第一章 死ノ予感

第6話 《緊急事態》


 

 「うわ!結構ボロボロっすね。」


 俺たちは、廃工場の隣にある、おそらく倉庫として使われていたであろう場所から調査を始める。


 放置されてから何十年も経っているのだろう、金属の部分はほとんど錆びて老朽化し、ツタが壁の大部分を覆っている。


 いつ天井が崩れてもおかしくないような状態だ。


 「あ、おい!堅吾!あんま勝手に行動すんなよ!ここ今にも崩壊しそうだし。」


 「それくらい大丈夫っすよー!」


 たしかに、堅吾なら天井が落ちてきても痛いくらいで致命傷になったりはしないだろう、が、もう少し緊張感をもってほしい。


 俺が言えたことでもないし、ただの調査だからしょうがないといえばそうなのだが。

 

 「あれ?あんなとこに…子供、?ちょっとみてくるっす!」


 倉庫の奥の方に行っていた堅吾が、壁の一部が崩れて光が差し込んでいる方を指差し、小走りに行ってしまった。

 

 俺からは見えなかった。


 「あ、ちょっと…」


 こんな所に子供?そんな気配はしなかった。


 もしいたとしたらここは危ないから近寄らないよう言わなければ。


 と、少しすると堅吾が戻ってきた。


 「誰かいたか?」


 「いやぁ~、誰もいなかったっす。チラッと見かけたんすけど…」


 「寝てないから幻覚でもみたんじゃないか?」


 俺は少し冗談めかして言った。


 「うーん、たしかにが……」


 「まぁいい。さっさと終わらせるぞ~」


 倉庫の中央に立った俺は、目を閉じふぅーっと息をひとつ吐くと、


 【天眼通】


 神力を目に集中させ、周囲の神力の探知にも神経を注ぐ。


 すぐ側に感じる神力がひとつ。


 これは堅吾のものだ。

 

 そして俺は探知範囲を最大限広げる。

 

 廃工場にとくに異変はない。


 「ふぅ~、終ったぞ。やっぱり探知石の誤作動だったぽい。」


 「?なにしたんすか?」


 あれ?堅吾知らなかったのか?支部は全部俺に丸投げか…


「これは、【天眼通】っていってな、神術師の基本技術のひとつだ。というかお前は意識しなくても多少は出来てると思うぞ?」


そう、【天眼通】とは神術師の基本。あらゆる生き物に備わっている神力、を知覚し感じ取る力。


 扱う神術師の練度によって精度や効果範囲には差がある。

 

 だが、大抵の神術師は慣れれば特別意識しなくても使えるもの、人が歩くときに歩き方をいちいち考えないのと同じだ。


 だが俺はこれを意識してやらないと上手く扱えない。


 俺が落ちこぼれだと言うのも分かるだろう。

 

「どうせなら堅吾も少しやってみるか?」


 いい機会だ。俺でも基本的なやり方くらいは教えられる。


「まじすか!おねがいしゃす!!」


「そうだな、まずは……」



 そう言いかけたとき、ポケットに入れていたスマホに着信があり、電子音が倉庫内に響く。



「ちょっとごめんな、」


 と堅吾一言ことわってから電話にでる。



 着信 師匠



 師匠から電話なんて珍しいな。


 

 「もしもし、師匠から電話なんて珍し――――」


「おい遥斗!!おめぇ今どこにいる!!?」


 俺の声を遮るように聞こえてきたのはいつもの気だるい声ではなく、ドスの効いた低い怒鳴り声だった。


「え、、調査任務で神野支部から南に向かったとこの廃工場にいますけど、、今ちょうど終わって―――」



「くそっ!今すぐそこから離れろ!!」


 話の意図が読めない。


「どう言うことですか?しかもそんなに焦って、、」


「つべこべ言ってねぇで俺の言う通りにしろ!死にたくなかったらな!今こ、、、の探知石が、、、、、を、、、、、門が、、裂け目が――――」

 


 ツー、ツー、ツー、


「っ!、師匠!?師匠!?」


 突然電波が悪くなり電話が切れてしまった。


 ただ、師匠の焦り具合から何か異常事態が起こった、ということは分かった。


「おい堅吾!今すぐここから離れるぞ!説明はその後だ!!」


 スピーカーにはしておらず、堅吾は電話の内容を聞いてなかったので、話を呑み込んでくれるまで時間がかかるかと思ったが、


「!?わ、わかったっす!」


 ワケわからずといった顔はしていたがすんなりと言うことを聞いてくれた。


 「いくぞ!」



 そして二人で倉庫から出ようとした瞬間、、は突如として出現した。


 

 







 


 







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