第9話 ナイフで火起こし
「そのナイフと石で、火を起こせるんですの?」
「ああ。ちょっとやってみるか」
ミロスから魔法を使わないで火をつける方法を教えてもらう。
石やナイフに発火の呪文が刻まれていたりするわけでもないので、魔石で作られているアイテムとかでも無いようだ。一体、どうするのだろう。
「こっちの石をナイフの先で削るように擦り当てるんだ」
カツカツ、カツッ!
「あっ! 火花が出ましたわ!」
「この火花を燃えやすい素材に落としてやれば、こんな感じで焚き火が出来るというわけだ」
「すごいですの! 本当に魔法や魔道具ではありませんの?」
「両方ともただの金属だよ。こっちのナイフは黒曜石で出来ている。そんでもってこの石は鉄鉱石だ」
「黒曜石と、鉄鉱石?」
「まあ別の素材でもできるんだが、今はこれしか持ってないからな」
ミロスの説明によると、黒曜石のナイフで鉄鉱石の表面を勢いよく削ると、摩擦熱で削れた鉄鉱石の粉が火花になって、それで火がつけられる……という事らしい。
うーん、なんとなく分かったような、分からないような。
「アーシアもやってみるか?」
「やりますの! 何事もチャレンジですの!」
ナイフと鉄鉱石を借りて、ミロスがやったようにカチャカチャとこすり合わせてみる。
「あまり火花が出ませんわ……」
「もっとこう、シュッと! シュシュっと!」
「シュシュっと!」
カシュカシュ、カシュッ!
「火花が出ましたわ!」
「そうそう、その勢いが大事だ。上手いぞアーシア」
「えへへ……」
これでわたくしも火起こしマスターですわ。
無人島生活でまだひとつスキルアップ! ですの!
「いやあ良かったぜ。コイツだけは流されずに手元に残っていたからな。運が良かった」
「そういえば、ミロスはどうして一人でこの島に?」
「オレか? まあおそらくそちらさんとほぼ同じ理由だと思うが……」
「もしかして、戦犯対象者でアイル王国から島流しになったんですの……?」
「おおむねそんな感じだ。他にも何人かいたんだが、この島に着く前に船が魔物に襲われてな。船から脱出して死に物狂いで泳いで島までたどり着いたは良いものの、生き残りはオレだけだったというわけだ」
「あー……」
どうやらわたくしよりも厳しい道のりだったみたい。
もしかしてあのクラーケンかしら……それとも他にも巨大な魔物が……?
「そういやお前さんのフルネームはアーシア・フォレガンドロスだったな。もしかすると、ギリス王国軍のフォレガンドロス将軍と関係が?」
「……わたくしは将軍の一人娘ですの」
「……そうか。そりゃあ、大変だったな」
「命があるだけ儲けものですわ」
島流しを言い渡されたときはもう本当に絶望しかなかったのだけれど、なんだかんだでこうして今も生きている。
それだけでわたくしは十分幸運だ。
お屋敷のふかふかベッドはないけれど、お腹もふもふの人狼族が隣にいてくれる。
「ミロス。改めまして、島流され者同士これからよろしくですわ」
「おう。力を合わせて生き延びようぜ、アーシア」
わたくしたちは固い握手を交わし、明日からの無人島生活に向かって新たな一歩を踏み出したのだった。
「ところでミロス、ちょっとお願いがあるのですが、よろしいですの?」
「ん、なんだ? 魚の獲り方でも知りたいのか?」
「今夜、ミロスのお腹を枕にして寝ても良いですの?」
「ダメだ」
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