 デスペナルティの補足。50回目以降の死。積極的な自殺の許可。


――――――――――――――――




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