第5話 絆と楔。

 カニ生活6日目――――――――


能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 SSCソフトシェルクラブ小型 LV2

〈名前〉 蟹江静香


HP  30/30

MP  14/14


筋力  11

頑強   7

素早さ 10

器用さ  7

知能   9

幸運   7


技能スキル〉 捕食 作成

〈攻撃系技能スキル〉 千切る

〈装備〉草と獣の鎧(防御力+1)

――――――――――――――――


「うぉおん! 喜びがなーい!」


『ついに精神も限界に来ていましたか』


「デスゲームに参加させられて、無事にいられる訳もなく――」


『では本日は、喜びを探しに行きましょう。ここ最近の探索の甲斐もあって、この周辺で食べられそうな果実などを発見していたのです』


「よし、行こう! 危険も顧みず、喜びを探しに行こう!」


『この弱肉強食デスゲームは、人間に地獄の苦しみを与えることを前提に、構成されているので、この呪いが有効であるうちは、自暴自棄を起こしたり出来ないんです。しっかりと感情をコントロールして、このゲームを勝ちましょう』


「教師である私ですらこんな状況では、生徒たちは本当に無事なのか心配になる」




  熱帯雨林――


【マスク判定】 天候はあいにくの雨である。足元は頼りないが、雨音が気配を消してくれる為、一概に不幸とは言えない。


 探索判定【2】【6】


 予定通り、天の声が狙いを付けていた地点に到着した。周辺にはベリーが自生しており、とても甘酸っぱい香りがする。


 採取判定【2】【6】 美味しそうな木苺が見つかった。


「早速食べよう。むしゃり」


技能スキル捕食の効果により、木苺を摂取。蟹江静香の――』


【1】【5】【3】


『――幸運が2増加しました』


「もう1個食べたい」


【自動収得】 【マスク判定】成功。


技能スキル捕食の効果により、木苺を摂取。蟹江静香の――』


【2】【2】【3】


『――知能が2増加しました。木苺による上昇が限界値になりました』


「2回以上はダメなのか……」


『次の地点に移動しましょう』


「はい」


 探索判定【6】【4】 滞りなく、目的地へと到着した。


「これは何だい、オペレーター」


『これは地面に作られた蜜蜂の巣です。これなら木に昇る必要が無いので、あなたでも手に入れることが可能かと……』


「現在の装甲で、蜂の攻撃を無効化出来るなら突っ込めばいいけど、そうじゃないなら死にに行く様なものではなかろうか?」


『レベルも上がりましたし、試しに、攻撃してみては?』


「おし! 挑戦だ! 全ては喜びの為に!」


 多少やけくそ気味に、意気揚々と蜜蜂の巣へと向かうと、大量の蜜蜂が攻撃を仕掛けて来た。しかし、生物的に何倍も強いカニは、ぽこぽこ接触するだけで蜜蜂を撃退した。


「これではまるで無敵状態みたいだ」


『対峙する相手と、圧倒的に戦闘力の差がある場合、こうなるのです。これを【短縮戦闘】と呼びます』


【短縮戦闘】――説明。


 こちらの戦力が圧倒的に高い際、戦闘が省略されるシステム。レベル差がある為、経験値やアイテムなどは手に入らない事が多い。


――――――――説明終了。


 そのうち、全ての蜜蜂が地に落ち、【大きな蜜蜂の巣】を入手した。


技能スキル捕食の効果により、蜂蜜を摂取。蟹江静香の――』


【6】【1】【2】


『――食材が身体に適合しませんでした』


「適合しない事もあるの⁉」


『その様ですね。この蜂蜜と巣は、作成に使用するなりしましょう』


 蜂蜜はとても美味しかったが、能力値ステータス増加のチャンスを逃したショックはかなり大きかった。


『インベントリがいっぱいの様ですので、今日はこの辺で帰還しましょう』


「そうね。空いた時間で作成もしたいし、案内して頂戴」


 帰還判定【マスク判定】――成功。




 大木の洞――


 大きな蜜蜂の巣を持ち帰った為、洞の内部は圧迫されたいた。


「しばらく食べ物に困らないのが嬉しい。腐らないというのも最高」


『今日は息抜き出来ましたかね?』


「そうね。珍しく敵にも遭遇しなかったし、感謝してるわ」


『よかったです。では、この蜜蜂の巣を使用して、作成でも行いましょう』


「何かアイディアは……無いわね。閲覧の神々も、何も反応がないみたいだし……。そうね、蜂蜜には抗菌作用と解毒効果があるって話だし、何か状態異常回復になる様なものを作りましょうか」


『それが良いでしょう。今後、毒を使用する敵も現れるやもしれませんし』


 蜂蜜、苔、水を適量使用し、薬の調合を試みるが、まず下準備として、乳鉢を作成した。石同士を丁寧に削り合わせ、形成してゆく……。


 作成判定【5】【6】 かなりの出来である。


【乳鉢と乳棒】――説明。


 基本的な薬品作りの道具。材料を合わせて混ぜ合わせるだけの簡単な薬が作れる。思ったほどの効果は期待できない。材料には限りがあるので、心して取り組もう。


――――――――説明終了。


「よし、完成! したのはいいけど、薬の開発は明日以降になりそうね」


『道具の作成にかなりの時間を費やしましたからね。スキルが向上すれば、、時間短縮も望めるのですが、長い目で挑戦していきましょう』




 カニ生活7日目――――――――


 この日は前日に引き続き、回復薬及び解毒薬の調合に取り掛かっていた。


 作成判定【2】【3】 粗末な出来である。


 開花判定【マスク判定】【マスク判定】


 『【粗末な回復薬】が完成しました』


【粗末な回復薬】――説明。


 清潔な苔と蜂蜜で生成した、その名の通り粗末な回復薬。HPを5回復し、内臓機能を高め、弱い毒の効果を打ち消してくれる。強い毒には効果がない。


――――――――説明終了。


『どうやら今の作成で、項目内に【製薬】が追加されましたね。おめでとうございます。これで、アイテムを口にした際、薬に活用できるかの判断が可能となります』


「おぉ、これは便利。技能スキルってこんな簡単に、ポンポン生えてくるものなの?」


『いえ、本来はこの様な事はありません。しかし、蟹江さんは人間の記憶を保有した状態で、カニの身体に生まれ変わっています。いわゆる、知識チート状態ですね。なので、技能スキルの概念習得が、かなり容易なのでしょう。知識は力なりですね』


技能スキルの獲得数に制限はないの?」


『今の所、上限があるという情報はありません。魔人が作り出した世界なので一概には言えないのですが、世界にもテンプレートと言うものがありまして……。機会があればそれも解説致します』


「適当にぽんぽこ取ったら欄が圧迫されて、肝心な技能スキルが取れないとかになったら目も当てられないよね……。一応、現状を確認してみよう」


能力値ステータス――――――――――

〈状態〉 SSCソフトシェルクラブ小型 LV2

〈名前〉 蟹江静香


HP  30/30

MP  14/14


筋力  11

頑強   7

素早さ 10

器用さ  7

知能  11

幸運   9


技能スキル〉 捕食 作成 製薬

〈攻撃系技能スキル〉 千切る

〈装備〉草と獣の鎧(防御力+1)

――――――――――――――――


「確かに製薬が追加されてる……。なんだか能力値ステータスの画面って狭くて、これ以上表示する項目が増えたら、見辛くなりそうだなぁ。整頓出来るならやりたい……」


『そうですね。UIの仕様が変更できるか、考えておきましょう』


「今のうちに【草と獣の鎧】も【芋虫の粘液】で強化しておきたいな」


『いいですね。最終防御力の強化は、戦闘に大きなアドバンテージを生むでしょう』


「均等に液体を塗る……となれば、刷毛が必要だ。こんな鋏じゃあ、話にならないだろうし……。そうだ、使い道の無かった、鳥の羽を加工しよう。材料は草の縄と、削った木材。接着剤に芋虫の粘液と蜂蜜、水を混ぜたものを使おう」


 作成判定【4】【5】 なかなかの出来である。


『【刷毛】が完成しました』


【刷毛】――説明。


 塗料を均一に塗る為の道具。装備の加工などで使用する。


――――――――説明終了。


「作成するだけで、すぐに時間が無くなってしまうね……。これは後々の戦いに影響してきたりとかしそうでこわいよ。この世界がゲームという話なら、尚更」


『生存率を優先するか、レベル上げを優先するか、計画性が問われますね』


「以前、死ぬ戻りによるデスペナルティについて話をしたけど、部位の欠損以外にデメリットはあったりするの?」


『主に【精神の摩耗】でしょうか。生物は本来何回も死んだりしないのが普通ですよね? それなのに死に戻りで生き返ってしまう。そうなると、脳に負荷がかかり、心を病んでしまったりする可能性は大いにあります。呪いの所為で、自暴自棄にはならないのですが、それでも精神に負傷は残ります。何回で限界が来るのか、それは個人差があるので一概には言えません。蟹江さんの場合、【絆の楔】となってくれた人物が、かなり力のある存在なので、殆どノーダメージで済んでいます。奇跡ですね』


「【絆の楔】は生徒全員にもあるんでしょう? 私が特別なら、それにも個人差があるの?」


『魂を世界に縛る【絆の楔】は、その人に関係する霊体に影響を受けます。背後霊や先祖の霊などですね。霊体の位が高ければ高い程、対象者の魂は保護されます。蟹江さんの場合、笑っちゃうくらい強い英霊に保護されているので、多少死んだところで無事で居られるでしょう』


「英霊ね……ウチのご先祖に、そんな霊験あらたかな存在居たかな……? いや、いくら魂が保護されて、精神が無事って言ってもさ、あの噛み砕かれて、踏みつぶされて死ぬ感覚はもう味わいたくないよ。無理だって。痛すぎるもん」


『魂と精神が無事なら、いわゆる【ゾンビアタック】でレベル上げ放題とか、やると思っていました』


「人間の心はそんなに強くないよ。天の声システムってのは、人の心が無いのか」


『そこにないならないですね』


「なんでユーモアの心だけはあるんだよ」



 作成判定【4】【6】 改心の出来である。


『【草と獣の鎧】に、芋虫の混合液を塗装しました。これにより、最終防御力が上昇し、水と熱に耐性を付与されました』


【草と獣の鎧+1】――説明。


 混合液を塗装した草と獣の鎧。特殊な虫のタンパク質と蜂蜜の成分が混ざり、硬化処理が施されている。装備する事で、最終防御力が+2上昇する。雨などの水に強く、熱にも多少の耐性が備わっているが、炎などには弱いので注意が必要となる。


――――――――説明終了。


「これで生存率が上がれば儲けものなんだけど、こう見たら結構カッコいいかもしれない……。これは延々とバージョンアップを重ねてしまうかも……!」


『蟹江さんは生前から何かのゲームを?』


「生前言うな! そうね、学生時代は乙女ゲーのRPGをやり込んだり、大人になってからは空いた、時間でソシャゲとかしてたけど、それくらいかなぁ」


『そうなのですね。私達オペレーションシステムは、ゲームを知識として知っているだけで、プレイ自体はしたことがなく、それ故に、経験で物を語る事が出来ないのです。なので、画期的なアイディアを導き出したりすることが出来ません』


「なんか、以前もそれらしいこと言ってたな」


『なので、蟹江さんの冒険を実際この目で見て経験を積み、見事ゲームクリアまで導けるように、戦いの中で成長したいと思います』


「ホント、なんでユーモアのセンスと語彙だけ詰め込んでるんだ、このシステム」

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