第6話 毒キノコと介抱


「う、うう……やってしまいましたわ」



 食料を調達して拠点に戻り、そこで採ってきたキノコを食べた所までは覚えている。

気付いたら夜になり、わたくしは拠点近くの浜で気を失って倒れていたらしい。



「やっぱり、食べちゃいけないキノコでしたのね……」



 森で採ってきた黄色と赤のシマシマ模様が派手な謎のキノコ。

本当にどうしようもなくなったら食べようと思って一応採ってきたものだったのだけれど、森を歩き回ってお腹が空いていたわたくしは、少し齧るくらいなら大丈夫だろうと思ってひとくち食べてしまったのだ。



 火が使えないから生のまま、味付け代わりの海水にちょっと浸けてそのままパクリ。

結果、キノコはとても美味しかった。思わず毒の心配を忘れて二つ三つと食べてしまうほどに。



「頭が、ぐわんぐわんしますわ……」



 身体が火照っていたり、熱が出ていたりはしていないのだけれど、目を開けると視界が揺れてフラフラする。

とりあえず拠点の中までなんとか移動し、横になって体調が回復するのをじっと待つ。



「文字通り、目が回るとはこういう事ですのね……」



 もしかしたら焼いて食べれば大丈夫だったのかしら。

それとも海水になにか悪い成分が……そもそも危ないと分かっているものを安易に食べなければ……



「はあ……お腹が空いていて、目の前に食べられそうなものがあると理性が働きませんのね……」



 無人島生活二日目。

結局この日は、毒キノコを食べて気を失っただけで1日を無駄にしてしまった。



「明日こそ、水が手に入る場所を……見つけなければ……」



 焦点の定まらない視界の中、ぼやけた星空を見上げながらわたくしは眠りについた。



 ―― ――



 春期の初月、無人島生活3日目。天気:おそらく快晴。



「う、うう……」



 太陽の光を感じて起き上がろうとするも、身体がうまく動かせない。

視界も相変わらずのぐるぐるだ。



「おい、大丈夫か」



「み、みず……」



「水か? ちょっと待て……このビンの水は飲めるやつか?」



「の、飲めますの……」



「わかった、少し貰うぞ。ほら……ゆっくり口をつけろ」



 誰かがわたくしの背中を支えて上半身を起こしてくれる。なんだかもふもふの感触で気持ちがいい。

口元に葉っぱのような感触……言われた通り口をつけると、少しずつ口の中に水が流れ込んでくる。



「こく、こく……ふう。ありがとうですの」



「意識は割とはっきりしているのか。視界はどうだ? ちゃんと見えているか?」



「いえ、目がグルグル回って、ぼやけてしまいますわ……あの、あなたは……?」



「オレはミロス。アイル王国で傭兵をやっていた」



「アイル王国の、傭兵……」



「まあ、ケルディス戦争が終わるまでの話だ」



 ミロスの声はわたくしの後ろから聞こえてくる。背中にはもふもふの感触。

まるで大きなぬいぐるみにもたれかかっているような気分だ。



「ミロスは、人間ですの……?」



「ん? ああ、悪いな、毛むくじゃらでチクチクしたか?」



「いえ、もふもふに包まれて、なんだか安心しますの……」



「はっはっは! そうかそうか。オレは人狼族だからな」



 じんろう、ぞく……?

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