第8話 アーシア、回復する
「……んん」
目が覚めると、パチパチ、パチと近くでなにかが弾ける音がする。
それと、何かが焼ける煙の匂い……
「……はっ! 火事ですの!?」
「おう、ようやくお目覚めか。おはようさん、お嬢様」
「……ごきげんようですの」
わたくしが寝ていた葉っぱのベッドの近くで、たき火の世話をしながら何かを焼いているオオカミの様なもふもふの男がいる。
「人狼族ですの!」
「ああそうだ。改めて名乗らせてもらおう、オレは人狼族のミロス。お嬢様のお名前は?」
「わたくしは、アーシア……アーシア・フォレガンドロスですの」
「よし、意識はハッキリしてるようだな。アーシア、体調はもう大丈夫か?」
「え、ええ。頭もクラクラしないし、視界もくっきりハッキリですわ」
「そうか、それはなにより」
ベッドから立ち上がって辺りを見渡す。
太陽が半分ほど海に沈み、オレンジ色の優しい光が浜辺を照らしている。
「うん、焦点も定まってるみたいだな。ちゃんと薬が効いたみたいで良かったぜ」
わたくしの隣まで来て体調を確認してくれるミロス。
人狼族のミロスは全身がもふもふの毛で覆われていて、顔の形は人間のそれよりもオオカミや犬に近い。
「ミロスは大きいですわね」
「人狼族じゃあ平均的な方だがな。アーシアは少し、人間の中じゃあ小さい方か」
ミロスの大きくてぷにっとした肉球がわたくしの頭をぽんぽんと撫でる。
わたくしの顔の目の前にはミロスのもふもふのお腹が。
「わ、わたくしはまだまだこれから成長するのですわ!」
そのままなんとなくミロスのお腹に突撃すると、お屋敷のふかふかベッドに飛び込んだような気持ちの良い感触に包まれる。
うーん……ちょっと獣臭いかも。でも嫌な匂いじゃない。
「おいこら、離れろアーシア」
「あ~もふもふで気持ち良いですわ……もふもふで……ふかふか……」
「まったく。人狼族だからって、すぐ男に抱き着くのはだな」
「…………」
「おいアーシア、離れ……」
「……うぅ……ぐすっ」
「……アーシア?」
「うぅ……うわあああああん! 寂しかった……寂しかったですわ……っ! 島に、1人で、わたくし、なにも、できなくて……っ」
病み上がりで弱っていたのが良くなかった。
今まで考えないようにしてきたこと、我慢していた感情が一気にあふれ出てしまう。
「あー……ほら、大丈夫だ、ちゃんと食料も確保してたじゃないか。アーシアはよくやってた。それにこれからは二人だ、寂しくない」
「ああああああああ……っ!」
「ほら、そろそろメシも出来上がるから。一緒に食べよう、アーシア」
「ミ〝ロ〝ス〝ううううう……っ!!」
「あーもう可愛い顔がぐしゃぐしゃ……っておい! オレの腹に涙と鼻水を擦りつけるな!!」
…………。
………………。
「お魚美味しいですわ!」
「今泣いたカラスがもう笑う、だな」
「これはお魚ですわよ」
「お前さんのことだよ」
ミロスが焚き火の横で焼いていたのは枝に刺したお魚だった。
ひっくり返した貝も置いてある。こっちはアツアツなのでもう少し冷めたら食べよう。
「それにしても、どうやって火をおこしたんですの? ミロスは火魔法が使えるのかしら」
魚や貝は素潜りで獲れたものだと思うけど、このなにも無い島で火を起こす方法は、わたくしには魔法くらいしか思いつかなかった。
「いや、オレは魔法は使えない。だが火を起こす方法は知っている」
「そうなんですの? 是非とも、ご教授お願いしたいですわ」
「ああ、構わないぜ」
そう言うとミロスは腰に下げていた小さなポーチから、黒刃のナイフと細長い石のようなものを取り出した。
「オレが火起こしに使うのはこいつらだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます