無理っす

@wlm6223

無理っす

 ホントに話しても分からんヤツってのはいるもんで「このままじゃいつまで経っても業務改善は見込まれませんよ」と何度忠告しても聞き入れてもらえないのだ。

「そこを何とかするのがお前たちプログラマの仕事だろうが!」と一喝されても、出来んものは出来んのですよ。

 私はSEだ。多くのSEがそうであるように私も派遣型のSE,通称「SES」をやっている。

 SESは半分会社員で半分フリーランスのようなもので、仕事が常にあるわけではない。というか、仕事の分量を自分で決められるのだ。

 一応会社に籍はあるのだが、その会社から「こんな案件来てますが、どうしますか?」と問い合わせがあり、ギャラと自分の技量を天秤にかけて仕事を選べるのだ。

 そりゃ、駆け出しの頃は仕事なんて選べなかったが、今はもうそれなりに高時給を取れる立場になった。最低でも時給五千円以上の仕事しか選ぶ気にはならんのですよ。

 金銭的には余裕もあるし、若い頃の無茶もあってちょっとした貯蓄もある。私の年齢を考えれば、そろそろ現場を退いてPL(プロジェクトリーダー)になる頃だ。会社側もそれを承諾してくれており、私に話しを回してくる案件もそれ相応のものになっていった。 で、PLともなると実際のコーディングは殆どしなくなる。それはプログラマーの仕事なのだ。

 ではPLは何をやっているかというと、設計自体はやるものの、プログラマーに指示を出し、顧客との折衝をすることになる。

 その顧客との折衝が面倒なのだ。

 プログラマー時代は言われた通りに動くプログラムを書いていけば良いだけだったが、顧客との折衝ともなると、今まで人間相手の仕事をしてこなかったため、その必要な交渉術を持っていないのだ。

 仕様決定の会議の場で、営業マンと一緒になるべく細かく仕様を決めるのだが、顧客は基本的にコンピュータ音痴だ。私がどれだけ話を噛み砕いても理解を得られない場合があるのだ。

 たとえばこんな例だ。

 従来は事務作業AからB,C、Dそして事務作業Eへとデータが流れているとしよう。

 新システムを導入すればBとCとDをすっ飛ばして直接AからEへ自動で行けますよ、と私がプレゼンする。

 それに顧客は難色を示すのだ。顧客だけではない。味方の筈のうちの営業マンも渋るのだ。

「これはちょっとした会社の構造改革、本来の意味での『リストラ』なんです」

 それを言うと、さらに渋面を作るのだ。

 十八世紀の産業革命以降、それまでの人間の手作業が機械に取って替わって来た。現代の事務作業でもそうだ。無駄な工程が多いのだ。

 私は何故こうなってしまったかのを知っている。

 オフィスにコンピュータが入り込んできたとき、従前の手作業の替わりをコンピュータに任せることにした。が、それは本当に人間の手作業の替わりをさせるだけで、会社の中でどのようにデータが生成され、どう加工され、最終的にどういった結果を生み出せばよいか、そういった「システム設計」がなされてこなかったからだ。

 企業側にしても、「じゃあ、このシステムを導入すれば十人解雇できますね」とは言えないのだ。

 企業の経営側は雇用を担保するのも仕事のうちだ。そうそう従業員の解雇なんて出来ない。

 しかし、それをやらないといつまで経っても会社の成長は出来ないのだ。

 今の会社が今後二倍の成長、五倍の成長、十倍の成長をするためには徹底的な合理化が必要なのだが、それで「コンピュータに仕事を奪われる」人が出現するのを恐れているのだ。

 で、顧客は顧客のほうで、「従前の仕事内容を変化させず、手間も増やさず減らさずシステムを構築してくれ」と言い出す。うちの営業マンもそれで落とし所がついた、と一安心する。

 具体的には古いシステムを解析してその通りに動く全く別のシステムへ載せ替える作業となるのだ。

 その古いシステムはもう十年以上も放置され、メンテナンスもされていなかった。そんなシステムの後釜を再構築するのは、やれば出来るがエンジニアとしての本意から外れる。そんなとき、私はこう言うのだ。

「無理っす」

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