第7話 開門
「いくぞ!」
そう言った瞬間に出現したそれ、
《黄泉の門》の放つ異質な神力が倉庫内に広がり、二人を呑み込む。
「!?」
「!?」
この世のものとは思えない禍々しい存在を背中で感じ取り二人の足が止まる。
《黄泉の門》
それは俺たちの生きる現実世界と怪異たちが住まう異世界、決して相容れぬことはないはずの二つの世界をつなぐ《門》。
世界を、空間を裂くように出現し、ひび割れた地面のような見た目をしているため、《裂け目》とも呼ばれており、神術師はそっちで呼ぶことが多い。
それはいつ、どこに出現するかは俺たち神術師でも予測することは難しく、特別な神具のみがその異質な神力を探知し、こっち側(現実世界)に《裂け目》が出現するより少しだけ早く探知することが出来る。
(師匠が言ってたのはこの事だったのか!!)
でもなぜ、師匠はあんなに焦って俺たちに離れるように言ったのか?それに―――
俺の中でもう一つの疑問が生まれるより先にさらなる異変が起こった。
俺はその光景に目を疑った。
師匠からこの場を離れるように、と電話がかかってきたのはついさっきの事。
探知石が《裂け目》の出現を予知したことを知った師匠が、俺たちの身を案じてすぐに電話をよこしたとしたら、、、
早すぎる。
通常なら探知されてから出現し始めるまでにもう少し時間がかかる。
だがそれはさほど問題ではない。
今、問題なのは《裂け目》がほぼすでに開ききっている事。
ほとんどの場合、こっちの世界にに《裂け目》が発生してから、怪異が出てこれる大きさになるまでどんなに早くても数時間はかかるはずなのだ。
師匠はこの事をわかっていたのか?だとしても……
これはまるで二年前の――――
頭が上手くまわらない。頭の中に何かが引っ掛かったまま思考がぐるぐると回る。
体中から冷たい汗がにじみ出て、汗が頬つたい地面に滴り落ちる。
「っ先輩、!」
堅吾の呼び掛けで意識が現実に引き戻される。
「っ、、ああ…すまねぇ」
(俺が取り乱してどうする!!堅吾は初任務だぞ!くそっ、情けねぇ、こんなんだからあの時だって…)
過去の後悔が掘り起こされそうになるが、頭を振り、余計な思考を取り払う。
堅吾は実際に《裂け目》が開くのを目の当たりにするのは始めてなはずだ。
「っ、これが…」
「ああ、《裂け目》、ここからやつらが出てくる、」
少し落ち着き取り戻した俺は冷静に素早く状況を把握する。
電話があったのはついさっき。探知石が《裂け目》の発生を探知したのがその少し前だとしても、応援の術師が来るまでに早くても20分はかかるか、、、
最悪を避けるためにどうするか。
今俺がすべき事は……
「堅吾!俺が《裂け目》を一時的に封じる!お前は近隣の人たちをできるだけ遠くへ!!」
「封じる?!そんなこと出来んすかっ!?」
【封印の札】
一時的に《裂け目》が開くのを遅らせたり、やつらがこっち側に来るのを防ぐことが出来る神具だ。
各神術師に最低一枚は配布されている手のひらサイズの紙切れで、術師の力量によらず、《裂け目》の近くで、神力を流し込むだけで一定の効果が得られる。
一昔前の結界術の達人が編み出したものらしい。だが、まだ試作段階だったらしく、完全なものを作っている途中で急死してしまったらしい。
そのためか、欠点もある。
一つ、効果時間が限られること。
二つ、強大な神力をもつ怪異には破られてしまうこと。
だが、少なくとも応援が来るまでの時間稼ぎにはなるだろう。
すぐにやつらが出てこないという保証はない!
だから早く、
たのむからまだ出てくんなよ!、
そう思い、懐から【封印の札】を取り出し《裂け目》に向かって走り出すが、その願いも虚しく―――
「っ!、遅かった!!」
俺は走り出した足を止め大きく後ろに飛ぶ。
やつらが、人一人ほどの大きさの赤黒い《裂け目》から、その異形の姿を露にした。
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